スタジオジブリ最新作「レッドタートル ある島の物語」を手掛けた
マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督と高畑勲監督が特別対談!
アニメーションの源泉と作品秘話に迫る
【前編】アニメーションの源泉
お互いをリスペクトし合うマイケル監督と高畑監督をゲストに迎えた対談。マイケル監督の想像力を掻き立てる魅力に溢れた創作の源泉を探ります。マイケル監督の代表作「岸辺のふたり」の舞台でもあり同監督の出身地であるオランダという土地、影響を受けているという日本文化や死生観など、お話は多岐に渡りました。
開催日2016年09月01日 (木) 19:30~21:00
スピーカー:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット(アニメーション映画監督)
高畑勲(アニメーション映画監督)
プログラム進行:武田美樹子(スタジオジブリ海外事業部)
~対談の前に、ちょっと予習!~
(1)「レッドタートル」につながった、マイケル監督短編最高傑作「岸辺のふたり」 2000年度米国アカデミー賞短編アニメーション映画賞を受賞した同監督の作品が「岸辺のふたり(原題:Father and Daughter)」。8分間の中に、父を想い続ける娘の一生が凝縮されているこの作品の虜になった高畑監督とジブリの鈴木敏夫プロデューサー。マイケル監督の長編を見てみたいと思った鈴木氏が、「スタジオジブリで長編映画をつくりませんか」とラブコールし、「レッドタートル」へとつながった。
(2)マイケル監督は、ジブリだからこそ引き受け、自分の作品の特徴との融合を図った ジブリから長編をやらないかと言われたときに、マイケル監督は「本当にびっくりしましたし、素晴らしい、早くやりたい!」と思ったとのこと。また、ジブリと自らの作品の共通点を繊細さと捉えるとともに、自然に対する敬愛、そのなかにある人間の有様といったテーマ性の追及にも類似点を見いだしていたそうです。
魅力的で現実感のある動きの表現
高畑監督: 「岸辺のふたり」を初めて見た方は、ものすごくたくさんのことを見逃してしまっているはずです。そのくらいたくさんのものが内包されています。ですから、何度も繰り返し見てほしい映画です。
まず、マイケルさんの作品の大きな魅力のひとつが、動きの表現です。お父さんを見送る時の女の子の動き、もしくは「お坊さんと魚」の僧侶の動きもそうなんですが、実際のリアルな動きと違うにも関わらず、見事な現実感があります。こうした動きをどうやって確立してきたのでしょうか?
マイケル監督: 子どものころから、身のまわりの自然の中で、鳥や昆虫、トカゲなどを観察していました。
アニメーターが動きを作っていくと、ステレオタイプに陥りやすくなります。動きの魅力を相手に伝えるときは、ダンサーが心を込めて踊る時、気持ちが湧き出るような動きになるのと共通するのではないかと考えています。
シンプルで簡潔な表現スタイル
高畑監督: あんなに簡潔な絵なのに、干拓堤防の内側、オランダのポールダーの広がる風景とその構造を、きわめて的確に描きだしています。「レッドタートル」でも、自然やお話をいかに簡潔に整理して描くか?という工夫がされています。このスタイルをどのように確立したのでしょうか?
マイケル監督: 母はアーティストだったのですが、特別アートについて教えるようなことはありませんでした。でも、彼女から刺激を受けたことは確かだと思います。私が12歳のころ、母からロダンの絵を見せられました。それは1本の線で身体の輪郭を描いたもので、その技法のとりこになりました。その後ずっと心に残っていて、それが私の表現方法の出発点になったと思います。また、ロンドンのアニメスタジオにいた25歳の時、17世紀か18世紀の日本の僧侶が書いた禅画をまとめた本に出会い衝撃を受けました。白隠慧鶴(はくいんえかく)「布袋図(ほていず)」や、南天棒(みなみてんぼう)「托鉢僧行列図(たくはつそうぎょうれつず)」などを見て、このような方向性で絵を描いていきたいと思いました。
高畑監督: どう衝撃を受けたのですか?
マイケル監督: 冷静で、自然で、成熟し、簡潔なライン。ロダンの絵を見た時以上の衝撃でした。
日本絵画における線とマイケル監督の線
高畑監督: 日本には空間や余白を活かした絵があります。12世紀の「鳥獣戯画」、雪舟の「破墨山水図(はぼくさんすいず)」、長谷川等伯の「松林図屏風」などです。
マイケル監督の作品も、空白が見事に生かされているのですが、実は、日本人の絵と大きく違うところがあると思うんです。マイケル監督の絵は、線で描いているように見えますが、ただの線ではなく影になっています。そういうことで空間を作っているんですね。
マイケル監督: もともと筆というのは、好きな道具の1つです。アニメーションで、筆の線を動かしていろいろ実験したこともあります。筆の線で光と影、その美しさを表現していることは確かだと思います。線の太さで太陽の高さを表現することもできます。また、筆が作るシミのようなものも単純に美しいと思います。線の揺れが人物と溶け込むところも美しいと思います。
マイケル監督の死生観の表現
高畑監督: 「岸辺のふたり」も「レッドタートル」も人生を語っています。「岸辺のふたり」のラストシーンについてですが、日本人には意外と受け入れやすい死生観になっています。こういったことはキリスト教などではあまり表現されないように思いますが、どのように考えられたのでしょうか?
マイケル監督: 私は、プロテスタントとカソリックが共存する環境で育ちました。このシーンは個人的見解です。若いころ死を間近に体験することがあり、自分なりに死のとらえ方を考えるようになりました。自分が理解しようとした死がラストシーンに現れたのだと思います。
本や小説で繰り返されているテーマですが、私自身、二人の人間が別れ、再会する話が好きなんです。スピリチュアルな意味だけでなく、この映画の根底には出会いと別れのテーマがあったと思います。
高畑監督: マイケル監督の周囲の人は、ラストシーンをどのように受け止めたのでしょうか?
マイケル監督: こうした仕事をしていると、知らない人からメールをもらうことも少なくありません。その中に、死別した肉親を持つ方や、新人看護師の教育のため、死を語る教材としてこの作品を使っているというメールを頂くこともありました。ラストシーンを死という概念で見ていない人もいますし、観る人の死のとらえ方の違いもあると思います。
高畑監督: 日本では、「天国で父が見ている」という表現や、先に死んだ夫の写真に「私ももうすぐ行きます」と言って、死んだらすぐに会えるという捉え方もあります。日本では、死に対する捉え方が自由であると思います。そういう点で「岸辺のふたり」の女の子が最後若返っていくのは、お父さんにどの時代の自分を観てほしいか?ということを表していて、我々の考えとぴったりくると思います。
該当講座
マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット(アニメーション映画監督)
高畑勲(アニメーション映画監督)
構想10年、制作8年の歳月を経て、スタジオジブリでは初となる海外制作作品『レッドタートル ある島の物語』が完成しました。想像力を掻き立てる魅力に溢れた創作の源泉とは?そして、作品の舞台でもありマイケル氏が育ったオランダという土地、影響を受けているという日本文化や死生観など、高畑氏との対談で、その秘密にせまります。
スタジオジブリ最新作「レッドタートル ある島の物語」を手掛けた
マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督と高畑勲監督が特別対談!
インデックス
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【前編】アニメーションの源泉
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