記事・レポート

サイエンスシリーズ~宇宙の最前線

宇宙はどのように始まり、これからどうなるのか?

更新日 : 2016年08月10日 (水)

第8章 宇宙に生物は存在するのでしょうか?


 
天文学者も真剣に研究

会場からの質問(1): 「アンドロメダ銀河と天の川銀河が衝突する」というお話がありましたが、宇宙が膨張していれば、銀河も離れていくはずですが、なぜ衝突するのでしょうか?

小松英一郎: 例えば、僕とあなたの距離は、宇宙が膨張していても離れていきません。なぜかといえば、地球のように物質がたくさんある場所は、膨張する力よりも圧倒的に重力による引力のほうが強く影響するからです。同様に、宇宙の広さから考えれば、アンドロメダ銀河と天の川銀河はいうなれば“ご近所さん”であるため、膨張する力よりも引力が強く影響し、結果としてどんどん近づいているのです。

会場からの質問(2): 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)で観測した宇宙の全天分布図が登場しましたが、なぜ温度の低い(青い)部分に物質がたくさん集まるのでしょうか?

小松英一郎: 実際にたくさん集まっている様子を見たわけではありませんが、理由としては、物質がたくさん集まる場所から光が脱出しようとする際、エネルギーを失うからです。宇宙の温度が絶対温度で3,000度以上だった頃、物質と光はバラバラに振る舞っていたとお話ししましたが、3,000度まで冷えた時、光は物質がある場所から逃げ出そうとします。その際に光はエネルギーを失い、温度が下がる。だから、温度が低い所=物質がたくさんある場所、となります。

会場からの質問(3): ここでお聞きするのも恐縮ですが、広い宇宙のどこかに「生物」は存在するのでしょうか?

小松英一郎: 個人的には「いないはずはない」と思っていますが、研究者の立場としては、実際に存在を確認するまでは「いる」と断言することはできません(笑)。

現在、宇宙全体を見渡すことはできませんが、観測可能な範囲には1,000億個もの銀河があります。また、1つひとつの銀河には星が1,000億個あります。さらに、その星々の周りには複数の惑星があります。僕達はその惑星の1つ、地球に住んでいるわけです。無数に銀河や星があるのだから、いないわけはないだろうと思います。

1つ問題になるのが、生物をどのように定義するのか、です。人間のような複雑な生命体か、単細胞の生命体かなど色々と考えられますが、天文学者は地球上の生物に近い生命体が住んでいる星を探しています。

例えば、液体の水がある星。実際、候補となる星は数多く見つかっています。あるいは、水とともに大気がある星。水と大気があれば、何かしらの生物が生まれそうですよね。世界中の天文学者がこうしたことを真剣に研究しており、見つかるのは時間の問題だと思います。ただし、現段階では実際にその星に行き、調べることはできないため、生命体が存在できる環境が整っている、ということまでしか分かりません。(了)


気づきポイント

●CMBの観測により、誕生間もない頃の宇宙は灼熱の「火の玉」だったことがわかった。
●宇宙を形づくるものの7割は、物質ですらない正体不明の「暗黒エネルギー」。
●現在の宇宙は、減速もせず、一定でもなく、“加速度的”に膨張している。

該当講座


六本木アートカレッジ 宇宙論の最前線〜私たちは宇宙をどこまで理解したのか〜
六本木アートカレッジ 宇宙論の最前線〜私たちは宇宙をどこまで理解したのか〜

小松英一郎(マックスプランク宇宙物理学研究所所長/カブリ数物連携宇宙研究機構上級科学研究員)
宇宙の“始まり”や“終わり”とはどのようなものなのでしょうか? そして宇宙を構成している成分は何か? 宇宙の進化とは? これらを研究するのが「宇宙論」です。過去20年間に宇宙論は爆発的な進展を遂げてきました。特に観察装置の進化により、これまで見えなかった宇宙が見えるようになってきたのです。本講演では、最新の宇宙で起こっている信じ難い現象を紹介するとともに、研究者がいかにして解き明かしてきたかをお話しいただきます。