記事・レポート

ビジネス・チャレンジ・シリーズ
ニッポンの「ものづくり」変革のヒントを探る

~製造業をこよなく愛する若手2人の挑戦~

更新日 : 2018年06月18日 (月)

第1章 ものづくりへの2人の思い <プレゼンテーション>

ビジネストレンドの最前線で活躍する方をゲストに迎え、ビジネスパーソンに役立つ視点を提供する「ビジネス•チャレンジ•シリーズ」。今回は製造業から、注目の起業家ふたりが登場しました。30歳のときに単身、ユニークな家電メーカーを立ち上げた株式会社UPQの中澤優子CEO。そして、多様な可能性を持つコミュニケーションロボット「タピア」で話題の株式会社MJIを率いる永守知博代表。ファシリテーターは株式会社リアルディアの前刀禎明代表(元Apple米国本社副社長 兼 日本法人社長)が務め、異なる視点を持つ2人の起業家とこれからの「ものづくり」を語り合いました。

ゲストスピーカー:中澤優子 (株式会社UPQ CEO代表取締役)
永守知博 (株式会社MJI 代表取締役)
モデレーター:前刀禎明 (株式会社リアルディア 代表取締役社長)

気づきポイント

●既存の思考や仕組みから自由になれば、飽和ジャンルにもチャンスあり。
●ものづくり革命に必要なのは、マーケティングより、理念やアイデア。
●「使われること」から、新たなアイデアが広がるものづくりもある。
●製造業はいまも社会を支える基幹産業であり、同時に未来を開く鍵である。



既成概念から自由なベンチャー家電ブランド「UPQ」
中澤優子 (株式会社UPQ CEO代表取締役)


まずファシリテーターの前刀さんが、かつて在籍したAppleとソニーのものづくり哲学「差別化ではなく、人々に愛される製品をつくる」と、「客が欲しがるものではなく、客のためになるものをつくる」を紹介。そのうえで、ゲスト両氏のものづくりにおける「Pride(使命感)」「Enthusiasm(情熱)」「Challenge(困難の克服)」を聞きたいと語り、マイクを渡しました。

中澤優子さんは、30歳で単身立ち上げたUPQ(アップ・キュー)社で、2015年から同名の家電・家具ブランドをスタート。自ら企画したユニークな製品を展開中です。製造工程は中国などの工場と直接交渉することで、短期間に8カテゴリー、40種62アイテムを世に送り出すまでになりました。

前職はカシオ計算機の社員で、携帯電話の企画開発を担当。今でも敬意を込めて「おじさんたち」と呼ぶベテランたちに加わり、若い感性を新しい携帯電話の企画に生かしてきました。しかし会社がこの領域から撤退を決めたことで退社を決断。秋葉原でカフェを経営しながら企画やコンサルティングも請け負い、UPQの起業にたどり着きます。そこには前職での経験から抱くようになった、ある信条がありました。

家電メーカーの製品は大量の新製品が定期的に量販店に並びます。本来、そこでお客さんにワクワクしてもらうものだと中澤さんは思っていました。しかし、現実は違いました。「ラッキー、これでひとつ前の型落ちモデルが安くなる!」と、新しい製品を手に取らずに安くなった型落ちモデルでいいや、となっているのです。彼女はそんな現状を見て、悲しい気持ちになりました。メーカー勤務時代、現場には心血を注いでものづくりをしている人がいるのを見てきたからこそ、この負のサイクルを変えたい想いが強いそうです。それは同時に「作る側が自分も欲しいと思えるものづくり」を取り戻すことでもありました。

そんな想いからUPQでは、あえて家電量販店のポピュラーな製品カテゴリーを対象にしながらも、不毛なスペック競争ではなく「こう考えれば作り手も使い手も、より面白くなるはず」という解を示すことを目指しています。大事にしているのは「次は何をしでかしてくれるのか?とワクワクしてもらうこと」だと言います。

たとえば、従来のセオリーでは難しいシーズンカラーの展開。自社の供給量なら採算も合うレベルで色を絞り、ブランド全体にシーズンカラーを持たせることで「次は何色かな」と期待してもらう。売場でもブランド製品の集合体がひときわ目を引くアイデアです。さらに、折りたたみ可能な電動原付バイク 「UPQ BIKE」のヒットなど、大手にはない発想で注目されています。他方、量販店の売場に合わせたカテゴリー展開で商談をしやすくするなど「既存ルールのなかでうまく泳ぐこと」も考えながらブランドを育てています。

新しい生活様式と市場をつくるコミュニケーションロボット「タピア」

永守知博 (株式会社MJI 代表取締役)


一方の永守知博さんは、飄々とした印象ながら「製造業LOVE」なる熱い信条を掲げる起業家。ロボットとAIのベンチャー企業、MJI社の代表取締役です。同社の「タピア」は、卵形のかわいいコミュニケーションロボット。人間と話したり、音楽を流したりと、多様なコミュニケーションが可能です。すでに舞浜の「変なホテル」や長崎ハウステンボスの「変なレストラン」で働くほか、接客から介護まで幅広い可能性で活用が検討されています。また、個人購入できるモデルもあります。

永守さんは富士通でハードディスクのエンジニアとして勤務後、ボストン留学でMBAを取得。帰国後すぐ起業を考えましたが、「経営を学ぶならうちに来い」と言われ、父・重信氏の創業した電気機器メーカー、日本電産に合流します。日本を含むアジアのグループ各社の工場に赴き、品質管理や改善に取り組みました。同社はM&Aを通じて成長してきた経緯もあり、赴任先は課題を抱えた現場も多かったとか。そこで様々なものづくりを見て回ったことが、今に活きているそうです。その後、2009年には自らエルステッドインターナショナル社を設立。日本のベンチャー各社のものづくりを海外に届ける仕事を始めます。

これが軌道に乗ってきた2015年、現代表取締役社長トニー・シュウ氏と共同設立したのがMJIです。社名の由来は「More Joyful Innovation」の頭文字。人とロボットが共存できる世界をビジョンに掲げ、便利なだけではなく、ワクワクするプロダクトづくりがスローガンです。現状、自社製品は「タピア」のみですが、コミュニケーションロボットとしては世界で初めて「Microsoft Azure Certified for IoT デバイス」に認定されるなど、注目されています。

さらに昨年には資金調達を行い、「見るAI」の開発を本格化。カメラを通した状況判断ができれば「目の前のおばあさんが倒れた」「赤ちゃんの近くでコーヒーがこぼれそう」といった危険も通知できるとのこと。これはタピアの機能拡張を目指すものであると同時に、差別化が難しいコミュニケーションロボットやスマートスピーカーの世界で、「どんなロボットメーカーにも採用してもらえるAIを作ろう」という次の一手でもあるそうです。

該当講座


ニッポンの「ものづくり」変革のヒントを探る
ニッポンの「ものづくり」変革のヒントを探る

1人で家電メーカーを立ち上げた中澤氏、日本電産会長の次男でロボット「タピア」を手がける永守氏が登壇!日本の製造業が今後どのような価値を創造すれば良いのかを探ります。


ビジネス・チャレンジ・シリーズ
ニッポンの「ものづくり」変革のヒントを探る
 インデックス