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「感動する力」でアートはここまで楽しくなる:姜尚中×竹中平蔵

もっと深くアートを感じるために、ちょっと深くアートを考える

政治・経済・国際文化教養
更新日 : 2012年10月15日 (月)

第8章 アートは我々の日常にこそ必要

画像左:竹中平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長) 同右:姜尚中(東京大学大学院情報学環 現代韓国研究センター長)

竹中平蔵: ヒューマニズムの語感はいいのですが、ヒューマン・ビーイングは矛盾の塊です。誰もが「人間らしく生きたい」と思っているのですが、人に言えない秘密や後悔を1つも持っていない人はいないと思います。人間はそういう矛盾を抱えています。

実は、社会も全く同じです。「いい社会をつくりたい。そのために経済をよくしたい、政治をよくしたい」と思うわけですが、一所懸命頑張っているのに貧しい思いをしている人がいる一方で、楽をして生きている人もいる。それを何とかしたいと思いつつ、私たちは日常に埋もれ、矛盾を抱えたまま毎日生きているわけです。イ・ブルの作品は、そういうことをハッと気づかせてくれます。

まさにこれこそが、アートが日常の中に入ってこなければいけない理由だと思います。ニーチェは、人間を人間らしくするための最高のものがアートだと言いました。「イ・ブル展」を観て、私は改めてそういうことを感じました。

姜尚中: イ・ブルには「ユートピアは終わった」という意識があると思います。「韓国は民主化を達成して豊かになったはずなのに、現実は必ずしもハッピーなユートピアではない。思い描いたものとはかなり違っている」という思いが彼女にあって、「Beyond Human」というものにつながったのではないでしょうか。

実存主義で有名なドイツのハイデガーは「ウーバ・フマニスムス」と言いました。この言葉には、「ヒューマニズムを超えて」と「ヒューマニズムに関して」という2つの意味があります。これは「今までの人間のコンセプトを変えないと、我々が抱える問題は超えられない」という問題提起だったと思います。私たちはヒューマニズムを「美しいもの、善であり、肯定すべきもの」と考えがちですが、「それを超えて」という彼女の作品の意味合いは、非常に胸に刺さります。

《天と地》は、タイル張りの部屋に白い山があり、その山に囲まれた池に黒い水が入っているという作品ですが、これは韓国の歴史を知っていないとなかなか理解できないと思います。この山は白頭山(ペクトゥサン)といって、標高が約3,000m近くあり、頂上にティエンチという美しい巨大な池がある霊山です。韓半島に生きる人にとっては仰ぎ見るべき存在ですが、所々欠けたタイルは、その一つひとつが傷ついた人々とおぞましい対立を象徴しています。しかも霊山の中が真っ黒な闇のようになっている——聖なるものと人間のおぞましい愚かさが一緒になっている。僕はこういう作品を見たのは初めてで、とても感動しました。

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該当講座

六本木アートカレッジ・セミナー
感動する力~アートを感じる・アートを考える~
姜尚中 (東京大学大学院情報学環 現代韓国研究センター長)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

姜尚中氏×竹中平蔵氏
 芸術は我々に勇気や感動、新たな発想を与えてくれ、豊かで潤いのある時間を我々は過ごしています。しかし、そこにはアートを感じる力、どのようにその作品、モノに接するかという我々の姿勢が重要になってきます。今回のセミナーでは、姜尚中氏に経験をもとに、アートを感じる力についてお話いただきます。また、後半の竹中平蔵氏との対談では、アートが社会に与える影響そして社会で担う役割・可能性についても発展させます。


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