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小説は、真実を語る? ~経済小説の“虚実皮膜”~
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更新日 : 2011年11月08日
(火)
第4章 銀行・金融関連を素材にした作品の数々(1)
澁川雅俊: 経済小説の素材の中心は、なんといっても銀行を含む金融関連分野の作品でしょう。金融関係分野とは、消費者金融、クレジットカード、ノンバンク、投資会社、国際金融、先物、証券、生命・損害保険、不動産、格付会社、監査法人などを含んでいます。『経済小説の読み方』や『この経済小説がおもしろい!』には多くの作家とその作品が解説されていますが、ここではライブラリー所蔵の本、かつて所蔵していた本を中心に取り上げることにします。
世代順に銀行・金融分野の書き手を紹介すると、高杉良(1939-)がいます。前に挙げた『虚構の城』は彼のデビュー作で、もう35年以上書き続けている経済小説の巨匠です。この分野の最近のものを挙げると、巨大生命保険会社の内情を鋭く抉った『腐蝕生保<上・下>』、長期にわたるバブル崩壊を背景にした金融大再編に生き残りを賭けたメガバンクの苦悩をリアルに綴った大作『呪縛 金融腐蝕列島2』と『消失 金融腐蝕列島完結編』があります。
江波戸哲夫(1946-)は、都市銀行や出版社に勤務後、作家となり、政治・経済などを題材にした創作活動を展開しています。これまでに十数点に上る作品を出していますが、銀行・金融関連も多く、最近のものでは、リーマン・ショックの金融危機に立ち向かったメガバンクの銀行家や行員たちの物語を描いた『ジャパン・プライド』、大手不動産会社を退職した父と新興IT企業の使い捨てプログラマーの息子が経済氷河期の乗り越えに強い意志で挑戦する物語である『起業の砦』があります。
高杉良は作家になる前、石油業界紙の編集者でしたが、経済小説の作家のほぼすべてが、何らかのビジネスにかかわっており、そのときの企業知・業界知、ミクロ・マクロでの経済体験が小説の素材となっています。
前に女性ビジネスパーソンの観点から取り上げた幸田真音(1951-)もその1人です。彼女はいま、政府のさまざまな審議会の委員に就任したり、NHKの経営委員をしたり、TVやラジオに出演したり、おそらく関連の作家の中で最も著名でしょう。その前歴は、米国系銀行や証券会社に勤めていた金融ビジネスパーソンで、おそらく自分のことを書いたのでしょう、国際金融取引現場の緊迫した日々を描いた『ザ・ヘッジ 回避』(95年講談社)で作家に転身しました。
銀行・金融関連作品としては、日本の国債の先行きに警鐘を鳴らしてベストセラーになった『日本国債〔上・下巻〕』、損失先送り商品、債権回収、バルク買いなどにかかわる不良債権の内幕を描いた『凛冽の宙』、上海を舞台に膨張する巨大市場・中国に挑む若き日本人ファンドマネージャーの活躍を描いた『周極星』、脱税などでつくった裏金を使い原油先物取引で巨額の儲けを得たサラリーマンの欲望と悲哀を描いた『タックス・シェルター』などがあります。
江上剛(1954-)は、高杉良の『金融腐蝕列島』のモデルとなった銀行に勤めた経験があり、最後には取締役兼代表執行役社長に就任しています。前に歴史に残るバンカーの実名小説『我、弁明せず』『成り上がり』を挙げましたが、バブル崩壊後から噴き出し続ける銀行の膿を巨細に描ききったデビュー作『非情銀行』、金融再編で合併したフィナンシャルグループの裏側に渦巻く抗争やスキャンダルを描いた近著『告発の虚塔』、『さらば銀行の光』などもあります。非常に多作な作家で、銀行員の傍ら約30点の小説と10点ほどのビジネス啓蒙書を出しています。
大学時代箱根駅伝で走ったことがあり、『冬の喝采』という自伝的小説を出した黒木亮(1957-)も元銀行員であり、多作な作家です。前に挙げた『エネルギー』のほかに銀行・金融小説を幾つか書いています。とりわけ巨額な融資案件に際して、単独・全額引受けを目指すウォール街の鷲と、四行で共同引受けを目指すグループとの闘いを描いた『トップ・レフト ウォール街の鷲を撃て』でこの作家はブレークしました。
