国際経済の最前線を追う、作家黒木亮直伝!
取材の心構えと作品づくりの裏側!
【前編】小説のテーマは3つのクライテリアの重なりで決まる!
国際金融マンとしての経験から、様々な情報や人脈を活用して多くのヒット作を生み出す黒木亮氏。30年にわたり積み上げてきた、取材や執筆のノウハウを特別に公開します!過去の取材経験から得た知識はもちろん、最新作『国家とハイエナ』における情報収集の苦労話や取材エピソードなど、作品にまつわる最新情報もお伝えします。
講座開催日時:2016年11月8日(火)19:00~20:30
スピーカー:黒木亮(小説家)
~プロフィール~
『巨大投資銀行』、『エネルギー』、『トリプルA』、『鉄のあけぼの』など、数々の経済小説を世に送り出し続けています。
数々のヒット作品を世に送り出してきた黒木亮氏ですが、作家として日々何を考え、世界に溢れる様々な情報から、どのようにテーマを選び、執筆しているのでしょうか。作家黒木亮氏の仕事論に迫ります。
小説のテーマは
3つのクライテリアの重なりで決まる!
小説の評価を大きく左右するのがテーマ。黒木流のテーマに関する考え方についてお話いただきました。
小説のテーマを決めるときは、常々「3つのクライテリア」を念頭に考えます。それらの基準の輪が重なりあったところをテーマにしています。「3つのクライテリア」について、私の作品を例に挙げて見てみましょう。
1つ目は「言葉はわかるが詳細が知られておらず、世の中の関心が高いテーマ」。
例えば、2005年に上梓した『巨大投資銀行』ですが、当時の日本では、「投資銀行」という言葉を聞いたことはあっても、具体的にどのような業務をしているのかを知らない人が圧倒的に多い状態でした。読者の関心が高いテーマだと確信し、そのテーマをもとに作品を書いたところ非常にヒットしました。
2009年に刊行した『排出権商人』も「排出権」という言葉が世の中で聞かれるようになった頃で、読者の「知りたい」という欲求を察知しテーマとして採用しました。
2つ目は「自分の心に響くテーマ」。
『鉄のあけぼの』は川崎製鉄初代社長の西山弥太郎さんのことを書いた作品です。
西山氏のことを調べていたとき、終戦直後の日本が荒廃している状況下において、西山氏が夢や希望、そして決意にあふれた気持ちを語った記事を読み、非常に感動しました。それを機に、西山氏に関心を持ち執筆しました。
また、『排出権商人』を書いたときには、ジェトロ(日本貿易振興機構)の方に「うちで排出権をやっている奴がいるから、話を聞いてほしい」と言われました。実際にお話を伺うと、「牛や豚の糞が排出権になるんです」というのです。これは、牛や豚の糞から出るメタンガスを回収し、大気中への排出を防げば、その分の排出権を得られるという仕組みです。それをいわれた瞬間、排出権が身近で生々しいものに感じられ、小説の題材としようと決めました。
3つ目は「日本人に伝える意味があるテーマ」。 日本人にとって大きな出来事を記録として伝えておかなければならないという使命感から、こうした社会性の高い内容をテーマとして選んでいます。
作品の裏側には、
現場取材に懸けるひたむきな努力があった!
