記事・レポート

ビジネス・チャレンジ・シリーズ
「分身ロボット」がつなぐ未来

人工知能にはできない「孤独の解消」を目指す

更新日 : 2017年11月14日 (火)

第1章 孤独な少年時代/創作折り紙からロボットへ

ビジネストレンドの最前線で活躍する方をゲストに迎え、ビジネスパーソンの役立つ視点を提供する「ビジネス•チャレンジ•シリーズ」。今回は、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を開発した吉藤健太朗氏をゲストにお招きしました。不登校や入院中でも、自分の分身としてOriHimeを学校や職場に置くことで、仲間と共に学び、語り合い、働くことができます。自らの体験を糧に「孤独を癒すこと」を生涯のテーマに定め、世界で唯一の「存在感伝達ベンチャー」として新たな領域を切り拓く吉藤氏に、前刀禎明氏が迫ります。

吉藤健太朗(ロボット•コミュニケーター/分身ロボットアーティスト、株式会社オリィ研究所 代表取締役所長)
モデレーター:前刀禎明 (株式会社リアルディア 代表取締役社長)

文:太田三津子 写真:鰐部春雄

気づきポイント

●重要なのは「どうつくるか」より「何をつくるか」。
●自分のほしいものが世の中になければチャンス。自分でつくれ。
●情報は少ない方が人間の想像力は働く。
●「情報」が価値であると同様に、「存在」も価値である。
●考えるときはひとりで。そして常に考え続けよ。



折り紙が創作活動の原点だった
写真左:前刀禎明 (株式会社リアルディア 代表取締役社長) 写真右:吉藤健太朗(ロボット•コミュニケーター/分身ロボットアーティスト、株式会社オリィ研究所 代表取締役所長)


吉藤健太朗: 私は小さい頃から身体が弱く、室内で遊ぶことが多かった。折り紙が好きでしたが、本を見ながら折るのは面白くない。そこで小学校3年生頃から創作折り紙を始めました。

身体が弱いことに加えて授業をじっと聞くのが苦手でした。小学校でもどうやって授業から逃げ出すことばかりを考えていた。小学校5年生から約3年半、体調不良のストレスから不登校になり、学校の勉強は一切せず、創作折り紙に夢中になっていました。これが私の創作活動の原点であり、「オリィ」と呼ばれている由来です。

学校という居場所を失い、自宅で天井を見つめ続けていた私に、あるとき母が言いました。「折り紙ができるんやったら、ロボットもつくれるはず。ロボット大会に申し込んでおいたから」。なんとも無茶な話ですが、出場した地区大会で偶然にも優勝しました。1年後の全国大会に向け、本気でロボットづくりに取り組み、全国大会で準優勝。このとき人生で初めて努力が報われた喜びと、優勝できなかった悔しさを味わいました。

創作折り紙やロボットは、皆さんが思うほど難しくはありません。ロボットを例にとれば、Arduinoという基盤が2000~3000円で手に入る。これとパソコンをつないでプログラムを転送すれば、簡単なロボットができます。

昔と違って、ものづくりのハードルは下がっています。ものづくりに重要なのは、「どうつくるか」という方法論より、「何をつくるか」という発想です。それには「こんなものがあってもいいじゃないか」と、常に考え続けることです。


安全でカッコいい電動車椅子をつくる



吉藤健太朗: ロボットの全国大会で、私は師匠に出会います。「奈良のエジソン」、久保田憲司先生です。2001年のことでした。ASIMOが二足歩行したと騒がれた時代に、久保田先生は一輪車ロボットを作り上げていた。「凄いな!」と感激し、弟子入りを申し出ます。久保田先生が教鞭をとっている工業高校に入り、つくりたかった理想の電動車椅子の開発に黙々と取り組みました。

病院で車椅子を使っていた私は、車椅子に不満がありました。
•重心が高く、傾斜に侵入すると転倒の恐れがある。
•段差を乗り越えられない。
•前輪が小さく溝にはまる、段差にひっかかる。
•タイヤが浮いて滑る、等々。
しかし、それ以上に、子ども心に許せなかったのは「見た目がダサい」ことでした。

視力を補完するメガネを考えてください。メガネをかけても障害者とは見られない。しかし、車椅子は乗った瞬間から障害者と見られるし、障害者になった感じがします。車にも椅子にもカッコいいものがあるのに、なぜ、2つを合体させた電動車椅子がかくもダサくなるのか。「優れた福祉機器とは、障害者を健常化するものだ」。そう思った私は、安全でカッコいい、理想の電動車椅子をつくろうと取り組みました。

コンセプトは「ひとり乗りのオープンカー」。見た目だけでなく、先ほど挙げた問題点をクリアすべく、傾きを感知するジャイロセンサーを使った水平制御システムを加え、段差を乗り越えられる機構もつくりました。

この電動車椅子は数々の賞を受賞し、インテル国際学生科学技術フェア(ISEF)のエンジニアリング部門で世界3位に入賞します。ISEFは、いわば高校生の科学のオリンピックで、後のノーベル賞受賞者を輩出しています。

世界大会に行って驚いたのは海外の高校生の意識の高さです。「この研究をするために、僕は生を受けた。これは僕の人生そのものだ」といったことを大真面目に語るのです。日本でそんな高校生に会ったことはありません。彼らに会って、自分は何のために生まれてきたのか、自分は何をしたいのか、真剣に考えるようになりました。

帰国すると、高齢者や障害者の方からいろいろな相談がきました。「ローラーのついた座布団をつくってほしい」というリクエストもありました。足が悪いおばあさんを、50代の娘さんが座布団ごと引っ張って移動させているのだそうです。

私は衝撃を受けました。理想の電動車椅子をつくったとちょっといい気になっていましたが、とんでもない思い違いです。我々の電動車椅子はごく普通の日本家屋では使えない。車椅子の研究はとても興味深く楽しかったのですが、どんな環境の中で使われるかも知らずに、つくっていたことを猛反省しました。


「孤独の解消」こそ、人生をかけて取り組むテーマ

吉藤健太朗: そこで、高齢者や障害者の方々にどんな問題があるのか、どんな悩みを抱えているのかを聞きまくりました。その結果、手足が不自由という問題と同じくらい、寂しさや孤独感というストレスに苦しんでいること、それによって生きる気力まで低下していることがわかったのです。

日本には1千万人の高齢者がおり、6万人以上の病気などで学校に通えない子どもがいる、17万人の高校生の引きこもりがいる、と言われています。私もそのひとりでした。孤独が鬱病や認知症の原因になるというのは本当です。私自身、身を持って孤独の辛さを体験していましたから、よくわかります。

今後ますます、孤独という問題は大きな社会問題になるでしょう。「多くの人を苦しめている孤独というストレスを解消すること」。これは人生をかけて取り組むテーマになると思い、17歳から今日まで12年間、このテーマに取り組んできました。


該当講座


「分身ロボット」がつなぐ未来
「分身ロボット」がつなぐ未来

今回のビジネス・チャレンジ・シリーズでは、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を開発する吉藤健太朗氏をゲストにお招きします。町工場との協働で「OriHime」を製品化させてきた吉藤氏に、独自にビジネスを開拓してきた経緯をお話いただくことで、新しいビジネスを始める上でのヒントを得ます。


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