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ニッポンの「ものづくり」変革のヒントを探る

~製造業をこよなく愛する若手2人の挑戦~

更新日 : 2018年06月18日 (月)

第2章 想いとロジックのバランスは? <ディスカッション>

前刀禎明 (株式会社リアルディア 代表取締役社長)


続くディスカッションでは、前刀さんがこれまでの話を受け、「作り手自身が、自分たちのつくるものを欲しいと思っているか」という点に言及。ゲストに意見を求めました。

中澤: 会社員として携帯電話を企画していたときは、いろいろな変化をみました。当時はガラケー時代で、モデルチェンジをしたら社員は家族分を買い替えていたんです。一生懸命つくったし、実際に世の中で一番だと思っていたから。それがiPhoneの登場後は、乗り換える人が増えていった。自社製品への愛情が薄れていくのがイヤで、私が最後に取り組んだのが2011年夏モデルでした。これはカシオ最後のガラケーだったので、カシオの携帯電話ファンだった人たち に贈るものとしてつくりました。それを送り出し、会社がなくなった後に顧客満足度調査でNo.1をもらいました。複雑な気持ちでしたが、やはり想いを注ぎ込んだものは評価される、正しかったんだなと。難しいけれど、これをやり続けなければと思いました。

前刀: 愛情を込めてものをつくっていると、妥協しないし、手抜きもしない。逆に、メーカーが仕事で「何となくつくってしまう」製品は、当然いいものにならない。作る側が欲しくないものは売れるわけもないでしょう。思い入れはすごく重要です。そこで永守さんに伺いたいのですが、「あなたはロボット愛がない」と言われたことがあると聞きました。これはどういうことでしょう?

永守: もともとMJIは、2014年末にトニーと「いまロボットがキテいる」と話して始まったんです。つまり、もともとロボットが大好きで始めたわけではない。我々は事業家なので、キテいるものには取り組まなければということです。でも今は僕も、タピアが好きですよ。売れてくれたらもっと好きになります(笑)。

前刀: 永守さんらしい(笑)。これも面白いポイントで、賢いベンチャー起業家としての姿勢だと思います。一方で、とにかくその領域が好きな人が挑戦するという場合もある。中澤さんはどちらかというと後者でしょうか。

中澤: もちろんUPQの全製品は、私自身も欲しいと思えるものです。ただ、自分がとにかく欲しいというより、みんな「も」私「も」欲しいもの、というのを大事にしています。

前刀: ビッグデータでニーズを分析してヒット商品がつくれると思うのは、馬鹿げた話です。ただ、作り手の思いだけが強すぎても、ということですね。その点タピアはまったく新しいもので、顕在的なニーズがあるわけでもない。新しいライフスタイルとその市場をつくることを狙うタイプでしょうか。

永守: それはありますね。「快適と安心」をくれるものをつくりたい。たとえば、家庭で働く主婦の自由な時間を1時間でも増やす方法とは何でしょう。洗濯機も食器洗浄機も、その便利さで知らないうちに自分の時間が増えていく。そういう、暮らしをサポートしてくれるものができればと考えています。戸締りや赤ん坊の見守りもロボットが助けてくれるようになったら、やはり時間は増えると思う。そういうことを狙っています。

ものづくりの逆風・試練への処方箋

前刀: 新しいものづくりをするうえで悔しい想いをしたこと、逆風を感じたことはありますか?

中澤: 女性だから、若すぎるからというので、ものづくりをわかっていないのではと言われたことは結構あります。ただ、私は割と粘り強い方なので、粘るなかで状況は好転してきたかなと思います。人様の評価に対して自分がいちいちブレていると、本当にやりたいことが貫けない。だから、よい時は浮かれず、耐える時は耐えるのがよいのでしょうね。

私は、怒られたり嫌われたりしても、チームがうまくいけばいいと思うタイプです。皆で何かを達成すると、最後はみんなで笑えるよねと。学校の文化祭などでも旗振り役が好きでした。いまも、ものづくりの途中ではケンカもあり、結構グサッとくることもあります(笑)。でも、それも一生続くわけじゃないよな、と思って。

前刀: 永守さんはいつも飄々とした印象。悔しさをバネに、みたいなことはないですか?

永守: ないですね。逆に、イエスマンばかり集めても面白くないので。

前刀: そういえば、前に伺った「スターバックス コーヒーで自慢できるロボット」というお話も面白かったのでぜひ。

永守: 仕様やスペックは後から考えるとして、たとえば「スタバのお店で知り合いに自慢できるものって何だろう?」と考えたほうが、面白いものがつくれるのではと思ったんです。みんなでこういうものを作ろうなんて考えると、だいたい平均点以下のものができてしまう。ですからもう僕の独断で決まっていく感じですが、そうでないと尖ったものはできないのではと思います。もちろん、そうして生まれたものが正解かどうかは、後の売上等で判断するべきですが。

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1人で家電メーカーを立ち上げた中澤氏、日本電産会長の次男でロボット「タピア」を手がける永守氏が登壇!日本の製造業が今後どのような価値を創造すれば良いのかを探ります。


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