本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2024年8月~
毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、いま知っておきたい10冊をご紹介します。
今月の10選は、『STATUS AND CULTURE』、『ヘルシンキ 生活の練習はつづく』など。あなたの気になる本は何?
※「本から「いま」が見えてくる新刊10選」をお読みになったご感想など、お気軽にお聞かせください。
——文化をかたちづくる〈ステイタス〉の力学
感性・慣習・流行はいかに生まれるか?
「文化(カルチャー)はいかにして生まれるのか、そしてなぜ移り変わるのか」本書はこんな壮大な問いをたて、歴史学、人類学、社会学、経済学、心理学、神経科学などの知見をフル活用しながら、その謎に迫った唯一無二の本。変化の鍵を握るのは「ステイタス」であると著者は説きます。しかし、この「ステイタス」も曖昧な概念であるため、本書はまず「ステイタス」の分析から始まります。
著者のデーヴィッド・マークスは、東京在住の文筆家。ハーバード大学の東洋学部を卒業後、慶応義塾大学大学院の商学部で修士号を取得したマークス氏は、日本においてアメリカのファッションスタイルが取り入れられ、独自の文化に変質し、世界のファッションに影響を与えるまでになる過程を描いた著書『AMETORA』(DU BOOKS/2017)で、国内外から注目を集めました。
「『AMETORA』が文化についてのケーススタディだとするならば、さしずめ本書は文化の発生過程を描いた難解な見取り図だ」とマークス氏は書きます。
本文だけで400ページを越える分厚い本ですが、著者のペースにはまっていくと、どんどん面白くなりページをめくる手が止まらなくなります。
ヘルシンキ 生活の練習はつづく
京都出身の社会学者・朴沙羅は、フィンランドの大学で職を得たことをきっかけに、2人の子供とともにヘルシンキで暮らしはじめます。本書は、そこで見聞きしたこと、考えたこと、感じたことを書き留めた日記風エッセイの第2弾。2023年の冬から2024年の春までのことが書かれています。社会学者らしい観察眼と社会の捉え方、そこに時折関西弁のツッコミが混ざる面白さは健在。日常と日常の違いに驚き、暮らし方、働き方のマインドが変わると話題の一冊です。
誰のためのアクセシビリティ?
「障害は世界を捉え直す視点」をテーマに、美術展の企画などを行うキュレーター田中みゆきの初の単著。著者自身は”健常者”ですが、仕事を通じて目の見えない人や義足で生活する人と出会ったことから、自身のテーマを定めていったそうです。アクセシビリティ、つまり誰もがアクセスしやすい環境や状況について考える際には、マジョリティである”健常者”と同じ体験をしてもらうことが前提になってしまいがち。そうではなく、”障害”を持った人の体験からものごとを捉え直すことで、誰にとっても新たな視点が得られていく、という発想の起点が秀逸です。
メトーデ 健康監視国家
個人の健康を国家が管理し、健康であること義務化された超監視国家を描いたドイツのSF小説。発表は2009年ながら、健康維持のために政府によって行動が制限され、手袋やマスクをして生活する描写からコロナ期に再び注目を集め、本国ドイツでは100万部を越えるベストセラーとなりました。「ヘルステック」という言葉も一般化し、個人の健康管理と国家や企業の関係は、大きな社会課題としてこれから前景化し得るものの一つ。本作では管理社会が強調され、喜ばしい世界として描かれてはいないですが、未来を想像する一助になるかもしれません。
アファーマティブ・アクション
「アファーマティブ・アクション(AA)」とは、人種、ジェンダー、障がいなどの理由により、その当事者が差別を受けることがないように支援する「積極的な差別是正措置」のこと。日本でも、ジェンダーギャップ指数が毎年下位に沈む中で、政治家や企業役員、大学の教員などを対象とし、一定の割合まで女性の比率を高めるための施策などが行われています。本書は、AAの取り組みが始まったアメリカの人種政策を中心に、その歴史を追った一冊。AA自体の良し悪しについてだけでなく、なぜこのような施策が必要なのか、という視点でも考えてみたくなります。
