記事・レポート
シリーズ「多様な価値を繋ぐ『日本発のプラットフォーマー』」
第4回 日本の町工場を未来へつなぐ:「CADDi」「浜野製作所」
Business Insider Japan×アカデミーヒルズ
更新日 : 2021年04月20日
(火)
後編:絶妙な技術力を突き抜けた技術力に転換する
製造業全体の認識をすり合わせていく
浜野:もちろん、事業の立ち上げ時からコストを考えるという話は、大企業も同じです。僕らが預かる図面の単位はミリなのですが、例えば1ミリでも±0.1と書いてある。つまり、加工の誤差は0.1ミリ以内だと。それが厳しいものだと±0.001とか±0.0003とかになるのですが、同じ1ミリでも±0.1と±0.0003とでは、正確に言えば材料取り・使用機械・工数など加工方法が全く異なり納期やコストも変わります。
そういうことから考えていかないと、トータルのコストが見えません。やはり大元となるメーカーさんがものづくりの考え方や調達の方法を変えていかなきゃいけない時代に、入っているのだと思います。
そういうことから考えていかないと、トータルのコストが見えません。やはり大元となるメーカーさんがものづくりの考え方や調達の方法を変えていかなきゃいけない時代に、入っているのだと思います。
加藤:図面というのはある意味ものづくりにおけるコミュニケーションツールなんですよね。実際、交渉コストを大きく上げるのは図面だったりします。というのも、図面における解釈の問題というものがありまして、例えば図面に部品の「美観」と書いてあるとしますよね。ただ、美しさの水準は人によって違いますから、「これは傷があって不良だよ」という話もあれば、逆に滅茶苦茶ピカピカだけれども、物凄くコストが高いという話もある。
実は加工の技術以前に、図面の解釈が全然違っていて、そこのすり合せが交渉コストの最も大きいところになっているんですね。図面をきちんと言語化して、必ず誰がどう作っても同じようになるように翻訳するということが大変重要な機能で、CADDiはそれを自動化するということにすごく力を入れています。
浜野:寸法精度は測定器で測定すれば検査データとして残りますけども、「美観」とか「キズ無きこと」とか、これが同じ業種でもA社さんB社さんC社さんで言っている「キズ無きこと」が違うわけですよね。更に、受け入れをして、検査をする方の「キズ無きこと」と、物を作って出荷する人達の「キズ無きこと」の度合いがバラバラだったりすると、結局コストとして跳ね返ってきてしまう。確かに買う側としたら、キズが無い物の方が良いでしょうし、日本の製造業の方、町工場の方はそういうことをきっちりやろうとします。一工程ずつしっかり紙で包んだりして。そうすると、全然効率は上がりません。
だから日本の製造業の力を高めていく為には、そういったことも含めて全体を見直すということ、部署だとか、会社だとか、工程だけではなくて、業界全体のすり合わせをしていくということが求められる時期だと感じています。
浜田:大企業側の評価基準、町工場側の評価基準を合わせる一方で、売れるために必要な消費者の価値基準や評価基準をどこで付加すればいいのでしょうか。
加藤:メーカーと加工工場のすり合せの話と消費者にとっての価値は必ずしも一致しないのではないかと思います。例えば公差で基準を少し緩めることも、大前提としてお客さんに対する機能を損ねないけれど、別にこんなに厳しいものはいらないよね、というすり合せだったりします。ですから、最終的な価値、機能は元々エンドのメーカーさんで決めていて、その上で機能を最小のコスト、最大の品質になるように実現するためにどうするかというところが、我々が解いている課題だと思っています。
浜野:製造業だけではなくて、どんな商売でもそこが基本になると思います。単純に町工場が「こんな精度ではやりたくない」というような話ではないのです。精度が必要な物は精度をもってきちんと作っていく。ただし精度が不要な物はそこを省いてコストを削減して、それをエンドユーザーに還元するというサイクルが出来れば良いのではないでしょうか。
実は加工の技術以前に、図面の解釈が全然違っていて、そこのすり合せが交渉コストの最も大きいところになっているんですね。図面をきちんと言語化して、必ず誰がどう作っても同じようになるように翻訳するということが大変重要な機能で、CADDiはそれを自動化するということにすごく力を入れています。
