六本木ヒルズライブラリー
ミルフルール:西洋美術の花園
〈エントランス・ショーケース展示〉
更新日 : 2021年03月12日
(金)
今回のエントランス・ショーケース展示は「ミルフルール:西洋美術の花園」と題して、古代から近代にいたるまで様々な形で描かれてきた、美術作品としての「花」の歴史を書籍と共にたどります。
西洋の美術では、いかにして花の美が見いだされ、「植物画」「花卉画(花の静物画)」というジャンルが確立するに至ったのでしょうか。本展示では10のテーマ、20の作品や画家に焦点を当て、まさに百花繚乱の歴史を紐解きます。
【展示書籍一覧】
【展示紹介動画】インタビュー:廣川暁生(企画・監修) ※音が出ます
▼古代の花—薬用植物
西洋における「花の美術」の源泉の一つは、古代ギリシアの本草書にさかのぼります。自然の中で薬草や毒草を見分けるために、精緻で詳細な植物図が描かれました。
しかし、中世に入ると本草書の植物図は次第にパターン化され、その内容も神秘的要素を含むものに。15世紀にドイツで刊行された医学書『健康の庭』では、植物、動物、鉱物などを原料とした薬物が不思議な魅力に満ちた木版画で紹介されています。
▼ルネサンスの花—花咲く楽園
中世から近世への転換を告げるルネサンス期、様々な地域で花開いた新しい美術はそれぞれの視点から「花の美」を発見していきます。
ファン・エイク(1395頃-1441)はキリスト教的伝統のなかで花園を写実的に描き、ボッティチェッリ(1444/5-1510)は装飾性豊かな画風で、花咲き乱れる古代の神々の世界をよみがえらせました。一方、北方ルネサンスの画家のデューラー(1471ー1528)は自然研究に大きな価値を見出し、実物大の細密画を描くことで、植物の表現が展開する中での新機軸となりました。
▼近世の花—花卉画の誕生
花卉画、すなわち花の静物画が一つのジャンルとして確立したのが17世紀でした。ヤン・ブリューゲル(父)(1568-1625)は、花が宗教的な象徴や寓意から次第に解放されていく過程で、まさに「花」のポートレートを多く描き出し、花卉画の普及に大きく貢献しました。
18世紀は、リンネの分類法によって植物が体系化され、プラントハンターたちが世界中に新たな植物を求めた「発見の時代」となりました。その研究や探検の成果を出版するため、植物学的正確さに基いて描かれた植物画の需要が高まり、植物学的視点と芸術性を併せ持つ「ボタニカル・アート」が数多く生み出されます。
▼近代の花—自分だけの表現を求めて
花を描くことがもはや当たり前になった19世紀には、花のテーマは画家たちが独自性を発揮する舞台となり、花卉画が再び盛り上がりを見せます。『睡蓮』で有名なクロード・モネ(1840-1926)は「花のおかげで私は画家になれた」という印象的な言葉を残しました。
19世紀末にはアール・ヌーヴォーのように生活の中に美を求める運動が高まり、花は有機的な装飾モチーフとして生活を彩り始めます。当時、一世を風靡したミュシャ(1860-1939)のポスターでは、装飾化された様々な花がモデルと一体となり、咲き誇りました。
人はどのように花を愛し、描いてきたのか。その時代、地域、そして画家一人ひとりの個性によって、「花の美術」は多彩な姿を私達に見せてくれます。
今回の展示では、古代から近代に至るまで2000年近くにわたって少しずつ変わっていった花と西洋美術の関係を沢山の図版とともにご紹介しています。千紫万紅の歴史の花園を、ぜひご覧ください。
企画・監修:
廣川暁生(美術史家【西洋美術史】/学習院大学・清泉女子大学・東海大学非常勤講師)
協力:三谷知子
廣川暁生(美術史家【西洋美術史】/学習院大学・清泉女子大学・東海大学非常勤講師)
協力:三谷知子
※エントランス・ショーケースはアカデミーヒルズ会場ご利用者とライブラリーメンバーのみご覧いただけます。
書籍でたどるアート
ミルフルール:西洋美術の花園
エントランス・ショーケースで「ミルフルール:西洋美術の花園」と題して展示されている植物画・花卉画(花の静物画)。今回は、その書籍の一部をご紹介します。
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