記事・レポート

本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2024年10月~

更新日 : 2024年10月22日 (火)

毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、いま知っておきたい10冊をご紹介します。

今月の10選は、『スマートシティとキノコとブッダ』、『〈迂回する経済〉の都市論』など。あなたの気になる本は何?

※「本から「いま」が見えてくる新刊10選」をお読みになったご感想など、お気軽にお聞かせください。











 スマートシティとキノコとブッダ
人間中心「ではない」デザインの思考法
中西 泰人、本江 正茂、石川 初 / ビー・エヌ・エヌ


スマートシティとキノコとブッダ。なんのつながりの感じられない三つの単語が並んだタイトルが まず目を引く本書。

この名称は、著者3名が都市という情報環境のあり方を研究する過程で生まれたプロジェクトに付けられたものです。近代合理主義的な知性のあり方の象徴としての「スマートシティ」を、人類とは異なる知性の象徴としての「キノコ」、人類を超越した知性の象徴としての「ブッダ」と対比することで、批判的に再構築していくことが目指されています。

一見難しい内容に思われるかもしれませんが、3人がさまざまなゲストを交えて行う「対話編」がとにかく面白い。菌類の研究者、宗教人類学者、庭師、AIゲーム開発者、などさまざまな領域のフロントランナーが登場。それぞれの研究成果を通じてこれからの都市のあり方を見返してみると、現在一般的に想像されるようなテクノロジーにあふれたスマートシティとは、また違う都市のあり方が浮かび上がってきます。

副題の”人間中心「ではない」デザイン”については、その事例が紹介される「実例編」、思考のエクササイズになる「練習編」も収録。都市とは、知性とは、デザインとは何か。そんな大きな問いに対して、「こうである」という一つの答えではなく、さまざまな可能性を見せてくれる一冊です。




 

クリエイティブという神話
私たちはなぜそれを崇拝するのか
サミュエル・W・フランクリン / 河出書房新社 
「これからの時代はクリエイティビティが大事」というような提言は、誰もがどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。本書によると、創造性という言葉が世の中で広く使われるようになったのは1950年代以降と比較的最近のこと。その背景には何があるのか、はたして創造性はどこから来て、どこへ行くのか。一つのキーワードを縦糸に、新たな視点で編まれるアメリカを中心とした戦後の文化・社会史です。
 

メタフィジカルデザイン
つくりながら哲学する
瀬尾浩二郎 / 左右社
システムエンジニアだった著者が哲学と出会い、独立して立ち上げた会社には哲学事業部があります。「メタフィジカルデザイン」とはそんな彼らの会社がつくり出した造語。「つくりながら哲学する」、または「哲学しながらつくる」ことをデザインの実践と捉えることを意味します。難しいことを考えることのように思われがちな哲学ですが、サービスデザインの現場で実践されてきた事例をみると、哲学の役立て方、取り入れ方は案外身近なものであることがわかります。

 

ニューヨーク精神科医の人間図書館
ナ・ジョンホ /柏書房 
精神科医である著者が、ニューヨークでの研修医時代に出会った人々のエピソードについて綴ったショートエッセイ集。タイトルにある「人間図書館」とは、デンマークで始まった本の代わりに人間を”貸し出す”、つまり人間を本に見立ててその人の話を聞くプロジェクトから採られています。「自分となんの関係もない人に、共感することは可能だろうか」と著者は問いかけます。世界中が近くなった一方、さまざまな形で表面化する分断が問題になる現在。普段触れ合うことのない他者の言葉を聞くことの重要性は、ますます高まっているように思います 。

 

人生が変わるゲームのつくりかた
いいルールってどんなもの?
米光 一成 / 筑摩書房 
テレビゲームの代表作として知られる『ぷよぷよ』や、テーブルゲームの『はあって言うゲーム』の制作者・米光一成氏による、10代の読者に向けたゲーム制作の入門書。平易な言葉で書かれているものの、「汚くつくってやり直せ」「自分マトリクス」など、大人が企画や事業を作るうえでも応用できそうな方法論が惜しみなく書かれています。ゲームに興味がなかったとしても、試しにゲームを作ってみたくなるワクワク感のある一冊。

