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「感動する力」でアートはここまで楽しくなる:姜尚中×竹中平蔵

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政治・経済・国際文化教養
更新日 : 2012年10月16日 (火)

第9章 人に間(ま)を加えて「人間」とする日本人の美意識とは?

画像左:竹中平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長) 同右:姜尚中(東京大学大学院情報学環 現代韓国研究センター長)

竹中平蔵: 「日本のアートには素晴らしいものがたくさんあるけれど、自画像がない」という姜さんのお話に、私はドキッとしました。どうして日本はそうなったのでしょうか。日本の社会で欠けていたものがあるとすれば、それは何だったのでしょうか。

姜尚中: 近代以降は自画像にチャレンジするアーティストがいっぱい出てきましたが、「これは」と思うものはなかなかありません。素晴らしいと思うものは自画像ではなく、やはり伊藤若冲(1716~1800年)の鳥獣画や与謝蕪村(1716~1783年)の《夜色楼台図》です。

日本の美意識は、人物の内側に向かっていくというより、そうではないものに向かっていったのではないかと思います。日本人が印象派を好むのもそのためかもしれません。独断と偏見ですが、そこにはある種の無常観があるのではないかと思います。『方丈記』に「よの常ならず」と書かれているということは、日本は自然災害の国で、有史以来、その連続だったわけです。こうした人間と自然とのかかわり合いから、作品がなかなか人物の内側には向かっていかなかったのではないかと思います。

竹中平蔵: 日本のある社会学者は、「Human Being」は人ですが、「人間」という言葉には、人に加えて「間(ま)」が入っていると指摘しています。間という言葉が入っているのは、日本と韓国ぐらいしかないと。韓国も間が入っているのですよね?

姜尚中: そうですね、「インガン」といいます。

竹中平蔵: 経済学で「消費者は自分の満足度を最大化する」といえば、自分の満足度が最大になるように行動するということですが、その社会学者は、「私たちの社会は自分と相手との関係を最大化する。だから間という言葉が入っている。日本語に『間違い、間抜け、間がもたない、間が悪い』など、間の付く言葉が多いのもそのためだ」と言うのです。やはり姜さんがおっしゃった、人と人との関係や、人と自然との関係といったものが、歴史の中に組み込まれてきたのではないかと思います。

これは日本のいい面ではあるのですが、これを超えなければいけないときもありますよね。相手との関係にばかり気を配っていたら、何も変えられない。だから改革が進まない……まあ、これ以上は言いませんが(笑)、そういう問題にもつながっていると思います。

姜尚中: 「間」を「空白」と置き替えると、長谷川等伯(1539~1610年)の絵には、何も描いていない間がたくさんあります。芸能にしても、歌舞伎ではしゃべったり動作したりしていないときの間が重要ですよね。和辻哲郎は「間」を中心にして、日本の人間関係の特色についていろいろ書いています。こうしたものが日本の美意識の中に、かなりあるのかもしれません。

竹中平蔵: 相撲の仕切りと立ち会いも、そうですね。間を詰めていくところが、ファンにとってはたまらなくおもしろいそうです。それから、ある筝曲家は「バイオリンやチェロは弦をひいている間はずっと音が出ている。でも、お琴はポンと弾くもので、その間がとても大事なのです」とおっしゃっていました。こう考えてみると、アートの世界で、ここは日本が深めていけるところかもしれませんね。

姜尚中: そうですね。

竹中平蔵: 最後になりますが、きょうは「アートにもっと親しもう」ということが目的の1つになっていますので、姜先生から皆さんに、きょうをきっかけにこうしてほしいということがありましたら、おっしゃっていただけませんか。

姜尚中: 美術館に行きたいと思ったら、すぐ行ったほうがいいと思います。「今は時間がないから週末にしよう」ではなく、行きたいと思うときに行くことです。行きたいと思うということは、それを欲しているわけですから、その気持ちを優先して、ぜひ美術館に行っていただきたいと思います。(終)

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該当講座

六本木アートカレッジ・セミナー
感動する力~アートを感じる・アートを考える~
姜尚中 (東京大学大学院情報学環 現代韓国研究センター長)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/東洋大学教授/慶應義塾大学名誉教授)

姜尚中氏×竹中平蔵氏
 芸術は我々に勇気や感動、新たな発想を与えてくれ、豊かで潤いのある時間を我々は過ごしています。しかし、そこにはアートを感じる力、どのようにその作品、モノに接するかという我々の姿勢が重要になってきます。今回のセミナーでは、姜尚中氏に経験をもとに、アートを感じる力についてお話いただきます。また、後半の竹中平蔵氏との対談では、アートが社会に与える影響そして社会で担う役割・可能性についても発展させます。


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