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本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2024年12月~

更新日 : 2024年12月24日 (火)

毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、いま知っておきたい10冊をご紹介します。

今月の10選は、『糸をつむいで、世界をつないで』、『遊びと利他 』など。あなたの気になる本は何?

※「本から「いま」が見えてくる新刊10選」をお読みになったご感想など、お気軽にお聞かせください。











 糸をつむいで、世界をつないで
ケイティ・ハウズ / ほるぷ出版


世界の織物の歴史を辿り、そこにある人と自然と文化のつながりを描き出した絵本。

アメリカの絵本作家ケイティ・ハウズと、ウズベキスタン生まれのイラストレーター、ディナラ・ミルタリポヴァによる本書は、機織りの音のようにシンプルでリズミカルな言葉と、独特なタッ チでカラフルなイラストがとても印象的な一冊です。
二人のリサーチによる織物の歴史もしっかりと描かれ、2023年に優れた児童書に贈られる国際的な賞であるボローニャ・ラガッツィ賞ノンフィクション部門の優秀賞を受賞しています。

時間をかけてゆっくりとつくられ、少しずつ世界に広がっていき、その土地土地で独自の文化に溶け込みながら発展してきた織物の歴史を眺めると、生産性や効率性を優先してきた近現代のもの づくりが失くしてきたものが垣間見えるよう。ものをつくるプロセスが生み出す、世代や国境を超えた、人と自然と文化のつながりを思い出させてくれます。

大人もこどもも楽しめる、贈り物にもぴったりな絵本です。


 

遊びと利他
北村匡平 / 集英社
対象年齢や遊び方が明示された遊具に、「〇〇をしてはいけません」と禁止事項ばかりが書かれた公園。安全性への配慮から必要なのは理解できるものの、どこか窮屈な印象も否めない。そんな公園をフィールドに「遊び」を捉え直し、「利他」という概念と接続していく本書。相手をコントロールするのではなく、互いのポテンシャルを引き出し合うことを「利他」と呼ぶ視点が新鮮です。遊びを取り戻していくことは、世の中との関わり方を見直すことにつながっているかもしれません。
 

擬人化する人間——脱人間主義的文学プログラム
藤井義允 / 朝日新聞出版社
平成生まれの著者による、同時代の文芸批評。「擬人化」とは、「人間らしさをもった人間ではないもの」「『本物』ではないもの」という著者が自分自身に対して抱く感覚であり、取り上げられる作家たちの作品にあらわれているものとされています。文系不要論も囁かれる昨今ですが、本書からは、文学作品が社会の動向を鋭く捉えていることや、”私”をめぐる問いが複雑化する時代の中で、個人の生きる力を養っていることがよくわかります。
 

饒舌な動植物たち ヒトの聴覚を超えて
カレン・バッカー / 築地書簡 
自然界の中にある人間には聴こえない音を、デジタル技術を駆使して「深く聴く」ことで、生態学に新たな分野を切り拓くとてもユニークな研究をまとめた本書。自然界は音にあふれ、動植物は人間には聞くことのできない周波数の音を使ってコミュニケーションを取っているそう。知的好奇心を満たしてくれるとともに、人間中心の社会のあり方についても考えさせられます。人間以外の知性に着目する本が増えているなか、新たに注目すべき一冊の登場です。
 

イノベーションの科学
清水洋 / 中央公論新社  
昨今当たり前のように使われるイノベーションという言葉。その研究が始まったのは100年前にさかのぼります。どうやったらイノベーションを起こせるか、という趣旨の本も多く出ているなかで、この本は「イノベーションとは何か」を、これまでの研究の知見を元に、地に足をつけて解説しています。多くの人が使う言葉となったから今だからこそ、その意味を改めて捉え直すのにちょうど良い一冊です。
 

