記事・レポート

伊藤穰一:逸脱からはじまる「学び」の実践

MIT Media Lab CREATIVE TALK「Learning Creative Learning」より

キャリア・人グローバル
更新日 : 2013年08月09日 (金)

第10章 Joiが思い描く30年後の未来

伊藤穰一(MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長)

 
BOPにおける学び

会場からの質問: 例えば、30年後の学びを考えたときに、BOP(Base of the pyramid)など現在は教育システムが確立されていない国の変化に興味があります。Joiさんは、BOPを含む世界の学びはどのように進化していくと考えていますか?

伊藤穰一: 実は、最も教育システムが変えやすいところは、教育システムがないところ。最も変えづらいのは、日本など教育システムがガッチリと固まっているところです。

学びの進化に向けた動きは、すでに起きています。認知科学や人工知能の研究者で、MITの客員教授でもあるスガタ・ミトラ氏がインドのスラム街で行った「Hole in the wall」という有名な実験があります。スラムの街角の壁にコンピュータを埋め込み、誰でも勝手に使えるようにしたところ、街の子どもたちが瞬く間にそれを使いこなすようになり、読み書きを覚えていったのです。学校があったら成立しない実験です。

MITメディアラボの創設者であるニコラス・ネグロポンテ教授は、タブレットで読み書きが学べるパソコン(※編注)を開発し、アフガニスタンやエチオピアなどの都市部の学校と、学校のない村に配りました。結果、何でも自由にできる学校のない村の子どものほうが、読み書きを学ぶのが早かった。学校のほうは、パソコンに詳しくない先生が自分の知識の範囲内で教えようとしたため、子どもの学びも深まっていかなかった。こうした興味深い結果も得られています。

すべてが学びのチャンスになる

伊藤穰一: もう1つ言えるのは、デトロイトのように制約条件が多い場所で開発されたもののほうが、バリューが高いもの、力強いものが生まれること。例えば、インドで成り立つプロダクトは、世界中で通用するものになる。けれども、アメリカで成り立つプロダクトは、いわゆる先進国だけでしか通用しません。

今後はあらゆるもののコストが下がり、誰もが簡単にイノベーションを起こせるようになるため、BOPにはものすごく大きな可能性があるのです。人口が多いため、彼らが色々なことを学びはじめたら、あちこちでイノベーションが起きるようになるでしょう。

30年後を考えてみたとき、便利な生活に慣れきったような人たちと、どのような環境でも知恵を出してたくましく生きられるような人たちとの間に、1つの違いが生まれると感じています。食べるものも使えるエネルギーも減っていったとき、私たちはとてもそれを苦しいと感じるでしょう。しかし、BPOの人々は自らが起こすイノベーションによって課題を解決し、日々楽しくなっているような気分になる。そんな未来がやってくるかもしれないのです。

だから、私たちは学び続けなければなりません。自分の軸となる考え方をきちんと確立できさえすれば、世界中のあらゆる場、出会う人みなが、学びのチャンスとなります。子どもも大人も、好奇心を持ち続けることが、学びのはじまりになるのです。

※編注
One Laptop per Child(OLPC)
ニコラス・ネグロポンテを中心とするNPO「One Laptop per Child」(OLPC)が、「XO」と呼ばれる100ドルパソコン($100 laptop)を開発。頑丈かつ手軽に持ち運べるこのパソコンを、開発途上国の子どもたちに提供することで、新たな学びの形を生み出している。

<気づきポイント>

●もはや「地図」は役に立たない。いま必要なのは優秀な「コンパス」。
●本当の学びは、純粋な興味によってドライブされた行動から生まれる。
●変化へのヒントは、ポジティブな逸脱の中に隠れている。



該当講座

Learning Creative Learning

~MITメディアラボで実践している「学び」への挑戦~

Learning Creative Learning
伊藤穰一 (MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長)

伊藤 穰一(MITメディアラボ所長)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第1回は、MITメディアラボ所長の伊藤穰一(Joi Ito)氏をお招きして、MITメディアラボの"Learning Creative Learning"プログラムを題材に、「教わる」から「学ぶ」をどう実践していくかについて考えます。


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