テーマが決まると取材に向けて本格的に動き出します。
そこで黒木亮氏に執筆における取材の重要性についてお話いただきました。
経済小説を執筆するうえで、現場での取材はとても重要です。デビューした直後、経済小説の大先輩である高杉良さんに「第三者の経験を取材して書けないと作家はやっていけないよ」と言われました。これは全くその通りで、情報がゼロの状態から取材をして、原稿を執筆できるようにならなければ、経済小説家は務まりません。
デビュー作の国際協調融資について書いた『トップ・レフト』は自分の体験で書き、2作目の『アジアの隼』は自分のベトナム駐在時代の話と取材を合わせて書きました。これらは自分の体験で書いたので、作家としてやっていけるかどうかは自信が持てませんでした。3作目の『小説エンロン』は自分が全く知らないテーマに挑戦し、100%取材して作品を書きました。「これなら自分は小説家としてやっていけるな」と確信し、3年続けた商社マンと作家の二足の草鞋を辞め、46歳で作家専業になりました。
作家デビューしても続かない人が多い理由は、自分の経験だけで小説を書こうとしているからだと思います。私は小説で取り上げる国や地域にもできる限り足を運びます。取材さえすれば、アイディアがなくて執筆できないことはありません。それほどに、現場でとことん取材をして情報収集することは、作品づくりにおいて重要です。
現場を知ることの重要性をお伝えしたところで、現場をよく知るための取材のポイントをご紹介しましょう。
◆ノートと鉛筆はいつでも必須
経済小説家である城山三郎さんや吉村昭さんらは皆、ノートと鉛筆を持って1人で日本中を、あるいは世界を歩き回っていました。私も気づけばいつでもノートと鉛筆を持って世界中を歩きまわる作家になっていました。
◆基本的に取材は一人で行い、1作につき30名以上に取材をする
私は1作品を執筆する際、30名以上の方々と接触します。多くの人に取材することによって、面白いエピソードを発掘できるだけでなく、取材相手の話の内容の矛盾に気づくケースもあり、ストーリーの信ぴょう性を高められます。経済小説は裏の話を書くだけでなく、取引の仕組みや手順、業界の仕組みなどの専門知識など、本を読んでも分からないこともストーリーの中で説明しなくてはなりません。したがって、人から直接詳しい話を聞き、事実をもとに説得力のある文章を執筆します。
また、小説の楽しみのひとつでもあるのが情景描写。現地に足を運んで取材することで、どんな風景が見えるか、そこにはどんな空気が流れていて、どんな風の匂いがするか、どんな人々がいてどんな暮らしをしているか、話しかけられたらどんな反応をするかなど、五感を全開にしてしっかり見てはじめて、人の心に響く文章に繋がるのだと思います。
◆取材拒否でも必ず一粘り、二粘り
取材はなかなか思い通りには進みません。「ご遠慮ください」と冷たく追い払われることもあります。取材をしたことがある人は誰でもハエかダニのように扱われた経験があると思います。私は20~30回に1回程度ですが、これが新聞記者になると3~4回に1回、週刊誌の記者はほぼ毎回でしょう。取材を断られるのは2~3回に1回ですが、1回断られても引き下がっていては仕事になりません。一粘りすると4人に1人ぐらいは受けてくれます。
取材先は知人の紹介や取材させてもらった人の紹介など様々なパターンがあります。一方、どうしても取材をしたい相手への伝手がなく、一からターゲットを探すときは大変です。名前はわかっているものの、日本のどこにいるのか全くわからないという場合もあります。その場合は、図書館で得た情報、電話帳、紳士録、名簿、人づてに得た問い合わせ先などをヒントに取材したい相手を見つけてコンタクトします。大阪の探偵事務所に問い合わせたこともありました。
取材で話を聞き、現場を見るのはもちろん、並行して主題に関する様々な知識のインプットが必要不可欠です。情報整理のノウハウについてもご紹介します。
◆資料を大量に読む
図書館には頻繁に足を運びます。1作品を執筆する際は、だいたいス—ツケース2箱分くらいの資料と、100冊ほどの本に目を通します。同時進行で3作品書いているときもあるので、途中で情報が入り乱れることも。頭の中をクリアにし、情報を整理するために手控えを作っています。例えば、主人公の属性や風貌、生年月日、どの場面を書くときはどの資料のどこを見るかなどを手控えに書いておきます。
資料集めはほとんど自分で行いますが、必要に応じて、データマンにお願いすることもあります。日本だけでなく英語や中国語やロシア語のできる人に海外で情報を集めてもらうこともあります。
【コラム】
「何故ロンドンに住んでいるのですか?」とよく聞かれます。ロンドンには金融マンが多く、日本にないような媒体も多いので、世界の情報を集めやすいという利点が一つです。また、図書館に行けば、日本で読めないような本や雑誌を無料で閲覧できます。
さらに、ロンドンにいるときは基本的に缶詰め状態で執筆するので、周囲からの誘惑もなく効率良く執筆活動に没頭できます。
該当講座
黒木亮(小説家)
「巨大投資銀行」「エネルギー」「排出権商人」「トリプルA」の著者黒木亮氏。「ビジネスにおいても作家業においても、情報収集が成功の鍵。本質は同じ」と語る黒木氏が、国際金融マン時代から30年間にわたり実践してきた情報収集、整理、執筆のノウハウを紹介します。
国際経済の最前線を追う、作家黒木亮直伝!
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インデックス
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