本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2024年11月~
毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、いま知っておきたい10冊をご紹介します。
今月の10選は、『「学び」がわからなくなったときに読む本 』、『メランコリーで生きてみる 』など。あなたの気になる本は何?
※「本から「いま」が見えてくる新刊10選」をお読みになったご感想など、お気軽にお聞かせください。
本書は、福岡県で学習塾を経営しながら子供の学びに向き合ってきた著者・鳥羽和久が、哲学者、エッセイスト、教師、芸術学者、精神科医など、学びの実践者たちとの対話 を通じて、「学び」という営みを捉え直す一冊。
批判されがちな暗記の重要性、学びによって得られるのは「成長」ではなく「変容」であること、ものごとの「感想」ではなく「観察」を意識すること、などなど、印象的なトピックやフレーズは随所に数多く出てきます。しかし、ひとつの言葉を抜き出して「学びとはこうである」と言い切れない。それが、この本の面白さであり、学びそのもの奥深さであるようです。
この本自体、学びの実践者たちとの対話を通じて、著者自身が考える学びのあり方をときほぐしながら再考していゆくプロセスであるように感じられます。学び続けるためには、「学びとは何か」 と問い続けることが大切なのでは、と思わされます。
世代とは何か
現在さまざまな分野から注目される人類学という研究領域の中でも、一際独特の視座を持つティム・インゴルド。最新の著書は「世代」について考察したもの。本書で「現役世代」と呼ばれるようなおよそ20-50代を中心として、幼年・老年世代が両端に追いやられるような世代の概念を、人類学的知見から批判的に検討していきます。決して読みやすい本ではないのですが、巻末には翻訳者の一人である奥野克巳による一章分相当の丁寧な解説も収録されており、そこから読むのも良さそうです。
世界をちょっとよくするために
知っておきたい英語100
気候変動、人権、社会正義など、日々変化し更新されていく社会概念とともに新しい言葉が生まれたり、元々ある言葉が現代的な意味を持って注目されたりしています。この本は”世界をちょっとよくする”という視点で選ばれた英語の言葉を100個紹介する本。”algospeak””sobercurious””decoupling”など日本語に訳しにくい言葉も多く登場します。新しい言葉を入り口に世界の姿が見えてくる、ありそうでなかった一冊。
派遣者たち
韓国の作家ハン・ガンがアジア人女性初のノーベル文学賞を受賞し大きな話題となっていますが、韓国文学シーンでは女性のSF作家の活躍からも目が離せません。中でも最も注目される作家の一人がキム・チョヨプ。最新作となる本作は、地上から地下に移り住んで暮らす人類が、再び地上を取り戻すための危険な任務を担う「派遣者」の物語。人間と、人間ならざる他者をも含めた共生をテーマとした、現代的な視座を持った長編作品です。
プロジェッティスタの控えめな創造力
イタリアンデザインの静かな革命
ブルーノ・ムナーリ、エンツォ・マーリなど、現在はイタリアンデザインを代表する”デザイナー” とみなされる彼らは、自らを”プロジェッティスタ”と称していました。プロジェッティスタとは、プロジェクトを考え、実践する人のこと。消費主義的なデザインからは一線を画し、「つくる」こと、つまり創造性を、人々が暮らす社会を豊かにするために用いることを目指したデザイン哲学は、資源収奪的なものづくりのあり方が見直される昨今、最も注目したい思想の一つです。随所に美学を感じるブックデザインも秀逸。
編集宣言
エディトリアル・マニフェスト
2024年8月に惜しまれながら逝去した知の巨人・松岡正剛が綴った”編集”にまつわるエッセイ集。1970年代に創刊した雑誌『遊』時代に書かれたものを編纂し、逝去後に出版されました。「編集とは世界と向き合うことである」という一節から始まる本書。編集という営みを本作りにとどまらない思考・行為として提示し、本と編集の奥深さ面白さを見せてくれます。知識を自在に組み合わせ、独特の概念や視点を提示することは、AIにもできない人間の技。松岡正剛に学ぶことは、まだまだ残っているようです。
スマートシティはなぜ失敗するのか
都市の人類学
アメリカの人類学者による都市論。原題は”A city is not a computer”であり、都市をコントローラブルで可算的なものであると考える近代的な都市観を批判的に論じています。ユニークなのは、都市の中での図書館の役割に着目しているところ。「知識インフラ」「社会的インフラ」「存在論的インフラ」として、デジタル中心の時代でも図書館の多面性を活用することを提起しています。コンパクトながら読み応えのある一冊。
コモングッド
暴走する資本主義社会で倫理を語る
90年代から一貫して、格差を拡大する資本主義のあり方に警鐘を鳴らし続ける経済学者ロバート・ライシュの新刊は、「よき市民社会をつくるためには、何が必要か」という観点で、経済よりも倫理に焦点をあてた一冊。「コモングッド(共益・公共善・良識)」を取り戻そう、というメッセージは現在では古臭く感じられるかもしれませんが、それについて意見を交わすことが、分断が進む社会の中で対話の契機となり、他者理解の一歩となりうるかもしれません。
メランコリーで生きてみる
スイス出身でロンドン在住の哲学者、アラン・ド・ボトンによるメランコリーをテーマにした ショートエッセイ集。著者が主宰の一人を務めるウェルビーイングに関する教育・出版活動の一環として制作された本書は、メランコリー、つまり”憂鬱”と訳されるような感情について、積極的に向き合い、「重要かつ明確な役割を与え」ようと試みます。沈みがちな気分はネガティブなものとして排除されがちですが、実は誰にでもあるもの。「で、あなたはどういう時にメランコリーになりますか?」
傷つきのこころ学
SNSでのやり取りやリモートワークが浸透し、間接的なコミュニケーションが増えてきた中で、 思わぬことで誰かを傷つけ、あるいは傷つけられてしまったことはないでしょうか。こちらはNHK出版の人気シリーズ「学びのきほん」から、トラウマ研究の第一人者である著者による、心の傷とともに生きるガイドブックのような本。「傷つけの練習」というパートもあるように、小さく傷つける/傷つけられることは頻繁に起こること。心の傷は日常生活と隣り合わせのことと考えてみると、少し気持ちが軽くなるかもしれません。
「学び」がわからなくなったときに読む本
鳥羽和久(編)あさま社
世代とは何か
ティム・インゴルド亜紀書房
世界をちょっとよくするために知っておきたい英語100
キニマンス塚本ニキ学研
派遣者たち
キム・チョヨプ早川書房
プロジェッティスタの控えめな創造力 イタリアンデザインの静かな革命
多木陽介慶應義塾大学出版会
編集宣言 エディトリアル・マニフェスト
松岡正剛工作舎
スマートシティはなぜ失敗するのか ー都市の人類学ー
シャノン・マターン早川書房
コモングッド 暴走する資本主義社会で倫理を語る
ロバート・B・ライシュ東洋経済新報社
メランコリーで生きてみる
アラン・ド・ボトンフィルムアート社
傷つきのこころ学
宮地尚子NHK出版
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