記事・レポート
日本元気塾セミナー
イノベーションを目指さない経営
森川亮の経営哲学に迫る
更新日 : 2016年07月06日
(水)
【後編】 イノベーションは強烈なパッションから生まれる
評価基準は「その人が必要かどうか」
米倉誠一郎: 「成功した人は未来に対して臆病になる」。非常に人間の本質を突いた言葉ですね。だからこそ、社内の変化に対しては、そこからの凄まじい反発があったでしょう?
森川亮: 毎日、スタッフの目が怖かったです(笑)。とはいえ、一時期はつらくても、人間はひとたび大きな壁を乗り越えることができれば、急激に成長します。結果的に、成長のきっかけを創出できたのだと思います。
米倉誠一郎: 変化に対応できる人、常に新しいことを生み出せる人を選別するために、給与体系を見直し、評価の仕組みもシンプルにしたということでしたね。
森川亮: 評価についてはかなり研究しました。以前、細かな項目を設けた5段階評価にしたところ、評価システムを表面的にハックする人が出てきてしまった。最終的に、上司・同僚・部下の360度評価にし、判断基準は「その人が必要かどうか」のみにしました。「必要がない」となった人には改善を求めるか、辞めていただく。シンプルにしたことで、評価のスピードが格段に速くなりました。
そもそも、評価の仕組みは「出世した人」が決めるものです。現在の日本は、どのようなことにも我慢できる人、リスクをとらない安定志向の人が評価され、空気を読まない人、野生動物のような人は評価されない仕組みになっている。旧来の評価システムの下で育った人は何の疑問も持たないはずですから、なかなか変わらない。そこを変えなければ、成長など望めないと思うのですが…。
米倉誠一郎: なるほど必要か、必要じゃないかなのですね。したがってLINEでは、チャレンジできない人、自ら仕事をつくり出せない人は自然と辞めていく。
森川亮: 誰もやったことのないことをやるとなれば、自分で道を切り拓いていくしかありません。だから、未来に価値を出せるタイプの人は、現在の仕事に固執しません。常に自分で新たな仕事がつくり出せるからです。
時間こそすべて:課題解決に規模は無関係
米倉誠一郎: 新しいことをやるとしても、現代のビジネスパーソンは非常に忙しい。森川さんの場合はどうでしょうか?
森川亮: 基本的に、午前中にその日の仕事を全部終わらせるようにしています。仮にクオリティが低かったとしても、とりあえず午前中に終わらせてしまい、午後はとにかく新しいことを考えて、つくる。結局、メールや書類づくりなど、日常的な仕事の多くは自分ではなく、アウトプットを待っている誰かのためにやるものです。だから、午前中に終わらせて素早く相手に返す。ダメだったらフィードバックが来るため、再びすぐに返す。相手の評価も聞かないうちから、時間をかけて分厚い内容を送るよりも、レスが早いほうが喜ばれる場合もあります。
米倉誠一郎: 参考になるなあ。秒単位でビジネス環境が変わるいま、時間をかけて分厚い書類をつくっても、すぐに陳腐化してしまいます。フィードバックが来る中で詳細をつめていけばいいと。そして、午後は自分が本当にやりたいこと、新しい何かを創り出すことに集中する。素晴らしいね。
森川亮: 限られた時間をどのように使うのかで、人生の楽しさは決まります。有効に使わなければ、あっという間に人生は終わってしまう。私自身、時間の使い方については常に意識していますね。
米倉誠一郎: 特にベンチャーや中小企業の場合、大企業に比べて資金もない、人もいない、チャンスも少ない。唯一平等なのは時間だけ。それを有効に活用できなければ、太刀打ちできません。
森川亮: 日本にも世界にもたくさんの課題があります。裏を返せば、いまの世の中は「課題を解決してくれる人」を求めている。そう考えれば、会社の規模にかかわらず、私たちがやるべき仕事はたくさん転がっていると思います。
動画配信プラットフォーム「C CHANNEL」
森川亮: LINEでは、世界中のパワフルな人々とビジネスをしましたが、それに比べて日本人、特に若い世代は元気がない。1つの理由に、日本のマスメディアがあると考えています。チャンネルを回せば、朝から晩まで本質的ではない話、暗い話ばかり流れています。それをシャワーのように浴び続けたことで、将来が不安になり、元気がなくなり、夢も持てなくなる。
そこで、日本を元気にするような新しいメディアをつくろうと考え、2015年の春、動画配信プラットフォーム「C CHANNEL」を立ち上げました。具体的には、女性を中心とした日本のカルチャーを短い動画にのせて世界に配信し、動画を起点にした新たなコミュニケーションの創出を目指しています。
伝える役割を担うのは、日本の「女性」です。日本の女性は世界中で人気があり、文化を発信する意味では最も効果的です。また、私の経験から言えば、新しいものを最初に受け入れてくれるのは若い女性です。日本の女性たちが自国の様々な文化を紹介し、それをアジアや世界の女性たちが見る。そこから新しいコミュニケーションが生まれると考えています。
スタート当初は苦戦したものの、その後は動画再生回数も順調に増え、現在は月間1億回を超えるようになりました。また、最初は日本語だけでしたが、現在は英語、中国語、タイ語への対応も始めており、今後は本格的にアジアや世界に打って出る、というところまできています。
イノベーションは「目的」ではない!