浜野:寸法精度は測定器で測定すれば検査データとして残りますけども、「美観」とか「キズ無きこと」とか、これが同じ業種でもA社さんB社さんC社さんで言っている「キズ無きこと」が違うわけですよね。更に、受け入れをして、検査をする方の「キズ無きこと」と、物を作って出荷する人達の「キズ無きこと」の度合いがバラバラだったりすると、結局コストとして跳ね返ってきてしまう。確かに買う側としたら、キズが無い物の方が良いでしょうし、日本の製造業の方、町工場の方はそういうことをきっちりやろうとします。一工程ずつしっかり紙で包んだりして。そうすると、全然効率は上がりません。
だから日本の製造業の力を高めていく為には、そういったことも含めて全体を見直すということ、部署だとか、会社だとか、工程だけではなくて、業界全体のすり合わせをしていくということが求められる時期だと感じています。
浜田:大企業側の評価基準、町工場側の評価基準を合わせる一方で、売れるために必要な消費者の価値基準や評価基準をどこで付加すればいいのでしょうか。
加藤:メーカーと加工工場のすり合せの話と消費者にとっての価値は必ずしも一致しないのではないかと思います。例えば公差で基準を少し緩めることも、大前提としてお客さんに対する機能を損ねないけれど、別にこんなに厳しいものはいらないよね、というすり合せだったりします。ですから、最終的な価値、機能は元々エンドのメーカーさんで決めていて、その上で機能を最小のコスト、最大の品質になるように実現するためにどうするかというところが、我々が解いている課題だと思っています。
浜野:製造業だけではなくて、どんな商売でもそこが基本になると思います。単純に町工場が「こんな精度ではやりたくない」というような話ではないのです。精度が必要な物は精度をもってきちんと作っていく。ただし精度が不要な物はそこを省いてコストを削減して、それをエンドユーザーに還元するというサイクルが出来れば良いのではないでしょうか。
絶妙な技術力を突き抜けた技術力に転換する
浜田:では、世界に視野を広げたときに、日本のものづくり、製造業が競争力を持っていくには、どんな人材育成が必要だとお考えですか?
浜野:技術やテクニック、いわゆるソフトを向上させていきたいというのはもちろんですが、やはり先人のおかげで日本のものづくりが世界からも尊敬されて、メイドインジャパンというブランドがあるわけですから、それを承継して次の世代に繋げていかなければなりません。そういう時に、工程管理であるとか、品質の在り方であるとか、そもそもの原点となる心構えや情熱を伝えることですね。AIやIoTといった技術がこれから進んでいく中で、そういったことが人によってできることの差別化なのかもしれないな、と思います。
加藤:私も、やはり技術をすごく底上げしていくというよりは、「経営」という視点が重要になってくるかと思っています。今まで、多くの工場は一社依存だったわけですが、極論を言うと、これはカスタマーを考える必要もないし、基本的にその一社から言われたことをやればいい、となってしまうわけです。
しかしこれからは、どの市場で、どんな武器で攻めていくのかを自分で考えることも求められてくると思います。正に戦略であり、経営力が重要になる。今まで、ものづくり業界では職人の方が社長になっていましたが、もう一つのやり方としては、経営に強い方が入っていって、そこでタッグを組み、きちんと強みにフォーカスするという形もあるのではないかと。
基本的に技術力はあるわけですから、経営の、ある意味基礎的なところをやるだけで、一定の底上げは出来るのではないかな、と思っています。
浜田:さらに問いを広げますが、中小の製造業において、日本ならではのものづくりとは、つまり何だとお考えでしょうか。
浜野:もちろん技術力もありますが、やはりものづくりに誠実だという、国民性があると思っています。僕がずっと町工場の人達と付き合ってきて感じているのは、真面目で、きちんと約束を守る、お客様に良い物をお届けしようという、その想いです。
ただし、それがあまり関係のないところで発揮されたり、売り先、売り方を間違えていった結果、余計なコストがかかって会社の競争力が無くなったりもする。おそらく、この部分が最大の課題であり、差別化すべきポイントであり、強みになっていくのかもしれないなと、思っています。
加藤:私は二つあるかなと思っています。一つは行間認識力、これは先程お話ししましたように、読み取れるということ。図面でもなんでも、書いてないことも読み取れる力です。
