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旨い、美味しい !?

読みたい本が見つかる、「カフェブレイク・ブックトーク」

更新日 : 2010年09月15日 (水)

第3章 旨さは時代々々によって変わる?

六本木ライブラリー カフェブレイクブックトーク 紹介書籍

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<うちご飯>の変わり様

澁川雅俊: 『うちのご飯の60年-祖母・母・娘の食卓』(阿古真理著、09年筑摩書房)という本があります。これは、劣悪な食糧事情の最中にあった1945年から飽食のこの時代まで、家族を支えた<うちご飯>の変遷を辿っています。『ごはんのことばかり100話とちょっと』(よしもとばなな著、09年朝日新聞出版)もその系統の本なのですが、いずれも直近半世紀の現代日本の食文化誌です。そしていずれもいま<うちご飯>は「食べたい私が主役」となって変わりつつあると書いています。

ところがその行く末を暗示するような本も出現しています。『家族の勝手でしょ!-写真274枚で見る食卓の喜劇』(岩村暢子著、10年新潮社)は、お菓子で朝食を済ませたり、みそ汁を家族で飲み回したりすることが日常茶飯事という状況を警告しているように見られます。長期にわたる食卓調査の結果に基づいて書かれたものですが、朝食にこんなコメントがついた献立の写真がありました。「激辛スナック、チョコ入りビスケット、あられ、醤油せんべい、海老せんべい、コーンスナック、ジャンボシュークリーム、ヨーグルト、オレンジジュース、コーヒーなど」(家族3人:主婦33歳・夫39歳・長男2歳・義父67歳・義母67歳。02年調査)。

もう一つこういうのもあります。「小学一年生の長女の朝食は、ボーロ(乳ボーロ)16粒と牛乳。私と主人(35歳)はいつもコーヒーのみ。娘は小学校で校長先生に『早寝早起き朝ご飯』と『洗脳』され、以来ウチで朝食を食べるようになった。」

こんなジャンク・フードの朝飯なんて、呆れるというより、唖然とされられます。

もしかして、これって学校での『変な給食』(幕内秀夫著、09年ブックマン社)の影響じゃないでしょうね。この本で紹介されている学童たちの昼食メニューは、まるで遊びです。でも子どもたちはそれらが好きなのでしょうね。こんな献立の給食がありました。「ジャムトースト、酢豚、蜜豆、牛乳」、「チョコチップパン、ワンタンスープ、たこ焼き、ジョア、アイスクリーム、牛乳」、「クリームサンド、焼きそば、牛乳」……と続きます。だとするとその子たちが大人になって自分で作る食べ物は『家庭の勝手でしょ!』にならざるを得ないですよね。

そんな本に出会った後で、食べ物とお酒についてのエッセイ『誇り高き老女たちの食卓』(本間千枝子著、09年NTT出版)で、「できあいの惣菜を拒絶」するなどという、私と同世代の誇り高きご婦人のコメントには、本当にホッとします。

変な食べ物、あるいは変な食べ方

変な食生活に人々を導く原因は、まずちょっと変わった食べ物が登場し、それを旨いと感ずる一人ひとりの味覚の開発、あるいは適応にあるようです。日清食品の創設者である安藤百福の『私の履歴書—経済人36』(04年日本経済新聞社)や『魔法のラーメン発明物語』(08年日経ビジネス文庫)に書かれているインスタントラーメンの出現とその後の展開がそれを証明しています。またハンバーガーもその一つに違いありません。『ハンバーガーの世紀』(J・オザースキー著、市川恵里訳、10年河出書房新社)は、この食べ物が世界的な広がりで現代食文化の転換のきっかけを作ったことを書いています。

ところで、『ホルモン焼きの丸かじり』(東海林さだお著、09年朝日新聞出版)という本があります。標題になっているホルモン焼きはもとより、他にもいろいろな変な食べ物のことや正統な食べ物の変な食べ方について軽妙なタッチで書かれています。例えばおでんなどで、こてこてに煮詰まった豆腐をまるごと大盛りの丼にのっけて食べるなんていうのは随分とへんてこですが、寒いときに家でおでんで一杯やったあとの、仕上げの定番になりそうですね。なおこの著者はこれまでにそうした旨そうなものばかり集めて「丸かじり」シリーズを32点も出しています(※2010年7月現在)。

それに対して例えば、『伝統食礼讃』(陸田幸枝著、06年アスペクト社)は、各地に伝わるさまざまな郷土食、あるいはソウルフードの旨さを口中で彷彿させるような軽妙なエッセイ集です。でも取り上げられているものの中にも変わった食べ物が結構あります。例えば、餅米を笹の葉で巻き、イグサでしっかりと結んで灰汁で茹であげた黄金色の笹巻(山形県庄内あたり)などは、これを最初に作った人の調理観を探ってみたくなります。

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