パリと五輪 空転するメガイベントの「レガシー」
この夏開催されたパリオリンピックですが、2007年からパリに居住する翻訳家の著者・佐々木夏子氏は、その招致に一貫して反対してきた一人。強制退去、負債、地価の高騰など、オリンピックというシステムそのものが都市にもたらす影響は、市民にとって良いものばかりでないようです。一方で、華やかなアスリートたちの活躍は、人々に活力と希望をもたらすエンターテイメントであることもまた事実。オリンピックは開催期間中だけでなく、その前後に起こる都市の変化にも目を向けてみると、全体像が見えてくるかもしれません。
えほん思考
この本のコンセプトは「絵本からイノベーションを学ぶ」こと。なぜ絵本なのかというと、「絵本には発想の『核』がむき出しになっている」からだそうです。言われてみれば、絵本は短い物語の中に予想外の展開や仕掛けがあるものなので、必然的に作り手には今までにない発想が求められるかもしれません。絵本の紹介だけでなく、そこから学べるポイントが簡潔に示され、そのポイントが生かされた実社会の事例も掲載。思考のエクササイズのような感覚で気軽に読める一冊です。
THE UNIVERSE IN A BOX 箱の中の宇宙
宇宙の研究を取り扱った本は数多く出版されていますが、この本は、おそらく今までになかったコンピュータシミュレーションという領域について書かれたもの。現在の宇宙の研究では、観測と同等かそれ以上にコンピュータでのシミュレーションが大きな役割を果たしているそうですが、著者は若くてしてその第一人者と呼ばれる人物。「私の(中略)仕事は、コンピュータ上で全宇宙をシュミレーションすること」と、著者は書いています。一般向けにも読みやすく、宇宙本の中では久しぶりの世界的なベストセラーとなっている注目の一冊。
料理人という仕事
25年のキャリアを持つ料理人・飲食店プロデューサーの稲田俊輔氏の最新刊。この本は、若い読者に向けた「幸福な料理人になる」ための本、と定義されています。そう書くと、料理人を目指す人以外は関係がないのではと思われてしまいそうですが、飲食という一つの業界を料理人の視点から現実的に捉えている内容は、いろいろな仕事に応用ができるポイントがあると思います。食べることが好き、と言う人にとっても、その体験を創る料理人たちの世界が垣間見え、コンパクトながらいろいろな学びが詰まっています。
生きるための最高の知恵 ビジョナリーが未来に伝えたい500の言葉
シリコンバレーの黎明期から活動し、テクノロジーと人間の関わりを、鋭くもあたたかい眼差しで見つめ、伝え続けてきた伝説的編集者ケヴィン・ケリー。「もう本は書かない」と公言していた彼ですが、自身の68歳の誕生日に彼の子供たちに送ったメッセージをきっかけにして、この言葉のコレクションは作られました。「預言者」「ビジョナリー」などとテック業界を中心に世界中からリスペクトを集めるケリー氏ですが、その言葉はテクノロジーに関わることに限らず、複雑化し先の見えない世界を生きていく上での指針となるものばかり。毎日少しずつ読み進めたり、友人や、これから社会に出る若者たちへのギフトとしてもおすすめです。
STATUS AND CULTURE
デーヴィッド・マークス筑摩書房
ヘルシンキ 生活の練習はつづく
朴沙羅筑摩書房
誰のためのアクセシビリティ?
田中みゆきリトル・モア
メトーデ 健康監視国家
ユーリ・ツェー河出書房新社
アファーマティブ・アクション
南川文里中央公論新社
パリと五輪
佐々木夏子以文社
えほん思考
菊池良晶文社
THE UNIVERSE IN A BOX 箱の中の宇宙
アンドリュー・ポンチェンダイヤモンド社
料理人という仕事
稲田俊輔筑摩書房
生きるための最高の知恵
ケヴィン・ケリー日経BP
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