記事・レポート
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第8回
なぜ、人は宇宙をめざすのか?
宇宙の人間学~「宇宙の視座」を獲得した人類~
更新日 : 2017年05月16日
(火)
第5章 若田光一さんが体現した「和の心」
宇宙は人を結びつける「聖域」になる
樋口清司: 科学技術が飛躍的な発展を遂げたことで、宇宙に関する様々な謎が解明されています。その一方で、科学技術の発展や宇宙への進出は、人間や社会を幸せにするのか? そのような疑問も浮かんできます。
的川泰宣: 現在の地球が抱える様々な問題を乗り越えていくために、科学技術は必要です。しかし、それだけでは複雑な問題は解決できない。だからこそ科学技術とともに、哲学や芸術、心の領域など人類が育んできた知を活用しながら、現代における「人間学」を議論していくことが重要になる。その議論のベクトルを揃える際に、「宇宙」が重要なキーワードになると考えています。
また、「宇宙の人間学」研究会の目的には、日本人にしかできない世界への貢献の仕方を考えることも含まれています。その先行例となったのが、2013年11月から2014年5月にかけ、日本人として初めてISSの船長を務めた若田光一さんです。
当時、宇宙にいる若田さんから届いたメールを見ると、ちょっとした緊張感がうかがえます。その頃地球ではウクライナ問題が勃発し、米ロが対立していたからです。ISSの乗組員はアメリカ人とロシア人。ISSでもこの問題が話題になったそうですが、そんな時に若田さんは「和の心」を通して見事にチームをまとめ上げたそうです。
古代ギリシャには「オリンピック停戦」がありましたが、当時の人々にとってのそれは争いの上位にある「聖域」になっていた。同様に、オバマさんとプーチンさんも互いに牽制し合っていながらも、ISSの話題には一切触れなかった。なぜなら、宇宙という共通のテーマがあったからです。宇宙に関する研究は、基本的に国際協力の下で行われています。そう考えれば、宇宙というテーマには様々な違いや争いを超えて、人と人とを結びつける「聖域」になれる可能性がある。
そして今後、日本の若い世代が世界に貢献しようとした時に、どのような形で貢献できるのか。その1つのあり方を若田さんが示してくれたわけです。
清水順一郎: 「宇宙の視座」で考えることのメリットは、様々な物事を相対的に捉えられようになることだと思います。そうなれば、互いの違いを認め合い、相手を受け入れることもできるようになり、地球で起こる様々な問題も、従来とは異なる視点で考えられるようになるはずです。
宗教的対立が起こる理由の1つは、各々の宗教を絶対化して考えてしまうことにあります。例えば、以前は太陽や地球は絶対的な存在だと考えられてきましたが、生命存在の可能性を持つ系外惑星が発見されたおかげで、「太陽や地球も、数あるうちの1つ」と相対的に捉えられるようになった。これと同じ感覚を自分の心に「基準」として持ち込むことができれば、地球を取り巻く様々な問題についても、必ず解決の糸口が見えてくるはずです。
高柳雄一: 私はよく、子どもたちに対して「不思議」という言葉を使いますが、私たちが暮らすこの地球も、宇宙も、いまだに不思議だらけです。科学の力を使って不思議の理由を探していくと、新たな謎が見つかり、それを解明してもますます謎が増え、不思議がさらに膨らんでいく。言うなれば、科学とは不思議を増やしていく学問であるとも言えるのです。
私は子どもたちに「好奇心の賞味期限が切れていないのは宇宙である」という話をよくします。どこまでいっても、宇宙の謎は尽きない。そして面白いことに、宇宙の謎が解き明かされていくほど、私たちは地球や人間について深く考えていくことになる。こうしたことに気づくことができれば、心は柔軟かつ豊かに育っていき、地球上の誰もが仲良く暮らしていける道も見つかるだろうと思います。
清水順一郎: 「宇宙の視座」で考えることのメリットは、様々な物事を相対的に捉えられようになることだと思います。そうなれば、互いの違いを認め合い、相手を受け入れることもできるようになり、地球で起こる様々な問題も、従来とは異なる視点で考えられるようになるはずです。
宗教的対立が起こる理由の1つは、各々の宗教を絶対化して考えてしまうことにあります。例えば、以前は太陽や地球は絶対的な存在だと考えられてきましたが、生命存在の可能性を持つ系外惑星が発見されたおかげで、「太陽や地球も、数あるうちの1つ」と相対的に捉えられるようになった。これと同じ感覚を自分の心に「基準」として持ち込むことができれば、地球を取り巻く様々な問題についても、必ず解決の糸口が見えてくるはずです。
高柳雄一: 私はよく、子どもたちに対して「不思議」という言葉を使いますが、私たちが暮らすこの地球も、宇宙も、いまだに不思議だらけです。科学の力を使って不思議の理由を探していくと、新たな謎が見つかり、それを解明してもますます謎が増え、不思議がさらに膨らんでいく。言うなれば、科学とは不思議を増やしていく学問であるとも言えるのです。
私は子どもたちに「好奇心の賞味期限が切れていないのは宇宙である」という話をよくします。どこまでいっても、宇宙の謎は尽きない。そして面白いことに、宇宙の謎が解き明かされていくほど、私たちは地球や人間について深く考えていくことになる。こうしたことに気づくことができれば、心は柔軟かつ豊かに育っていき、地球上の誰もが仲良く暮らしていける道も見つかるだろうと思います。
該当講座
六本木アートカレッジ これからのライフスタイルを考える 「なぜ、人は宇宙をめざすのか?」
清水順一郎(「宇宙の人間学」研究会事務局/代表)×的川泰宣(JAXA名誉教授)×高柳雄一(多摩六都科学館館長)×樋口清司(前JAXA副理事長)
人はどうして宇宙に憧れるのか? そして、テクノロジーの進化により「宇宙ステーション」という視座を得ました。また、太陽系以外の存在が明らかになるにつれ、地球外生命の存在や、他星での居住可能性などが議論されるようになってきています。
研究や技術が進化し、ユニバース(単一宇宙)からマルチバース(複合宇宙)という新たな視座が生まれたことがその理由です。
地球ではない場所で人や動植物のような生命体が存在するとしたら、果たしてそもそも「生命」とはどういう定義になるのでしょうか?地球という有限な惑星に生きる私たちは、これからどのように多様化し、社会生活を営んでいくのでしょうか?人間らしさはどのように変容していくのでしょうか?
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第8回
なぜ、人は宇宙をめざすのか?
インデックス
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第1章 「宇宙の人間学」のはじまり
2017年05月15日 (月)
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第2章 「新しい宇宙観」の幕開けの時代
2017年05月15日 (月)
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第3章 宇宙に関わる人が持つ3つの心
2017年05月15日 (月)
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第4章 知のフロンティアにおけるアートの役割
2017年05月16日 (火)
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第5章 若田光一さんが体現した「和の心」
2017年05月16日 (火)
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第6章 「宇宙時代」の日本人の役割とは?
2017年05月16日 (火)
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