記事・レポート
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第8回
なぜ、人は宇宙をめざすのか?
宇宙の人間学~「宇宙の視座」を獲得した人類~
更新日 : 2017年05月15日
(月)
第3章 宇宙に関わる人が持つ3つの心
これからは宇宙の時代がやってくる
的川泰宣: 本日のテーマに入る前に、「なぜ、私は宇宙という分野を選んだのか?」についてお話ししたいと思います。きっかけは、大学で専攻を選ぼうとしていた時です。当時は特段、宇宙に関心があったわけではありませんが、何らかの分野を選んで結果的に仕事がうまくいかなくなった時、人のせいにしないで生きていけるようにしなければ、とは考えていました。
専攻を選ぶにあたり考えたのは、「自分はどのような時代を生きてきたのか?」。最初に思い浮かんだのは、小学生の頃に起きたスターリンの死です。新聞の巨大な見出しに驚いた私は、親父に「どういう人なの?」とたずねました。すると、親父はしばらく黙り込み、「怖い人だ」とだけ言いました。その光景が思い浮かんだのです。
次に浮かんだのは、同じく小学生の頃、初めて天体望遠鏡で見た月です。今でも目を閉じれば思い出せる、満月を少し過ぎた、陰影感のある美しい月。そして中学生の頃、「ペンシルロケット」のニュースを見ました。親父や兄貴の口ぶりに「これから新しい時代がやってくる」という期待感があったことを覚えています。高校に入った頃、人工衛星スプートニク1号のニュースを見て、人間がつくったものが宇宙に行ったことに心底驚きました。
自分の生きてきた時代を振り返ると、不思議なことに宇宙のことばかり思い出した。私は「これからは人間が宇宙に進出していく時代なのだ」と思ったわけです。
もう1つ考えたのは、「自分の適性は何だろうか?」。広島県呉市で育った私は、よく海で夜釣りをしては、海面ではなく夜空を眺めていました。私が気になったのは、星までの距離。当時、「今見ている星の光は、実は大昔にピカッと光ったものだ」と学校で教えられ、非常に驚きました。
自分が見ている夜空は、二次元的で無機質なものではなく、立体的で奥行きのあるものなのだ。空に浮かぶ星の間を縫っていけば、色々なことがわかる。宇宙のずうっと向こうまで行ってみたい……。そうしたことも思い出し、自分にはそんな学問が向いているのだろうと思ったわけです。
大学では「なぜ、星は赤い色や青い色なのか?」と言う人に出会いました。「なぜ、もっとよく見える望遠鏡がないのか」と言う人もいました。同じ星を見ても、抱く疑問、わき出す興味が異なることがとても不思議でした。私の場合、どちらかと言えば「冒険心」ですが、色が気になる人は「好奇心」、機械や装置にこだわる人は「匠の心」。宇宙に関わる人は、3つの心のいずれかを持っているのだと知りました。
この3つの心は必ず組み合わさり、チームをつくります。「はやぶさ」プロジェクトも、3つの心を持つ人たちが協力したからこそ、成功を収めた。あらゆる時代の人間社会でも、3つの心によるチーム活動によって、未来に進むための推進力を得てきたのだと思います。
基本的に人は「自分の命、人生を輝かせたい」という想いを根底に持っています。私は広島という土地で生まれたこともあり、幼い頃から「自分だけが輝くこと以上に、人々が幸せに生きられることがいちばん大切だ」という確信めいた想いを持っていました。
宇宙を人類の共通価値として、3つの心を合わせ、みんなが幸せに輝けるような社会をつくりたい。とはいえ、道を誤ってしまえば、科学技術の発展や宇宙への進出が、人類に不幸な結果をもたらす可能性もあります。また、科学技術は普遍性の基準になり、最も合理的であると考えることもできますが、それだけではやはり、どこかで壁に突き当たってしまうでしょう。
宇宙に対して、未来の幸せな暮らしを思い描く人。環境問題の解決策を求める人。政治の世界で宇宙を活用しようとする人。そして、科学者は宇宙に真理というものを求めている。宇宙に対して求めるものが異なる人たち、さらには3つの心を持つ人たちが集まってチームを組み、いろいろな角度から宇宙や地球、生命、人間の未来について一緒に考えていく。それが今後は大切になると思います。
