石黒不二代：　情報のプラットフォームで大切なのは、利用者や生活者といった一般の方たちと常にコミュニケーションが取れるプラットフォームをつくることです。それからもう1つ、自分だけで売ろうとしないことです。例えばAppleのApp StoreやiTunesは、サードパーティのディベロッパーがアプリケーションやゲームをつくってくれたり、楽曲を提供してくれたり、そして、それがプラットフォームの上に乗ってくる仕組みです。インターネットは数ですから、サードバーティが参加すればするほど、このプラットフォームが強くなるというわけです。

Android（Googleの携帯端末用OS）も同じです。GoogleはこのOSの上に広告のプラットフォームをつくっています。Androidを使うと、広告から得られた利益が分配される仕組みになっているので、アメリカの携帯会社がGoogleのAndroidを使い始めました。OSが無料だからという理由だけで使っているわけではなく、自分たちも利益を得ることができるから参加する、すると数の勝負でAndroidの魅力が高まる。すごくいいエコシステムができています。

こういう話をすると「今から参入しても、もう遅いんじゃない？」とよく言われますが、私は「むしろ今からです」と言っています。なぜならインターネットはずっとリニアに成長しているわけではなく、そのときどきで大きな発明や変化が起きているからです。

例えばみんなが携帯電話やスマートフォンを使っている光景を、いつでもどこでも見かけるようになったのは、ここ1、2年のことですよね。昔は電車で携帯電話を使っているのは高校生ぐらいでした。それが今では、おじさんまでも——ごめんなない（笑）、みんな使っています。このように環境が変わる、市場が変わる、ユーザーの行動が変わるときこそチャンスであり、企業の投資時期だと思います。

日本には楽天という大きなECプラットフォームをつくっているところがあります。「楽天があんなに大きいと、もう参入できないな」と皆さんは思いがちですが、そんなことはありません。「私はブランドにしか興味がない」という人にとっては、楽天はお店がありすぎて困っていました。だからブランドに特化したZOZOTOWNができたんです。ZOZOTOWNは2004年スタートですから、歴史はそんなに古いものではありません（楽天は97年スタート）。なのに今、何百億と売り上げています。彼らは生産者ではなく、小売です。小売りで何百億の売り上げがあるのです。楽天が天下を取って終わりかと思ったけれど、そうじゃないということです。

検索エンジンのGoogleも同じです。「情報が多すぎて分からない」「知らない人のサイトを見るより、Facebookで友達と話しているほうがいい」と言う人が増えています。アメリカではページビューの25％がFacebookという調査結果もあるほどです。Facebookは閉じたアプリケーションですから、Googleはその中を解析できません。これが何を意味するかというと、単純に言うと、Googleは100％から75％しか解析できない時代になったということです。プラットフォームビジネスに「終わり」という言葉はないんです。

「なるほど、分かった。じゃあTwitterをやって、Facebookでファンページをつくればいいんですか？」と、みなさんおっしゃいますが、それでは絶対に儲かりません。ソーシャルメディアは必要条件であって、十分条件ではないからです。プラットフォームビジネスの成功の鍵は、ソーシャルとパートナーが参加してくれるシステムをつくり、その中でエコシステムを構築すること。そして、プラットフォームの裏にあるデータに意味をもたせて分析していくことです。これについてはAmazonを例に、具体的にお話しします。