猛暑を乗りきる!──涼しさをもたらしてくれる6冊
年々暑くなっているような、この季節。身体だけでなく心まで水分が持っていかれ萎んでしまう日々、乗りきるだけでも一苦労をしいられてしまいます。
しかし、どうせならこの暑さを逆手にとり、酷暑のさなかだからこそ本から得られる知の喜びもきっと、あるのでは──。その想いが今回の選書の土台になりました。
効果的な睡眠や、風通しに焦点をあてた科学的アプローチ。あるいは、食べることや「爽やかなのにほろ苦いあの頃」に想いを馳せるような角度から。はたまた、奇談・怪談など、あらゆる方向から避暑を目指すことで苦を退けて、知的好奇心が揺すぶられる内容そのものによって喜楽をおぼえる本をご紹介します。
本を手に取るきっかけ、ひいては暑気払いのきっかけとして、ご覧ください。
『働くあなたの快眠地図』
「暑くて眠れなかった……」と、ため息が度々聞こえるこの季節。空調や寝具といった物質的解決策をもって入眠に挑むも撃沈してしまうことは、きっと皆さんもご経験済みかもしれません。では、どうしたら?──答えは、「『快眠は人生にとってよい』という自分の中での意味づけが変わること」。(259頁)
その理由や過程は、本書にて「快眠地図」として展開されてゆきます。大切なのは、推奨睡眠時間や理想的生活習慣といった世間に広まる「常識」以上に、睡眠の重要性や臨む態度といった考え方。今すぐ実践できる簡単メソッドはもちろん、睡眠への取り組みを根本から支える思考を、分かりやすい文章と挿絵で網羅し解説してくれる一冊です。
読後見つかる「あなた」にとって最適な睡眠を手に入れること。それが、真夏をはじめオールシーズンを制する一番の近道と言っても言い過ぎではないでしょう。
『ハーブカレー:
やさしい! さわやか! 新感覚!』
睡眠に続いて、暑気に悩まされるのは食のこと。「なかなか食欲が湧かない……」と唸っても献立が浮かばずどうしよう──。そんなときでも、するっと食べられ栄養も摂れる救世主は、ハーブカレー。身体にやさしく美味しくて、何と言っても爽やかで。調理もスパイスカレーに比べて実は簡単だから、気だるい日でも気軽に作れてしまうのです。
カレー研究家による行き届いたレシピの数々に留まらず、ハーブカレーの特色やカレー以外のハーブ応用料理の紹介までを写真付きで揃えた一冊が、夏の食生活を豊かなものに仕上げます。 ホットでスパイシーなカレーも夏によいけれど、清涼や爽快をまとったカレーこそ猛暑の裏道へ行けてしまう魔法の一手となるかもしれません。
『台湾レトロ氷菓店』
「冰菓室(ビングォスー)」。かき氷やアイスを提供する、台湾の庶民的飲食店のこと。暑いときにひんやりしたものを頬張ることは、どの国でも欠かせません。 けれどそこは、お客が氷菓を求めるだけでなく、友人と雑談をしに来たり好きな人と一緒に来たり、涼味と一緒に物語が綴られる場所でもあるのです。
それは、お店の人たちも同じ。代替わりをしても、半世紀以上変わらぬ想いで立ち続け迎え続ける──。
本書は、今なお台湾の人びとにとって、かけがえのない安息地として明かりを灯し続ける「冰菓室」の氷菓や店主、店のことを写真と文章で紹介したエッセイ集。暑さがいつの間にか、心地よい温かさに変わっている優しい一冊です。
なお原題は『遙遠的冰菓室』。著者いわく「遙遠」は「消え去った時間であり、触れることのできない距離である」(270頁)。
人と氷菓、似たもの同士なのかもしれませんね。
『ふしぎで美しい水の図鑑
水のさまざまな表情をたのしむ』
私たちが住む地球は「水の惑星」と言えましょう。海や空、川や雨となり自然界をめぐり、あらゆる生きものがあずかり暮らしてゆくために不可欠な水──。
本書ではその水のあらゆる姿──大気や雲の中にいるところ、光る海や波の花、温泉水やはたまた氷、霜の姿など広範に変化する理由や状況を、元高校教諭の著者が分かりやすい語りにて紹介してくれています。そして平明な解説はもとより、特筆すべきはオールカラーの写真の数々。水々の冴えるような、清涼と透き通る清潔を帯びた姿からは、自然の純粋と美のみならず、うだるような倦怠を昇華してくれるような気すら感じさせてくれます。 不思議とめくって眺めるだけで、たちまち涼に浸り暑気を払ってくれる一冊です。
『図解 風の力で住まいを快適にする仕組み』
水の次は、風。快適に夏を越えるためにはこの現象も大切です。そこで、どのような設計や環境を施せば我が家に澱みなき通風経路を作れるのか……といったことだけではなく、そもそも風の効用は何なのかを問うことから始まる点が本書の特徴です。
もちろん建築関係の仕事や学生を対象にしたような設計に関する専門的な項目もありますが、風がもたらす清涼と吹き方をはじめ身体と熱の関係や日本の建築史まで丁寧に解説されており、一般的に開かれた内容が詰まっています。写真付きオールカラーかつ、ところどころに散りばめられた、かわいいイラストもポイントです。キンキンに冷やすことで酷暑を乗り切ることも一つの手ではありますが、爽やかな風に当たって心地よさを抱きしめながら夏らしい暑さをやり過ごすことも乙なもの、と思えてしまう一冊です。
『山怪 朱:山人が語る不思議な話』
最後はちょっと違うアプローチで涼を取る本を。ずばり「異界・不思議なものとの遭遇」 を語った一冊です。
山で働く人々の実体験を取材し文章化したものを集めた本書。北海道から九州まで全国各地の山間での出来事でありながら、極端に散逸することなく終始にわたって緊張感を保って読めるのは、話の並びや語りの編集の巧みさもあることでしょう。しかし、何よりも「常識」を越えた出来事そのもの──全話に通ずる奇妙が与える、現世界との「ズレ」の大きさによるものと言えます。
とはいえ、畏怖の対象である山でのお話。どこか神秘や厳粛、聖性も感じられることが、ある種の救いをもたらしていると同時に、ままある奇談・怪談との差異があり、本書を特徴付けています。
いずれの話も実にコンパクトな短さであるのに、しっかりひんやりできてしまうので、寝る前に一話ごと読み進めるのもおすすめです。
いずれも、あたかも実在する避暑地そのもののような広さと涼気を一冊のなかに確かに備えた本。自由に気軽に開いてみてください。
働くあなたの快眠地図
角谷リョウフォレスト出版
ハーブカレー : やさしい! さわやか! 新感覚!
水野仁輔家の光協会
台湾レトロ氷菓店
ハリー・チェン : 中村加代子グラフィック社
図解風の力で住まいを快適にする仕組み
野中俊宏、森上伸也、四阿克彦、並木秀浩エクスナレッジ
図解風の力で住まいを快適にする仕組み
野中俊宏、森上伸也、四阿克彦、並木秀浩エクスナレッジ
山怪 朱 : 山人が語る不思議な話
田中康弘山と渓谷社
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