女の子のための西洋哲学入門
思考する人生へ
メリッサ・M・シュー、キンバリー・K・ガーチャー(編) /フィルムアート社 
女性の哲学者と聞いて思い浮かぶ人物はいるでしょうか。哲学の歴史を見ていくと、その多くは白人男性の名前で占められています。この本は、哲学をこれから学ぶ、あるいは学んでいる女性たちに向けて書かれた西洋哲学の入門書。日本語版で500ページ、第1部~第4部の計20章からなる本書は、原著も翻訳版も監修者含め全て女性の哲学研究者たちによって書かれています。「女の子のための」とありますが、性別に関係なく哲学の新しい視点を授けてくれます。
 

リアル・メイキング
いかにして「神」は現実となるのか
ターニャ・M・ラーマン / 慶應義塾大学出版会 
信仰を研究する人類学者による著書。本書がユニークなのは、例えば「(神が)現実に存在するか否か」という二項対立を問うのではなく、「現実(リアル)はいかに創造(制作)されるのか」と問い、そのメカニズムに迫るところ。科学全盛の現在でも、人々は“非科学的”な何かを追い求める傾向があるように思います。例えばメタバースのような技術が一般化した時、人々にとっての現実はどう変化するのでしょう。時間のある年末にこそじっくり考えながら読みたい一冊です。
 

人が集まる、文化が集まる! まちの個性派映画館
美木麻穂 / パイ インターナショナル 
日本全国の”まちの映画館”を著者のイラストと共に紹介する映画館ガイドブック。映画は自宅やスマホで配信で観ることが多くなっている一方、歴史あるまちの映画館が、新たな担い手やまちの有志たちの手で復活することも増えてきているようです。「何を観るか」だけでなく、「どこで観 るか」で映画の体験は変わってくるはず。遠くてもわざわざ訪ねていきたくなる映画館がきっと見つかります。
 

詩探しの旅
四元康祐 / 日本経済新聞出版 
製薬会社を辞して詩人として活動し始めた著者は、あるとき谷川俊太郎の代わりにマケドニアの詩祭に参加することに。その後、著者は世界各地の詩祭に赴き、さまざまな詩人と出会う旅が始まっていきます。日経新聞での同タイトルの連載をまとめた本書は、詩とそれを詠む人が集う詩祭という特殊な場とそこに集う人々を通じて、各地の歴史や社会状況の見知らぬ側面を伝えてくれます。身体一つでできる詩という文芸表現が、厳しい状況の中でも人々を支え、心の拠り所となっていたことが伝わってきます。
 

編むことは力
ひび割れた世界のなかで、私たちの生をつなぎあわせる
ロレッタ・ナポリオーニ / 岩波書店 
編むことについての本が、ここ最近よく出版されています。それらは、ただ編み物をするためだけのものではなく、比喩的にも実際的にも“編む”ことから広がる事象に着目しています。『編むことは力(原題:The Power of knitting)』と題された本書は、編み物と人間の歴史から、個人のウェルネルや編む時間を共にすることで生まれる対話と連帯についてまで、”編む”ことを起点にしたエンパワメントについて書かれています。複雑でままならない社会を根気良く生きる力をくれる一冊です。
 

糸をつむいで、世界をつないで

ケイティ・ハウズ   
ほるぷ出版

遊びと利他     

北村匡平       
集英社

擬人化する人間 脱人間主義的文学プログラム

藤井義允       
朝日新聞出版社

饒舌な動植物たち

カレン・バッカー   
築地書館

イノベーションの科学

清水洋        
中央公論新社

女の子のための西洋哲学入門 思索する人生へ

メリッサ・M・シュー、キンバリー・K・ガーチャー(編)       
フィルムアート社

リアル・メイキング:いかにして「神」は現実となるのか

ターニャ・M・ラーマン
慶應義塾大学出版会

人が集まる、文化が集まる! まちの個性派映画館

美木麻穂        
パイ インターナショナル

詩探しの旅

四元康祐       
日本経済新聞出版

編むことは力 ひび割れた世界のなかで、私たちの生をつなぎあわせる

ロレッタ・ナポリオーニ
岩波書店