記事・レポート
伊藤穰一:逸脱からはじまる「学び」の実践
MIT Media Lab CREATIVE TALK「Learning Creative Learning」より
キャリア・人グローバル
更新日 : 2013年07月31日
(水)
第6章 イノベーションの力で街を変える
共創の中で育まれる学び
伊藤穰一: 最近は様々な分野で、デザインという言葉が使われるようになりました。デザインと言えば、古くはIndustrial Designを指しました。これは作る側を中心としたデザインの考え方です。そこから、User Centric Design、Participatory Designなどの言葉が生まれてきましたが、最近注目されているのがCo-design。多種多様な人々による共創。その中にも新たな学びの形があります。
MITメディアラボでは昨年、Co-designについて1つの実験をしました。それは、研究者やエンジニア、デザイナーからなるチーム「Innovators Guild」を組織し、世界各地のコミュニティに出かけて、Co-designによるイノベーションを通して様々な問題を解決しようという試みです。最初の焦点となったのは、自動車産業の街として有名なデトロイトでした。
デトロイトは近年、自動車産業の衰退とともに、失業率や貧困率が高まり、全米有数の犯罪都市となっています。私たちはこの街でShakaという人物に出会いました。「このエリアにいる男性のほぼ100%が、一度は刑務所に入っている。それが街の現実だ」と彼は語りました。こうした環境を何とか改善しようと、Shakaを中心とした街の人々とのCo-designが始まったのです。
誰もが等しく持つ学びへの渇望感
伊藤穰一: 街の人々と話し合ううちに「街に電灯がないので、夜になると危険で歩けない」というテーマが浮かび上がりました。しかし、鉄やステンレスで作ると盗まれて転売されてしまう。電線から電気を取るのも、市の許可を得るのが非常に面倒だと言う。ならば、プラスチック製の太陽電池型電灯はどうかとなりました。しかし彼らは「そうではない。僕らは互いの姿が確認できれば安全なんだ。すべての道を明るく照らす必要はない」と言うのです。さらに、「資金もないのに、太陽電池なんてどうやって手に入れるんだ? この街で入手できるパーツでなければ意味がない」と言いました。
近所のお店に行くと、安くて小さな懐中電灯が売っていました。これを使って、私たちは地元の人々と一緒にワークショップを始めました。参加した子どもたちに、我々のチームのエンジニアが懐中電灯を分解する方法や、電気が光る仕組みなどを説明し、はんだ付けの方法なども教えました。すると、子どもたちはあっという間にオリジナルのライトを作り上げてしまいました。さらに、作り方を教え合い、最終的に多くの人がライトを身につけて街を歩くようになったのです。
街の人々は好奇心が旺盛で、頭の回転も飲み込みも早い。けれども、生活する環境がとても悪い。だからこそ、自分たちでも創造できる、何かを生み出せると体感させ、自信を持たせることに大きな意義があったのです。
私たちが驚いたのは、チームのメンバーが示したデザインプロセスに興味を持ち、それを専門的に勉強したいと言う人が現れたり、パソコンに触れたことがない人が数日で使いこなすようになったりと、人々がものすごい勢いで興味と学びをドライブさせていったこと。私たちにとって、それは非常に興味深く、刺激的な光景であり、この街でしか体験し得なかった学びでした。
現場に行き、人々との対話から本当のニーズを引き出し、そこでしか手に入らないものを使い、現場の人々と一緒につくる。その中で、現地の人々は自分たちが可能性を持っていることを学びました。そして私たちは、Co-designが現実の世界にインパクトを与える有効な手段であることを学んだのです。いまではラボにいる学生たちも「デトロイトに行くのが一番勉強になる」と言っています。
伊藤穰一:逸脱からはじまる「学び」の実践 インデックス
-
第1章 生涯学び続ける時代がやってきた
2013年07月19日 (金)
-
第2章 AIの時代に求められる基本原則
2013年07月22日 (月)
-
第3章 MITメディアラボは「大人の幼稚園」
2013年07月24日 (水)
-
第4章 興味はどこから生まれるのか?
2013年07月26日 (金)
-
第5章 新たな学びを生むオンライン・コミュニティ
2013年07月29日 (月)
-
第6章 イノベーションの力で街を変える
2013年07月31日 (水)
-
第7章 目指すのは、予定調和ではない学び
2013年08月02日 (金)
-
第8章 「変な人」を許容する社会が必要
2013年08月05日 (月)
-
第9章 ポジティブな逸脱を見つけよう
2013年08月07日 (水)
-
第10章 Joiが思い描く30年後の未来
2013年08月09日 (金)
該当講座
Learning Creative Learning
~MITメディアラボで実践している「学び」への挑戦~
伊藤穰一 (MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長)
伊藤 穰一(MITメディアラボ所長)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第1回は、MITメディアラボ所長の伊藤穰一(Joi Ito)氏をお招きして、MITメディアラボの"Learning Creative Learning"プログラムを題材に、「教わる」から「学ぶ」をどう実践していくかについて考えます。
BIZセミナー
グローバル キャリア・人
注目の記事
-
11月20日 (水) 更新
aiaiのなんか気になる社会のこと
「aiaiのなんか気になる社会のこと」は、「社会課題」よりもっと手前の「ちょっと気になる社会のこと」に目を向けながら、一市民としての視点や選....
-
10月22日 (火) 更新
本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2024年10月~
毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。新刊書籍の中から、今知っておきたいテーマを扱った10冊の本を紹介しま....
-
10月22日 (火) 更新
メタバースは私たちの「学び」に何をもたらす?<イベントレポート>
メタバースだからこそ得られる創造的な学びとは?N高、S高を展開する角川ドワンゴ学園の佐藤将大さんと、『メタバース進化論』を出版されたバーチャ....
現在募集中のイベント
-
開催日 : 12月17日 (火) 19:00~20:30
note × academyhills
メディアプラットフォームnoteとのコラボイベント第1回。近著『きみのお金は誰のため』が25万部超のベストセラーとなっている、社会的金融教育....
「そもそもお金って何?未来をつくるためのお金の教養」
-
開催日 : 11月28日 (木) 19:00~20:30
World Report 第10回 アメリカ発 by 渡邊裕子
いま世界の現場で何が起きているのかを、海外在住の日本人ジャーナリスト、起業家、活動家の視点を通して解説し、そこから見えてくることを参加者の皆....
「ハリス V.S. トランプ 米国大統領選挙結果を読み解く」