「早く失敗しろ!」それがイノベーションへの道。
~Start small, Fail early, Learn fast!~
日本元気塾セミナー
・2018年5月10日(木)19時~20時30分
・テーマ:発明をイノベーションに繋げる力
・スピーカー:天野浩(名古屋大学教授)
・モデレーター:米倉誠一郎(日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/
一橋大学イノベーション研究センター特任教授)
文/熊田 写真/御厨 慎一郎
「日本でイノベーションを起こすために何が必要か?」という話題では、米国と日本の大きな違いは“Fail early”が出来る環境か否か、日本でも「失敗を許容できる環境を!」という展開になりました。米倉先生から「Start small, Fail early, Learn fast!」というワードが繰り返し発せられました。
■大学と産業界が連携して、イノベーションのエコシステムを創る
- 青色LEDの発見では、我々大学はシーズを提供しただけで、イノベーションを起こしたのは産業界だと思っている。「0-1」のシーズは大切だが、「1-10」(シーズをビジネスに発展させる)こともイノベーションでは重要である。「0-1」は運も関係して確率・効率は悪い。それに対して「1-10」は努力すれば可能性が高くなる。日本の大学はもっと「1-10」に注目すべきではないか。そして、青色LEDは30年かかったが、10年で社会実装できるぐらいのスピード感が必要である。
- 現在、名古屋大学で取組んでいるのが「トランスフォーマティブ・エレクトロニクス」である。エネルギーを電気信号に変える効率の向上を目指している。青色LEDの材料がトランジスタとして使えるならば、変換の際の損失を1/10以下まで下げる事が可能。計算上は日本の発電コスト(全体で10兆円)を1.7兆円下げることができる。それ以上に新産業創造という点では100倍近い効果があると考える。これは非常に大きなマーケットになる。
- 例えば、新しい通信技術の「5G」は一度に大量の情報を送ることができる。そのために周波数を上げる必要があるが、それに対応できるのは青色LEDの材料しかない。自動車の自動運転の場合、今の技術だとスーパーコンピューターを車に積まないと運転ができないが、そうすると電気が全く足りない。無線通信でサーバーにアクセスしながら自動運転しなければならないが、この要求に耐えられるのは青色LEDの材料だけである。
- そして、青色LEDの材料でトランジスタを作ると、ワイヤレスで電気を充電できるようになる。もう少し技術が進むと「エアータクシー」、「電動飛行機」、「自動運転のドローン」が可能になる。それを実現させるのが青色LEDの材料である。将来はアシストロボットやドローン、自動運転車への「無線給電」が実現可能になる。
- これらを実現させるために大学で何ができるか?を考えた。今まではシード(種の研究)しかできなかったが、もっとイノベーションに近いことがしたい。そのためにコンソーシアム(44の民間企業、3つの国立法人研究所、20の大学)を作って仲間を集めた。海外からも研究者を招いて一同に界して研究ができる環境を整えた。特に企業同士だと直接繋がりにくいので、その間を大学が繋いで「産—学—産」という関係を築き、企業も自由に議論できる場を作ろうとしている。
- 人材育成にも力を入れている。工学系研究者でも「どうなってビジネスに繋げるか、会社を興すか」というビジネスまで視野に入れた人材であるイノベーター、ディプロイヤー(色々な技術を組み合わせて新しいシステムを作る)、そして卓越した研究者の三角形を目指している。そのために企業に大学の教育にも参加してもらう仕組みを考えている。「Win-Win-Win」(大学、企業、学生)が実現するのではないか。卓越大学院プログラムとして始めたいと思っている。
■日本に足りないのは、規制緩和、そして“Fail early!”(早く失敗しろ!)
後半は、天野先生と米倉先生との対談。「日本でもイノベーションを起こすために必要なことは何か?」が話題の中心。
日本は、研究体制・組織力ですでに負けている。
米倉: 公費支出に占める教育費の割合が日本はOECDで5年間最低水準である。世界で戦うためには、機材やチームを組むなど費用がかかる。莫大な投資をしているシンガポールや中国と競争するのは、今の研究体制では不安を覚える。
天野:学生に対するサポートも大切だが、奨学金も少ない。企業に参加してもらい財政的に大学が自立できる仕組みを検討している。国全体で取り組む必要がある。
米倉: ノーベル化学賞を受賞された野依良治先生から聞いた話。「アメリカでは野依先生に8名のスタッフが付いた。日本に帰ってきたら、8人の先生に1名のスタッフが付いた。」これでは勝てない。日本は個人の能力よりもシステムで負けている。組織をしっかりと作らなければアメリカに対抗できない。
“IoT”の次は“IoE”。人の役に立つイノベーションを興したい。
米倉: 青色LEDのノーベル賞受賞は、原理的な発明ではなく、我々の生活を既により良くしてくれている商品化されたものだったことも、日本人として嬉しかった。
天野:自分は工学的なマインドなので、「人の役に立って価値がある」と考えている。それが認められたノーベル賞受賞だったので、とても嬉しかった。
米倉: その点では、「エネルギーを飛ばして充電し続ける」ことができるのは凄い技術だと思う。
天野: 周波数を上げて効率よく飛ばすことが可能になるので、離れていても充電できる。技術的には可能。あとはビジネスにどう繋げるかという問題と、安全性の問題が残る。ただ、「IoE」(Internet of Energy)はビジネスを大きく変える可能性がある。
米倉:これは正にビジネス・オポテュニティだが、なかなか日本ではイノベーションが起きない。1つには規制緩和が必要である。
天野: 我々工学の人間は、「法律は守らなければならない」からスタートする。そうではなく、「世の中のためになるなら、法律も変える」からスタートできる人間を工学にも増やしたい。
米倉:とにかく日本に必要なのはスピード。早く失敗すること。Start small, Fail early, Learn fastだ。
天野: 日本とアメリカの一番のちがいは、「アメリカ、シリコンバレーでは失敗しろ、失敗しろというが、日本は絶対失敗するなと言う」こと。
米倉: ノーベル賞を受賞した天野先生から、「失敗しても良いという環境を作ろう!」と情報発信して欲しい。
天野: 失敗しても良い文化ができると、学生もプレッシャーから逃れられる。そういうメッセージの発信をしたいですね。
■不可能だと言われた「青色LED」を発明に導いた恩師の力
(六本木ヒルズクラブ ランチョンセミナーより)
恩師であり、ご一緒にノーベル賞を受賞された赤﨑勇教授との出会い、その存在があったからこそ、天野教授は苦難を乗り越えて研究を続けることができたとのこと。
赤﨑教授の「何としてでも(青色LEDのもとになる)結晶を世の中に出す」という執念と、若い人を鼓舞する力、「新しい手法の結晶成長法については、皆が素人。逆に時間が沢山ある若い学生が一番よく知っている」と、立場を超えて議論できる環境を整えてくださったことがエネルギーとなり、結晶の発明につながったとのこと。
この経験から天野教授は、「若手への投資をしていますか?」、「若手が最後まで仕事をやるためのサポートをされていますか?」と、若手への投資(時間や機会)の重要性を一貫して述べられました。
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