 

〈迂回する経済〉の都市論
都市の主役の逆転から生まれるパブリックライフ
吉江 俊 / 学芸出版社  
「迂回する経済」という聞きなれない言葉は、「直進する経済」との対比として語られます。短期的に最大の利益を得ようとすることを「直進」だとすると、「迂回」は長期的に持続可能な利益を得ようとすること、と言えるでしょう。後者を目指す時に都市はどんな姿が望ましいのか。実例も上げながら、これからの都市のあり方を提起していきます。


 

エスノグラフィ入門
石岡 丈昇 / 筑摩書房 
「エスノグラフィとは、ある対象世界に分け入り、そこで長期にわたって過ごしながら人々の生活について記述する研究方法」と本書では書かれています。社会学者である著者は、実際にフィリピンのマニラでボクシングジムで一緒に練習しながら、その土地のスラムと貧困について調査した筋金入りのエスノグラファー。エスノグラフィを学ぶ学生向けの本ですが、他者の生活世界を垣間見る手法と姿勢からは、仕事や日常の場面でも活かせる多くの気づきが得られることでしょう。

 

メメント・モモ
八島 良子 / 幻戯書房 
アーティストとして活動する著者が、人口約400人の百島(ももしま)に移住し、赤ちゃんの豚を飼い、育て、屠畜して、食べるまでのプロセスを毎日記録した約1年間のプロジェクトの書籍化。この一つのプロジェクトから見えてくるものは実に多層的で、食のシステム、生命倫理、法律についてなど、読み手によってさまざまな思いを持つことでしょう。正しさを求めながらも、矛盾や不確かさを抱えたまま動いていく社会の姿を浮き彫りにするような一冊。

 

なぜスナフキンは旅をし、ミイは他人を気にせず、ムーミン一家は水辺を好むのか
横道 誠 / 集英社 
40歳の時に発達障害(自閉スペクトラム症・ADHD)と診断された文学研究者の横道誠氏は、その当事者性をもって幅広い対象についての本を書いています。本書は「発達障害」の当事者からムーミンの世界はどのように見えるのか、という視点で書かれたもの。ニューロ・ダイバーシティ(脳の多様性)という言葉もあるように、人によって作品の見方はさまざま。本書のような「当事者批評」は、当事者に寄り添いながら、読むことの可能性を開いてくれます。

 

書物とデザイン
松田 行正 / 左右社 
『戦争とデザイン』『宗教とデザイン』などデザインと本の歴史についての著作を数多くもつグラフィックデザイナーの松田行正氏。最新刊は満を持して(?)の『書物とデザイン』です。書物の成立以前、文字の歴史から始まり、「写本」「印刷本」「並製本」など時代ごとに変わる本の形態を縦軸として、物としての本が現在のような姿になっていくまでを追っていきます。4.5cmの厚みを持った本書それ自体のデザインにも要注目。

 

スマートシティとキノコとブッダ 人間中心「ではない」デザインの思考法

中西泰人、本江正茂、石川初          
BNN新社

クリエイティブという神話 私たちはなぜそれを崇拝するのか

サミュエル・W・フランクリン        
河出書房新社

メタフィジカルデザイン つくりながら哲学する

瀬尾浩二郎      
左右社

ニューヨーク精神科医の人間図書館

ナジョンホ      
柏書房

人生が変わるゲームのつくりかた いいルールってどんなもの?

米光一成        
筑摩書房

人生が変わるゲームのつくりかた いいルールってどんなもの?

吉江俊         
学芸出版社

エスノグラフィ入門

石岡丈昇         
筑摩書房

メメント・モモ 豚を育て、屠畜して、食べて、それから

八島良子        
幻戯書房

なぜスナフキンは旅をし、ミイは他人を気にせず、ムーミン一家は水辺を好むのか

横道誠         
集英社

書物とデザイン

松田行正               
左右社