そして、もう一つが絶妙な技術力。絶妙な、というのは、ある程度、どんなことでも実現できるレベルの技術力があるということです。つまり、求められていることが分かり、それが大抵実現可能だということ。これは凄く重要で、二つの力の掛け算が日本の強みだと僕は思っています。
では、それをどう生かしていくかという話になるのですが、それが強みとして形になるためには、技術や機械、その使い方、材料の購入費、色々なものがセットになっていなければならない。その全体をきちんとまとめて、伸ばしていけるような土壌を作る、つまり絶妙な技術力を、ある絞ったところに関して突き抜けた技術力に構造転換していく。これこそが、CADDiがやりたいことであり、日本の製造業の一つの活路かな、と思っています。(了)
浜野:技術やテクニック、いわゆるソフトを向上させていきたいというのはもちろんですが、やはり先人のおかげで日本のものづくりが世界からも尊敬されて、メイドインジャパンというブランドがあるわけですから、それを承継して次の世代に繋げていかなければなりません。そういう時に、工程管理であるとか、品質の在り方であるとか、そもそもの原点となる心構えや情熱を伝えることですね。AIやIoTといった技術がこれから進んでいく中で、そういったことが人によってできることの差別化なのかもしれないな、と思います。
加藤:私も、やはり技術をすごく底上げしていくというよりは、「経営」という視点が重要になってくるかと思っています。今まで、多くの工場は一社依存だったわけですが、極論を言うと、これはカスタマーを考える必要もないし、基本的にその一社から言われたことをやればいい、となってしまうわけです。
しかしこれからは、どの市場で、どんな武器で攻めていくのかを自分で考えることも求められてくると思います。正に戦略であり、経営力が重要になる。今まで、ものづくり業界では職人の方が社長になっていましたが、もう一つのやり方としては、経営に強い方が入っていって、そこでタッグを組み、きちんと強みにフォーカスするという形もあるのではないかと。
基本的に技術力はあるわけですから、経営の、ある意味基礎的なところをやるだけで、一定の底上げは出来るのではないかな、と思っています。
浜田:さらに問いを広げますが、中小の製造業において、日本ならではのものづくりとは、つまり何だとお考えでしょうか。
浜野:もちろん技術力もありますが、やはりものづくりに誠実だという、国民性があると思っています。僕がずっと町工場の人達と付き合ってきて感じているのは、真面目で、きちんと約束を守る、お客様に良い物をお届けしようという、その想いです。
ただし、それがあまり関係のないところで発揮されたり、売り先、売り方を間違えていった結果、余計なコストがかかって会社の競争力が無くなったりもする。おそらく、この部分が最大の課題であり、差別化すべきポイントであり、強みになっていくのかもしれないなと、思っています。
加藤:私は二つあるかなと思っています。一つは行間認識力、これは先程お話ししましたように、読み取れるということ。図面でもなんでも、書いてないことも読み取れる力です。
そして、もう一つが絶妙な技術力。絶妙な、というのは、ある程度、どんなことでも実現できるレベルの技術力があるということです。つまり、求められていることが分かり、それが大抵実現可能だということ。これは凄く重要で、二つの力の掛け算が日本の強みだと僕は思っています。
では、それをどう生かしていくかという話になるのですが、それが強みとして形になるためには、技術や機械、その使い方、材料の購入費、色々なものがセットになっていなければならない。その全体をきちんとまとめて、伸ばしていけるような土壌を作る、つまり絶妙な技術力を、ある絞ったところに関して突き抜けた技術力に構造転換していく。これこそが、CADDiがやりたいことであり、日本の製造業の一つの活路かな、と思っています。(了)
シリーズ「多様な価値を繋ぐ『日本発のプラットフォーマー』」
第4回 日本の町工場を未来へつなぐ:「CADDi」「浜野製作所」 インデックス
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前編:中小の機動力を生かした新事業開発を支える
2021年04月20日 (火)
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後編:絶妙な技術力を突き抜けた技術力に転換する
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