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本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2024年9月~

更新日 : 2024年09月24日 (火)

毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、いま知っておきたい10冊をご紹介します。

今月の10選は、『生きることは頼ること』、『第三風景宣言』など。あなたの気になる本は何?

※「本から「いま」が見えてくる新刊10選」をお読みになったご感想など、お気軽にお聞かせください。











 生きることは頼ること
「自己責任」から「弱い責任」へ
戸谷 洋志 / 講談社


『SNSの哲学』『恋愛の哲学』『親ガチャの哲学』など、現在的なトピックを自身の専門である哲学・倫理学の観点から読み解いた著作で幅広い読者をもつ哲学者・戸谷洋志。今回の著書は「自己責任」がテーマです。

“新自由主義”という経済思想と共に浸透した自己責任論。「行為の責任は個人に帰属する」という考え方は自由な社会の基本とも考えられますが、一方で、人々を孤立化・個人化させ、連帯を難しくするものでもあると戸谷氏は指摘します。ハンナ・アーレント、国分功一朗、ハンス・ヨナス、ジュディス・バトラーら、近現代の哲学者による「責任」についての思索を手掛かりに、自己責任とは違う、人々の”連帯“を指向する責任のありかたを探っていきます。

「責任を果たすために私たちは誰かを、何かを頼らざるをえない。責任を果たすことと、頼ることは、完全に両立する」と戸谷氏は書いています。

「責任」という言葉は当たり前のように存在していますが、よくよく考えるとその発生のメカニズムは単純ではないことが、本書を読むとよくわかります。なんとなく知っている身近な言葉や概念について深く考え、捉え直していく哲学の面白さを体感できると同時に、社会のあり方についても考えさせられる一冊です。




 


15分都市 人にやさしいコンパクトな街を求めて
カルロス・モレノ / 柏書房 
2020年にパリ市長が長期的な都市計画として発表し、世界各地から注目を集めた”15分都市”という構想。それは、病院、学校、商業・娯楽施設など、生活に必要な社会機能に、徒歩または自転車で15分以内でアクセスできる都市、と説明されます。このコンセプトの提唱者と言われるカルロス・モレノ氏は、本書にてその構想に至るプロセスを明らかにしてくれます。パリ市の発表から4年が経ち、その実現状況や都市が抱えるさまざまな課題へ有効性が注目されます。
 



土と脂 微生物が回すフードシステム
デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー / 築地書館
 地質学者と生物学者の夫妻による共著の第2弾。土壌と人間の体内における微生物たちの働きとつながりを明らかにした前著『土と内蔵』は、専門外の読者にも広く読まれたロングセラーになっています。本書は前著の内容を引き継ぎ、「人間と農業と健康のつながりを問い、解き明かす探求」と定義される二人の試みの現在地を知る一冊。人にも自然環境にも関わる「食」と「健康」について理解を深める際の必読本の一つになりそうです。

 



東大ファッション論集中講義
平芳 裕子 / 筑摩書房 
タイトルの通り、東京大学文学部で初めて行われた四日間のファッション論の講義を書籍化したもの。著者は「ファッションは(研究対象として)浅い」と言われたことから、その研究にのめり込んでいったそう。流行の変遷や狭義のデザインについてではなく、社会的、文化的、歴史的な観点からファッションという文化現象が論じられ、新書のコンパクトな紙幅ながら、ファッションの基礎を知るにはこの1冊で十分なのでは、と思わされるほど充実の内容です。

 



発信する人のためのメディア・リテラシー 情報の森で豊かに生きる
内田 朋子、堤 信子 / 晶文社 
京都芸術大学で行われた「情報リテラシー論」「情報学」の講義が一冊にまとまった本書。テレビ・ラジオ局員、ジャーナリスト、フリーアナウンサー、出版社社員など、メディア業界の第一線で活躍する人々が講師として登壇しています。情報がわたしたちに届くまでに、どんな経路を辿り、その過程で何が起きているのか。ここに書かれているのはその一部かもしれませんが、普段はあまり意識しない情報流通の裏側が垣間見える興味深い一冊。

