記事・レポート
特別対談「鎌倉から新しい資本主義の話をしよう」
『鎌倉資本主義』出版記念セミナー
更新日 : 2019年04月15日
(月)
前編:人のつながりや環境の魅力を、地域の「資本」とする
面白法人カヤックは、ゲーム・広告・Webサービスなど幅広い領域で面白いコンテンツを発信しつつ、面白い組織のあり方や働き方も探求する会社。創業20周年の2018年に拠点の鎌倉でオープンした「まちの社員食堂」は、ユニークな地域活性化の試みとして注目されています。その背景にあるのは、従来の経済資本に加え、人のつながりや環境の魅力を新たな資本指標とする、新しい資本主義の発想です。同社の柳澤大輔CEOによる書籍『鎌倉資本主義』の出版を記念した本セミナーでは、前半に柳澤氏のレクチャー、後半にWIRED日本版編集長、松島倫明氏との対談が行われました。そのダイジェストをお届けします。
開催日時:2018年12月10日(金)19:00~20:30
スピーカー:柳澤大輔(面白法人カヤック代表取締役CEO)、松島倫明(WIRED日本版編集長)
文:内田伸一 撮影:田山達之
柳澤大輔(面白法人カヤック代表取締役CEO)
資本主義の中で、企業が人を幸せにする方法
柳澤:書籍『鎌倉資本主義』を書いた背景には、まず地域資本主義という言葉があります。「地域」と「資本主義」という言葉を組み合わせた造語で、それぞれの地域に固有の資本を指標化し、従来の資本主義と同じように増やしていこうというものです。地域の数だけ、地域資本主義があると思いますが、僕らは鎌倉でやっていこうと思い、「鎌倉資本主義」としています。まず、資本主義は人の幸せに貢献すべく作られたものであるはずだ、という前提があります。GDP(国内総生産)という指標を見つけて、豊かさを測るという点からスタートしたわけです。しかし、物質的な豊かさと幸せが必ずしもリンクしなくなっています。
ところで、「幸せになるための4つの因子」の話があります。これは統計学的調査に基づくそうで、以下のようなものです。
幸せになるための4つの因子
前野隆史教授の幸福学の研究より引用
- とにかくやってみようと思える
- ありがとうが多い
- なんとかなると思える
- 自分らしく、ありのままに生きる
前野隆史教授の幸福学の研究より引用
面白法人カヤックも、ここで働く人が面白がれる、幸せになれる職場をつくろうとスタートしました。これを突き詰めて考えた結果、どうやら「自分ごと」、つまり一人ひとりが「自分がこの会社をつくっている」と思える状態になると、楽しくなる。そこで経営理念は「つくる人を増やす」としました。社員は入社するとまず名刺を自らデザインするところからスタートし、公式サイトには社員一人ひとりのページをつくり、自身で制作した実績を掲載するなど、「つくる人」として自律的に働いてもらうことにこだわっています。
さらにこの「自分ごと」化への体質改善的に、ブレスト(ブレインストーミング)を重視しています。テーマに対して皆でアイデアを出し合うだけで、ポジティブになるし、相手を否定せず、ヒエラルキーも関係ないので、素を出さざるをえない。先ほどの幸せの因子に近い状態になります。
同時に重視してきたのが、「何をするか、誰とするか、どこでするか」。会社は主に「何をするか」に特化する集団ですが、楽しく働くためには「誰と」「どこで」するかも重要でしょう。そこでカヤックでは20年かけて、鎌倉という場を選び、人の採用には徹底的にこだわるということをしてきました。
「人のつながり」「自然や文化」の価値を可視化し、持続可能な資本主義へ。
鎌倉資本主義の考え方は、従来の資本主義で重視されてきた地域経済資本(生産性)に加えて、地域社会資本(人のつながり)、地域環境資本(自然・文化)、この3つを地域資本とするものです(図) 。これは「何をするか、誰とするか、どこでするか」にもつながっています。地域社会資本や地域環境資本は「見えない資本」ですが、これを指標化するために、ブロックチェーン技術が利用できると考えています。
ブロックチェーン技術で、たとえば「人のつながりを増やすこと」にしか使えない地域通貨をつくることが技術的に可能です。たとえばコミュニティに参加したり、人におごることで増えるお金です。社員への給料に加え、手当としてこの地域通貨を支給することで、社員が地域内での信用資本を蓄積することも可能になるかもしれません。こうして使い方を限定した通貨を通じ、幸せを増やしていく。
会社にとって、売上や利益はやはり重要な指標です。そこを否定するのではなく、ただお金が使われる流れを少し変えるだけで、新しい価値観につなげていけるのではないかと思っています。結果、その町の一人あたりの地域社会資本と地域経済資本の量や、資本全体におけるその割合がある程度見えてくる。すると「うちの地域、地域経済資本はそこそこだけど、地域社会資本は効率よく増えているな」などの指標が得られる。完全な可視化は無理ですが、一部が読めることで、地域特有の魅力も打ち出せるでしょう。この考え方を充実させるべく、2019年に、まずは地域通貨を扱う関連アプリを出す予定です。
昨今は資本主義の限界がよく言われます。理由としては、富が一部に集中してしまう構造や、生産を追求した結果、環境破壊が進んでしまうことが指摘されます。これらも上述の新しい資本指標により、富の分散や、環境破壊の抑制に作用し得るかもしれない。まだ見立てが甘い部分もありますが、経済資本に加えて2つの資本指標を用いることで、より持続可能な資本主義が実現し得るのではないでしょうか。
特別対談「鎌倉から新しい資本主義の話をしよう」 インデックス
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後編:資本主義を否定しない、新しい経済と幸福の関係
2019年04月15日 (月)
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前編:人のつながりや環境の魅力を、地域の「資本」とする
2019年04月15日 (月)
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