記事・レポート

国連(UNHCR)が挑む難民支援の仕事

アカデミーヒルズ サマースクール 夢中になれることを見つけよう

更新日 : 2015年07月15日 (水)

第4章 故郷を離れて避難するとしたら、何を持っていく?


 
「知る」ことが最初の一歩になる

守屋由紀: 皆さんが、やむを得ず故郷を離れなければならないとなったら、何を持っていきますか? 自分の家の近くに突然、銃弾や爆弾が飛んできて、すぐに逃げなければならないとなったら……。

「お水」。たしかにお水は重要です。避難所にたどり着けば、お水をもらえるかもしれませんが、逃げる途中でお水が手に入るかどうかは分かりません。人間はお水がないと生きてはいけませんし、世界には安全な飲み水を確保することが難しい場所もたくさんあります。

「食べ物」。それも大切です。例えば、アフリカでは難民を生み出す問題の根元に、食糧不足が横たわっているケースがたくさんあります。また、とても悲しい話ですが、避難時に食べ物がない時、最初に犠牲となるのは体力のない赤ちゃんや高齢者です。

実はこの質問は、私がこうした講演を行う際に必ず行っているものです。答えとして多いのは「思い出が詰まった大切な写真、家族(一緒に逃げたい)、免許証、携帯電話、インターネットにつながる機器など。もちろん、水や食べ物も入っています。さらに「心」と答えた方もいました。やむを得ず故郷を離れることになっても、故郷で育まれた自分の心はどこまでも大切に持っていきたい。そう語ってくれました。

実は、シリアから逃れてきた難民の人達にも同様の質問をしたところ、答えは日本と同じでした。大切な人と連絡をとるための携帯電話、水、食べ物、家族。本当に悲しいことですが、逃げる途中で家族と離ればなれになった人、家族が殺されたがために避難しなければならなかった人もいます。そうした人達は、家族の思い出が詰まった写真を肌身離さず持ち歩いています。シリアの難民と、皆さんの答えはほぼ同じ。暮らす場所や状況は違えども、考えることや大切にしたいものは共通する。つまり、同じ人間なのです。

日本では、日本人に関連しないニュースはあまり取り上げられません。しかし、世界ではいまこの瞬間にも様々な問題が生まれており、難民となる人も増え続けています。こうした問題は、いつ、どこで起こっても不思議ではありません。もしかしたら、私達もある日突然、難民になる日がやってくるかもしれないのです。

世界の問題を身近に感じるためにも、「知る」ことが最初の一歩になります。テレビや新聞で報じられるニュースの背景を知れば、興味や関心が生まれます。さらに、報道されなくなった後も、「あの人達はどうしているだろう」と思いを馳せることもできるようになり、その国の文化や言葉を学びたいと思うようになるかもしれません。

迫害や紛争など、難民を生み出してしまう原因は、いずれも人間にあります。ならば、人間の力でそれらを解決することもできるはずです。一人の力は小さくとも、また、遠く日本に暮らしていても、できることはたくさんあります。UNHCRのホームページでも、難民に関する情報や、日本から参加できる取り組みなどをご紹介しています。お父さんやお母さんと一緒にご覧ください。そしてぜひ、最初の一歩を踏み出してほしいと思います。(了)



気づきポイント

●難民が平和で安全に、家族と一緒に暮らせるようになるための支援を行うのがUNHCRの仕事。
●世界で起こっている問題を身近なものとして感じるためには、「知る」ことが最初の一歩になる。
●難民を生み出す最大の原因は人間にある。だから、人間の力でそれらを解決することもできる。

関連リンク

  (過去行われたイベント情報ページへのリンクです)