以来数々の作品を次から次へと発表しています。急成長を続けるアジア市場で香港の証券会社と米国の大手銀行を相手に激しい闘いを繰り広げた邦銀の行員を描いた『アジアの隼』、人の弱みにつけ込み詐欺まがいのビジネスを企む男たちのカネへの執念を描いた短編小説集『カラ売り屋』、過剰融資や危機管理など、悪徳かつ旧弊な体質の銀行と、それに挑む元銀行員との対決を描いた『貸し込み<上・下>』などのほか、最近『トリプルA 小説 格付会社<上・下>』を出し、本来は投資家の目となり耳となってナビゲートすべき役割を担っていた格付ビジネスの、利潤追求ぶりを警告しています。
相場英雄(1967-)は日本銀行・財務省・金融庁そして大手都市銀行の腐敗の構造に対抗するシナリオを描いた『デフォルト 債務不履行』でダイヤモンド経済小説大賞を受賞して以来、何点かの銀行・金融小説を出しています。最近その続編で、とりわけリーマン・ショック後の日本経済の隠された実情を描いた『金融報復 リスクヘッジ』を出しています。
なおこの作家は、金融関連記者という前歴の知識や経験をフルに活かし、一人の新聞記者を主人公とした一連の<みちのく>ミステリーを書いています。現在までのところ『奥会津三泣き因習の殺意~みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎~』『佐渡・酒田殺人航路』『完黙』『誤認』『追尾』『偽計』の6点が出されており、私の生まれ故郷も物語の舞台となっていることもあり、最近立て続けに完読しました。基本的なミステリー作品とはいえ、それらを読むと銀行や金融ビジネスのイロハがよくわかります。
高杉良
世代順に銀行・金融分野の書き手を紹介すると、高杉良(1939-)がいます。前に挙げた『虚構の城』は彼のデビュー作で、もう35年以上書き続けている経済小説の巨匠です。この分野の最近のものを挙げると、巨大生命保険会社の内情を鋭く抉った『腐蝕生保<上・下>』、長期にわたるバブル崩壊を背景にした金融大再編に生き残りを賭けたメガバンクの苦悩をリアルに綴った大作『呪縛 金融腐蝕列島2』と『消失 金融腐蝕列島完結編』があります。
江波戸哲夫
江波戸哲夫(1946-)は、都市銀行や出版社に勤務後、作家となり、政治・経済などを題材にした創作活動を展開しています。これまでに十数点に上る作品を出していますが、銀行・金融関連も多く、最近のものでは、リーマン・ショックの金融危機に立ち向かったメガバンクの銀行家や行員たちの物語を描いた『ジャパン・プライド』、大手不動産会社を退職した父と新興IT企業の使い捨てプログラマーの息子が経済氷河期の乗り越えに強い意志で挑戦する物語である『起業の砦』があります。
幸田真音
高杉良は作家になる前、石油業界紙の編集者でしたが、経済小説の作家のほぼすべてが、何らかのビジネスにかかわっており、そのときの企業知・業界知、ミクロ・マクロでの経済体験が小説の素材となっています。
前に女性ビジネスパーソンの観点から取り上げた幸田真音(1951-)もその1人です。彼女はいま、政府のさまざまな審議会の委員に就任したり、NHKの経営委員をしたり、TVやラジオに出演したり、おそらく関連の作家の中で最も著名でしょう。その前歴は、米国系銀行や証券会社に勤めていた金融ビジネスパーソンで、おそらく自分のことを書いたのでしょう、国際金融取引現場の緊迫した日々を描いた『ザ・ヘッジ 回避』(95年講談社)で作家に転身しました。
銀行・金融関連作品としては、日本の国債の先行きに警鐘を鳴らしてベストセラーになった『日本国債〔上・下巻〕』、損失先送り商品、債権回収、バルク買いなどにかかわる不良債権の内幕を描いた『凛冽の宙』、上海を舞台に膨張する巨大市場・中国に挑む若き日本人ファンドマネージャーの活躍を描いた『周極星』、脱税などでつくった裏金を使い原油先物取引で巨額の儲けを得たサラリーマンの欲望と悲哀を描いた『タックス・シェルター』などがあります。
江上剛