 



隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ
斎藤 真理子 / 創元社 
老舗出版社・創元社の人気シリーズ「あいだで考える」の最新刊は、韓国文学の翻訳者・斎藤真理子氏によるもの。人気の衰える兆しのない韓国のドラマ、映画、音楽、そして文学も、「言語」をよく知ることで、また違った視点で楽しんだり考えたりすることができるかもしれません。10代からの読者を想定しているため、コンパクトで読みやすく、さまざまな問いの入り口としてシリーズとしてもおすすめです。


 



第三風景宣言
ジル・クレマン / 共和国 
地球を一つの庭とみなし、人と自然の関係を捉え直す斬新な思想を展開する庭師ジル・クレマン。「第三風景」とは人間が放棄した場所であり、生物多様性のための避難場所(シェルター)であるとされます。箇条書きで書かれる本書は、そんな空間の設計指標として公開されたもの。断片的に示される指標は難解な部分もありますが、詩のように心に残ります。読むために読者自身がページを裂く必要があるアンカット製本であることも、作り手からのメッセージを感じます。

 



名探偵の有害性
桜庭一樹 / 東京創元社 
直木賞作家・桜庭一樹氏の最新作。30年ほど前に名探偵とその助手として活躍しメディアを賑わせた男女が、50歳になった令和の現在、謎のユーチューバーから『名探偵の有害性』を告発され、再び二人は自分たちの過去の事件を検証する旅に出る…。謎解き要素も楽しいエンタメ小説の中に、ジェンダー問題やメディアの加害性、時代の変化の受け入れ方など、実に現代的な問いかけがなされています。ステレオタイプな探偵小説の枠組みを覆す一冊。

 



世界の本当の仕組み エネルギー、食料、材料、グローバル化、リスク、環境、そして未来
バーツラフ・シュミル / 草思社 
エネルギー問題を中心に、テクノロジー、環境、食料など学際的研究で知られ、一般向けの著書も多数あるバーツラフ・シュミル氏の新刊。「私は悲観主義者でも楽観主義者でもなく、世の中の実情を説明しようとしている科学者」であると書いているように、第1章のエネルギーの近未来を外観するパートから、徹底して現実的・実証的に議論が展開されていきます。スマホに飛び込んでくる極端な主張に目を奪われがちな昨今、広く事実を集め、科学的に考えることの大切さを思い出させてくれます。

 



感情の海を泳ぎ、言葉と出会う
荒井 裕樹 / 教育評論社 
どうしたら良い文章が書けるのか。研究者、文筆家である著者に投げかけられた質問をひとつのきっかけに書かれた本書。しかし、文章の書き方はこうである、良い文章とはこうである、という”答え”が示されることなく、著者の日常や経験の中で、文章(あるいは言葉)についての気づきを綴ったエッセイが続きます。当たり前のように使っていながら、思い通りにならない言葉たち。「書く」ということは、自分自身と向き合うことだと気付かされました。

 

生きることは頼ること 「自己責任」から「弱い責任」へ

戸谷洋志       
講談社

15分都市 人にやさしいコンパクトな街を求めて

カルロス・モレノ   
柏書房

土と脂 微生物が回すフードシステム

デイビッド・モントゴメリー , アン・ビクレー  
築地書館

東大ファッション論集中講義

平芳裕子       
筑摩書房

発信する人のためのメディア・リテラシー 情報の森で豊かに生きる

内田朋子, 堤信子   
筑摩書房

隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ

斎藤真理子      
創元社

第三風景宣言

ジル・クレマン    
共和国

名探偵の有害性

桜庭一樹       
東京創元社

世界の本当の仕組み エネルギー、食料、材料、 グローバル化 、リスク、環境、そして未来

バーツラフ・シュミル 
草思社

感情の海を泳ぎ、言葉と出会う

荒井裕樹       
教育評論社