記事・レポート
「FCバルセロナのウィニングカルチャーから学ぶ・いま組織文化が注目される理由」
IESEビジネススクール × アカデミーヒルズ 共催セミナー
更新日 : 2019年12月16日
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後編 メンバー全員の価値観へのコミットメントが、お互いを救う
文化という「普通」をつくるためのルール
企業リーダーの間で、スポーツにおける「常勝の組織文化」がいま熱い注目を集めている。IESEビジネススクールが9月2日に東京で開催したフォーラム、「FCバルセロナのウイニングカルチャーに学ぶ」での議論を、前編に続いて振り返ってみよう。集団において、メンバー全員が「当たり前」とみなす考え方や行為がある。常勝チームづくりの指導で名高い中竹竜二氏は、それが「カルチャー」だと話す。
「カルチャー」は自然発生するものではない。組織文化への途の第一歩は、リーダーが己と向き合い、自分が欲すること、そして自分らしく目標に向かっていくための価値観を定義することにあると、IESEビジネススクールのラーニングイノベーションユニットのディレクターを務めるマーク・ソスナ氏は指摘する。
「まずは自分を起点に始めることです」
特別フォーラム「FCバルセロナのウイニングカルチャーに学ぶ」に集まった聴衆を前に、ソスナ氏はそう語った。
フォーラムではソスナ氏と中竹氏がそれぞれ講演という形で見識を共有した後、両氏によるパネルディスカッションが行われた。IESEのエグゼクティブ教育部門アジア統括を務める加賀谷順一氏の司会のもと、参加者から質問を交えながら掘り下げた議論が展開された。
ソスナ氏によると、組織文化は内部者のためだけのものではない。組織の価値観は、周りの全ての人々に影響するから、自分たちの組織を象徴する価値観をしっかりと見極めるべきだという。
価値観を定着させるツールとして規律を設ける組織も多い。例えば遅刻厳禁というルールがあれば、お互いの時間を尊重する姿勢が徹底される。また、「規律なし」をルールに自主的な判断を奨励するラグビーチームもあると中竹氏は話した。馴染みにくい規律も、月日が経てば誰もが考えもせずにその通りに行動するようになる。
FCバルセロナの黄金時代を築き上げたジョゼップ・グアルディオラ監督も始めは多くの規則を設けていたが、文化が定着するとルールを撤廃したと、ソスナ氏は話した。
メンバー全員の価値観へのコミットメントが、お互いを救う
だが、文化の構築が思うように進まない場合はどうしたら良いのだろうか?「もしチームメンバーがリーダーをリスペクトしなかったら?」という参加者の問いに、中竹氏は、「正直さ」が鍵となると答えた。2006年にコーチ経験ゼロで早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、その後、大学選手権2年連続制覇に導いた道のりを振り返ってのコメントだ。
「チーム作りを始めたときは、コーチや選手のほとんどが私のやり方を拒否していました」と語った中竹氏。
「自分らしく振舞うこと、それが(重要な)コンセプトです。私は私らしく、あなたはあなたらしく。苦情があるなら、はっきりと正直に言ってもらいたい」
重要なのは己のリーダーシップスタイルを知り、自分らしく指導することだという。そして、正直にぶつかってきてくれたことに感謝の念を表すことを忘れないのだそうだ。
「それにより、何でも話し合えるという『精神上の安全性』が感じられるようになり、文化が出来上がっていくからです」
上司から組織の価値観に背く指令を受けた場合の対応についても質問が上がった。ソスナ氏は、長期的に精神面への影響も考え、衝突を恐れずに、上司に違和感があることを率直に伝えて話し合うべきだと助言した。
上に立つ者が価値観を無視し続けると、組織は「危機」に陥る。参加者の一人が指摘したように、FCバルセロナのパフォーマンスは現在、往時に比べると期待を下回っている。ソスナ氏によると、これはクラブの会長や監督が代わり、バルサの価値観の維持よりも点数がとれるスタープレーヤーの獲得に注力し始めたからだという。バルサは過去に、その文化に馴染みのない監督が価値観と相反する練習方法を命じたこともあったという。その時選手の一人が、「コーチ、話し合いましょう。このチームではそういうプレーの仕方はしませんから」と申し立てたという。
この選手のように、メンバーひとりひとりが組織の価値観を擁護していける状態にすることも、組織文化の目的であるとソスナ氏は話した。だからこそFCバルセロナは、育成機関であるラ・マシアの選手を送り迎えする運転手やその他の「コミュニティー」のメンバーにバルサの価値観を伝授し、それにもとづく考え方や振る舞い方を教育するのだという。
価値観にはまりすぎ、チームが柔軟性を失ってしまうことはないかという参加者からの問いに対しても、ソスナ氏はチームメンバーの重要性を強調した。バルサのグアルディオラ監督は常に自分にチャレンジしてくれる人間を数人おいていたという。
「これまで急成長中の企業のCEOと働いた経験もありますが、『どんどん動こうとしている自分を必要に応じて止めてくれる人は周りにいるか?』と正すのが重要だったりします」
最後に、参加者へのメッセージとしてソスナ氏は、目指す行動を自然に行えるようトリガー(気付かせてくれる仕組み)を日常生活に埋め込み、行動を習慣化していくことを奨励した。
中竹氏は毎日徐々に「変化」をもたらす行動を続けることが重要だと話した。
左:加賀谷順一 (IESEビジネススクール エグゼクティブ教育部門アジア統括)
「そして何よりも、明日はPCやスマホでラグビーワールド・カップをチェックすることです!」と、中竹氏は笑顔でフォーラムを締めくくった。
「FCバルセロナのウィニングカルチャーから学ぶ・いま組織文化が注目される理由」 インデックス
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前編 利得に振り回されない「組織文化」が勝利を招く
2019年12月16日 (月)
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後編 メンバー全員の価値観へのコミットメントが、お互いを救う
2019年12月16日 (月)
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