「良質な知識」をより多くの人と共有し、世界にインパクトをもたらしたい!
~多数が互いの経験から学び合うことでヒトは進化してきた~
開催日:2018年6月7日(木)19:00~20:30
テーマ:Facebook CTOを経て「Quora」を創業したアダム・ディアンジェロ氏に学ぶ企業家精神
スピーカー:Adam D'Angelo(Quora 創業者)
モデレーター:米倉 誠一郎(日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/
一橋大学イノベーション研究センター特任教授)
スペシャルゲスト:Kenneth Pechter(法政大学 イノベーション・マネジメト研究科 教授)
文/清水 写真/鰐部 春雄
世界で注目を集めるユニコーン企業の若き創業者が来日
月間ユニークビジターが2億人を超え、オバマ前米大統領やヒラリー・クリントン氏など多くの著名人や専門家が使用していることで知られる米国発の知識共有プラットフォーム「Quora」。人工知能(AI)を活用するなど、新しい仕組みを導入しています。
創業者でCEOのAdam D'Angelo(アダム・ディアンジェロ)氏の来日スペシャル・セッションでは、AIの活用法や「質の高い情報とは何か?」など、白熱した議論が展開されました。
内に秘めるパッション
Facebookの初代CTOを経て、その後、自分で起業した会社「Quora」は多額の投資を呼び込み、オバマ前米大統領などの著名なユーザーが多く名を連ね、時価総額10億ドル以上のユニコーン企業に成長。さらに積極的に世界展開を進め、昨年末にQuoraの日本語版もオープン---。
知識共有サイト「Quora」を創業したアダム・ディアンジェロCEOの華々しいバックグラウンドを伺うと、それだけで貪欲でアグレッシブな方を想像するかもしれません。
しかし、ディアンジェロさんを一目見ると、多くの人はこの想像は間違っていたと思わされるでしょう。
今回彼の来日時に開催されたアカデミーヒルズ・スペシャルセッションでは、「知識が持つ価値」と「テクノロジーの力」を誠実に信じ、自分だからこそできることで世界にインパクトをもたらしたい、とご自分のパッションに真摯に向き合う好青年という印象が強く残りました。そして、それこそが彼を現代のユニコーン企業のCEOたらしめるのかもしれません。
ディアンジェロさんのお話は古代、人類が最初に言語を使うようになったときにまで遡ります。言語の発明は、それぞれの経験を共有し、互いに学び合うことを可能にし、人類の進化を大きく前進させました。
その後、印刷技術によって本や新聞などの媒体が流通することで、知識共有は広がりを見せます。そしてさらにインターネットの登場により、あらゆる情報にほぼ無料でアクセスする自由を人々は得ました。
しかし、私たちはいまどのような状況にあるでしょうか?情報過多でフェイクニュースや真偽不明な情報が横行し、自分が本当に必要としている正確な知識へのアクセスができているのかどうか、分からなくなっています。
Quoraは、インターネットを使い、多数の人が参加する場でありながら、そこで共有される知識のクオリティをAIと人間の評価によって保つことで、他の知識共有サイトとの差別化を図っています。
参加者の規模が小さいと、そこでの対話の質は比較的安定しますが、参加する人数の規模が大きくなればなるほど、クオリティの担保が難しくなる、とディアンジェロさんは言います。しかし、規模が小さいとその分、共有される知識や経験も相応に狭いものとなってしまいます。
インターネットの持つ規模の力を存分に享受しつつ、AIを通じて膨大な情報にフィルターをかけることで良質な「知識共有の場」を作ることを目指しているのが「Quora」なのです。
人工知能(AI)と人間が補完することでクオリティを保つ
AIは、これまでQuoraで得たデータを学習し、投稿された質問に対して最も的確に回答できるのは誰かを探し、マッチングします。そこでなされた回答を人々が評価し、AIにフィードバックされることによって、次のマッチングに活かされます。
ディアンジェロさんによると、AIは質問者と適切な回答者を効率的にマッチングすることができるものの、それだけで質を保つことは難しく、人間が回答を評価するという仕組みが同時に重要な役割を果たすといいます。質の高い回答に良い評価が集まることでインセンティブをもたらし、質の低い回答は低く評価されることで改善を促す---正確で効率的なAIと内容を評価する人間が相互に補完し合う仕組みがQuoraでは不可欠だということが強調されました。
くだらない、無駄、無関係と思われることにも価値がある!?
このスペシャルセッションのモデレーターを務めた、米倉誠一郎・日本元気塾塾長は、「何をもってクオリティというのか?」と問いかけます。本当に適切な回答をくれる人は、Quoraのユーザーではないかもしれない。ハイクオリティな回答をくれる素晴らしい人々を誰が素晴らしいと言うのか?と鋭く斬りこみます。
「クオリティ」をどう定義するのかによる、とディアンジェロさん。Quoraでは、質問者を本当に助ける回答が質の高い回答だと考えており、それを評価するのはユーザーであり、内容が必ずしもロジカルでなく、ユーモアを含めた面白いものであっても、その回答を人々が評価すれば、AIにとっては良い回答だったというデータとなる、と返します。
「ロジカルで的確な回答よりも、一見、無関係で的外れな回答から新たな発見やインスピレーションを得ることがある」と米倉教授はさらに質問します。AIはそのような回答を学習し、自ら突拍子もない回答を出してくることはこれからあるのでしょうか。
ディアンジェロさんの答えは、「少なくともこの10年、20年の間はそういうことは起こらない」ということでした。
この言葉に米倉先生は大きく頷き、何かを確信した様子。
その後も、米倉教授とスペシャルゲストのケネス・ペクター教授による鋭い質問は続き、会場との質疑応答も活発に行われました。一つ一つの質問に対して、誠実に丁寧に答えようとするディアンジェロさん。一貫していたのが、Quoraを通じて目指している「良質な知識」をより多くの人に共有し、世界にインパクトをもたらしたい!という想いでした。
ソーシャルメディアが持つ力が全く認知されておらず、知名度もなく、当時20名しか社員がいなかったFacebookに入社したいと思ったのも、自分ならではのインパクトをここで発揮できると感じたから。
多数が互いに学び合うことで進化してきた人類にとって、「知識」と「経験」の共有が何よりも大切だと信じ、自分ができることを信じる力がディアンジェロさんの原動力であり、多くの人に共感される力であると感じたセッションでした。
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