大学では「なぜ、星は赤い色や青い色なのか?」と言う人に出会いました。「なぜ、もっとよく見える望遠鏡がないのか」と言う人もいました。同じ星を見ても、抱く疑問、わき出す興味が異なることがとても不思議でした。私の場合、どちらかと言えば「冒険心」ですが、色が気になる人は「好奇心」、機械や装置にこだわる人は「匠の心」。宇宙に関わる人は、3つの心のいずれかを持っているのだと知りました。
この3つの心は必ず組み合わさり、チームをつくります。「はやぶさ」プロジェクトも、3つの心を持つ人たちが協力したからこそ、成功を収めた。あらゆる時代の人間社会でも、3つの心によるチーム活動によって、未来に進むための推進力を得てきたのだと思います。
基本的に人は「自分の命、人生を輝かせたい」という想いを根底に持っています。私は広島という土地で生まれたこともあり、幼い頃から「自分だけが輝くこと以上に、人々が幸せに生きられることがいちばん大切だ」という確信めいた想いを持っていました。
宇宙を人類の共通価値として、3つの心を合わせ、みんなが幸せに輝けるような社会をつくりたい。とはいえ、道を誤ってしまえば、科学技術の発展や宇宙への進出が、人類に不幸な結果をもたらす可能性もあります。また、科学技術は普遍性の基準になり、最も合理的であると考えることもできますが、それだけではやはり、どこかで壁に突き当たってしまうでしょう。
宇宙に対して、未来の幸せな暮らしを思い描く人。環境問題の解決策を求める人。政治の世界で宇宙を活用しようとする人。そして、科学者は宇宙に真理というものを求めている。宇宙に対して求めるものが異なる人たち、さらには3つの心を持つ人たちが集まってチームを組み、いろいろな角度から宇宙や地球、生命、人間の未来について一緒に考えていく。それが今後は大切になると思います。
該当講座
六本木アートカレッジ これからのライフスタイルを考える 「なぜ、人は宇宙をめざすのか?」
清水順一郎(「宇宙の人間学」研究会事務局/代表)×的川泰宣(JAXA名誉教授)×高柳雄一(多摩六都科学館館長)×樋口清司(前JAXA副理事長)
人はどうして宇宙に憧れるのか? そして、テクノロジーの進化により「宇宙ステーション」という視座を得ました。また、太陽系以外の存在が明らかになるにつれ、地球外生命の存在や、他星での居住可能性などが議論されるようになってきています。
研究や技術が進化し、ユニバース(単一宇宙)からマルチバース(複合宇宙)という新たな視座が生まれたことがその理由です。
地球ではない場所で人や動植物のような生命体が存在するとしたら、果たしてそもそも「生命」とはどういう定義になるのでしょうか?地球という有限な惑星に生きる私たちは、これからどのように多様化し、社会生活を営んでいくのでしょうか?人間らしさはどのように変容していくのでしょうか?
六本木アートカレッジ・セミナー
シリーズ「これからのライフスタイルを考える」第8回
なぜ、人は宇宙をめざすのか?
インデックス
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第1章 「宇宙の人間学」のはじまり
2017年05月15日 (月)
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第2章 「新しい宇宙観」の幕開けの時代
2017年05月15日 (月)
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第3章 宇宙に関わる人が持つ3つの心
2017年05月15日 (月)
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第4章 知のフロンティアにおけるアートの役割
2017年05月16日 (火)
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第5章 若田光一さんが体現した「和の心」
2017年05月16日 (火)
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第6章 「宇宙時代」の日本人の役割とは?
2017年05月16日 (火)
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