森川亮: 「イノベーション」は、起こそうと思ってもなかなか起こせません。計画を立てて、その通りにやれば実現するものでもない。そもそも、目指すものではないのです。多くの人が求めるものを極限まで考え抜き、本質的なニーズをより良い形で愚直につくり続ける。それに対して、多くの人が価値を感じてくれた瞬間に生まれる「結果」だからです。
米倉誠一郎: イノベーション自体が目的になれば、絶対失敗します。○○という大きな課題を解決したい。たくさんの人の喜ぶ顔が見たい。本来は、抑えようとしてもあふれ出てきてしまう、強烈なパッションから生まれるものですよね。さらに、そうしたパッションは、ルールや常識に縛られない自由な発想から生まれる。
ジャニス・ジョプリンの歌に“Freedom is just another word for nothing left to lose”という一節があります。何も失うものはない。本当の自由とは、まさにそこから生まれる。森川さんは大企業で働かれていましたが、大きな組織は自由にできないことも多いですよね?
森川亮: 私の場合は、どの会社でも自由に働いていましたね(笑)。企業にとって大切なのは、自由かどうかよりも、変化に対して柔軟に対応できるスピードだと思います。現在のビジネスは、まさに急カーブだらけです。昨日と今日で環境が一変することも多い。そのため、急カーブを曲がれずに、事故ばかり起こしている大企業も増えています。さらに、運転手にセンスがない、先を見通す能力がないケースも多い。
米倉誠一郎: それでは、日本の若者も夢や希望が持てなくなる。だからこそ、「C CHANNEL」は日本を元気にするメディアになると。
森川亮: とにかく、自分が関わることで世の中が豊かになるようなことがやりたかった。LINEを離れる前から様々な分野を検討した結果、メディアの領域は誰かがアクションを起こさなければ、ますます悪い方向に進んでいくと感じました。
米倉誠一郎: 特に、マスメディアはサブリミナル効果が強烈です。それが若い世代にはボディブローのように影響する。
森川亮: こうした課題があるせいで、日本の子どもや若者たちの元気が失われている。そして、日本の文化が持つ本当の魅力や素晴らしさも、現状では国内だけでなく、世界にもきちんと伝わっていません。スマートフォンやSNSが普及し、メディアのあり方が変わりつつあるいま、「C CHANNEL」を通じて日本を中からも外からも変えていきたいと思っています。
米倉誠一郎: 近いうちに「C CHANNEL」が世界を席巻するメディアとなり、日本が元気になることを期待しています。森川さん、ありがとうございました。
気づきポイント
●変化の激しい時代においては、組織もまた、絶えず変化し続けることが必須となる。
●評価の仕組みは「出世した人」が決める。そこが変わらなければ、成長など望めない。
●イノベーションは、ルールや常識に縛られない自由な発想と、強烈なパッションから生まれる。
●評価の仕組みは「出世した人」が決める。そこが変わらなければ、成長など望めない。
●イノベーションは、ルールや常識に縛られない自由な発想と、強烈なパッションから生まれる。
該当講座
イノベーションを目指さない経営
LINEのCEOを退任した森川氏と日本元気塾塾長の米倉氏の対談です。
「イノベーションは目指さない」と明言する森川氏がLINEを世界的なサービスに育て上げたプロセスや、激変する経営環境での新たな挑戦を存分に語っていただきます。
日本元気塾セミナー
イノベーションを目指さない経営
インデックス
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【前編】 変化を強みにできる者が時代をリードする
2016年07月06日 (水)
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【後編】 イノベーションは強烈なパッションから生まれる
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