江上剛(1954-)は、高杉良の『金融腐蝕列島』のモデルとなった銀行に勤めた経験があり、最後には取締役兼代表執行役社長に就任しています。前に歴史に残るバンカーの実名小説『我、弁明せず』『成り上がり』を挙げましたが、バブル崩壊後から噴き出し続ける銀行の膿を巨細に描ききったデビュー作『非情銀行』、金融再編で合併したフィナンシャルグループの裏側に渦巻く抗争やスキャンダルを描いた近著『告発の虚塔』、『さらば銀行の光』などもあります。非常に多作な作家で、銀行員の傍ら約30点の小説と10点ほどのビジネス啓蒙書を出しています。
黒木亮
大学時代箱根駅伝で走ったことがあり、『冬の喝采』という自伝的小説を出した黒木亮(1957-)も元銀行員であり、多作な作家です。前に挙げた『エネルギー』のほかに銀行・金融小説を幾つか書いています。とりわけ巨額な融資案件に際して、単独・全額引受けを目指すウォール街の鷲と、四行で共同引受けを目指すグループとの闘いを描いた『トップ・レフト ウォール街の鷲を撃て』でこの作家はブレークしました。
以来数々の作品を次から次へと発表しています。急成長を続けるアジア市場で香港の証券会社と米国の大手銀行を相手に激しい闘いを繰り広げた邦銀の行員を描いた『アジアの隼』、人の弱みにつけ込み詐欺まがいのビジネスを企む男たちのカネへの執念を描いた短編小説集『カラ売り屋』、過剰融資や危機管理など、悪徳かつ旧弊な体質の銀行と、それに挑む元銀行員との対決を描いた『貸し込み<上・下>』などのほか、最近『トリプルA 小説 格付会社<上・下>』を出し、本来は投資家の目となり耳となってナビゲートすべき役割を担っていた格付ビジネスの、利潤追求ぶりを警告しています。
相場英雄
相場英雄(1967-)は日本銀行・財務省・金融庁そして大手都市銀行の腐敗の構造に対抗するシナリオを描いた『デフォルト 債務不履行』でダイヤモンド経済小説大賞を受賞して以来、何点かの銀行・金融小説を出しています。最近その続編で、とりわけリーマン・ショック後の日本経済の隠された実情を描いた『金融報復 リスクヘッジ』を出しています。
なおこの作家は、金融関連記者という前歴の知識や経験をフルに活かし、一人の新聞記者を主人公とした一連の<みちのく>ミステリーを書いています。現在までのところ『奥会津三泣き因習の殺意~みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎~』『佐渡・酒田殺人航路』『完黙』『誤認』『追尾』『偽計』の6点が出されており、私の生まれ故郷も物語の舞台となっていることもあり、最近立て続けに完読しました。基本的なミステリー作品とはいえ、それらを読むと銀行や金融ビジネスのイロハがよくわかります。
小説は、真実を語る? ~経済小説の“虚実皮膜”~ インデックス
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第1章 小説は真実を語る
2011年11月01日 (火)
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第2章 初期の経済小説と実名小説
2011年11月04日 (金)
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第3章 資源獲得競争や原発がテーマの小説
2011年11月07日 (月)
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第4章 銀行・金融関連を素材にした作品の数々(1)
2011年11月08日 (火)
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第5章 銀行・金融関連を素材にした作品の数々(2)
2011年11月10日 (木)
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第6章 経済小説、その他のレパートリー
2011年11月11日 (金)
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