六本木ヒルズライブラリー

【ライブラリーイベント】開催レポート
【朝日新聞GLOBE × アカデミーヒルズライブラリー】Breakthrough「突破する力」第12回 ポピュリズムはどこへ向かうのか? これからのヨーロッパ~イギリス・フランスのゆくえ

ライブラリーイベント

日時:2017年4月14日(金)19:15~20:45@オーディトリアム


朝日新聞日曜版(第1日曜日発行)のGLOBEでおなじみの「突破する力」にご登場された方や、取り上げたトピックスに関連する方をゲストにお招きするコラボレーションイベント。
第12回は、GLOBEの人気連載「Bestsellers 世界の書店から」のロンドン担当でお馴染みのライター・翻訳者で、元商社マンとして欧米の駐在経験も長い園部 哲さんをイギリスからお迎えし、かつて朝日新聞パリ支局長を務めたGLOBE編集長国末憲人さんとお話いただきました。

まずは、本セミナーに駆けつけていただいた朝日新聞代表取締役社長の渡辺雅隆様のご挨拶のあと、園部さんより、EU離脱が決まった今のイギリスの状況についてお話しいただきました。

EU離脱国民投票

EUの旗は、青地に12個の星を配したデザインで、12という数字はヨーロッパ文明にとってとても大事な数字なのだそうです。カレンダーの月も12カ月だし、キリストの弟子も12人であったことから、12という数字は完璧で完結を意味するのだそうです。
また、面白いことにヨーロッパ史を調べると12年ごとに大きな出来ごとが起きていることがわかるそうです。

英国のEU離脱を巡って国民投票が行われたのも、このサイクルの中の2016年。結局52:48という僅差で離脱派の勝利となったわけですが、この国民投票にはいくつかの問題があったのだそう。イギリスの投票は必ず木曜日と決まっていて、このイギリスにとって大事な木曜の投票日のロンドンは大変な豪雨と雷に見舞われたそうです。地下鉄やバスなどの交通機関に運休が相次ぎ、外出が困難だったため、投票率ひいては投票結果に影響があったのではないかと園部さんは考えています。

また、残留か離脱かということを問う選挙でしたが、残留は現状のことであり、すでに日々経験していることであるのに対し、離脱は未知の世界の話であり、期待しがちであるため、この二つを並列に並べて選択させるということはフェアな選挙と言えるのかと疑問が残るそうです。

EU離脱派キャンペーン


長くイギリスに居住している園部さんでも今回の国民投票に、投票権はなかったそうですが、離脱派には好感が持てず、残留派を支持していたそうです。その理由のひとつとして、離脱派のキャンペーンのえげつなさを上げていました。

離脱派が繰り広げるキャンペーンで使用する映像には嘘の部分がかなり含まれており、たとえば、押し寄せる難民の様子を使って人々の不安をあおるような映像でも、明らかにEUからの移民ではなく、シリアやインドやアジアからの移民を映しだし、もしかしてテロリストが紛れ込んでいるか知れないという恐怖感を植え付けるものだったそうで、Brexitで問題視されている難民の流入はEU各国からの難民で、シリア難民とは別です。

さらに、EUから離脱すれば課徴金がなくなり、1週間に3億6000万ポンドが国民保険に使えるとアピールしましたが、翌日には間違えだったと発表し、単に注意を引くためのものだったようです。

EU移民問題


全体の傾向としては外国人が多く住んでいるエリアの人は残留派が多く、身近に外国人や移民が少ない田舎のほうは離脱派が多かったようです。身近に外国人が居ない人達のほうが知らずに怖がるという傾向にあり、また、若者は一般的に残留派、年寄りは離脱派が多い傾向にあったと言います。

EUを取り巻く移民問題についての話をすると、2004年にEU移民の数が急激に増加したのだそうです。これは、フランスもドイツも同様だそうですが、EUのガイドラインには、今すぐ受け入れなくても、7年間にわたる政策方針を決める移行期間があったにも関わらず、その時期はどの国も人手が足らず、EU移民に依存する形で移民受けれを一気に増やしたという背景があるのだそうです。つまり、移民増加の問題は、EUにあるのではなく、イギリスの国内政策のまずさが原因だと言うことです。

Brexitは、グローバリゼーションに対する不満だというまとめ方をされていますが、実はEUから来ている白人の移民は、すでに税金も納めていてイギリス経済に大きく貢献しているそうで、事実、EU移民の税の納入額は英国人が納める税金を上回っているのだそうです。

EU加盟国 イギリスとそのほかの国


EUだけでなく、近年、世界中で移民問題が取りざたされていますが、特にトランプ大統領の対移民政策には大きな非難が寄せられています。つい「もともと移民によって建国された国なのに」と思ってしまいますが、実は米国も20世紀の頭から戦中にかけては、移民をとらなかった時期があるのだそうです。つまり、今のアメリカ人は移民の少ない時期に生まれている人たちで、「移民問題」は最近急激に増えてきた実はフレッシュは問題なのだそうです。

EUに対する見方は、イギリスとそのほかの国では大きな違いがあると言います。もともと、第二次世界大戦で敵と味方にわかれたドイツとフランスの融合がEUの悲願であり、ドイツ、フランス、イタリアの共通点は敗戦国であるということ。ECはもともと負け組の集まりであり、それを見るイギリスは冷ややかで、そんなところに入るものかという根深い思いが今でもベースにあるのかもしれないと、今回の国民投票の結果を受け園部さんは分析します。

フランス大統領選


続いてパリ支局長を務めたことのあるGLOBE編集長の国末さんより、大統領選が迫るフランスの状況について報告していただきました。

今回の大統領選の特徴は、2大政党の候補者が決選投票に残る見込みがないということだそうです。フランスの2大政党は機能しなくなってきていて、どちらもそれぞれの党の代表を決めるために予備選をやっているのだそうです。予備選をやらないと候補が決まらないが、予備選をやると統制力が落ちるのだそうです。

また、候補者の経歴パターンも崩れていて、マクロン候補は経済大臣をやった経験はありますが、一度も選挙を戦ったことがないのだそうです。これまでのパターンは、選挙で当選して下院議員になり、大臣、そして首相、大統領という具合に階段を上るのですが、ルペン候補は選挙の経験はあっても大臣の経験もないといいます。

4人の候補のうち、マクロン候補以外はEUに悲観的であり、また同じくマクロン候補以外はプーチン大統領と関係が深いということで、マクロン以外の候補者が大統領となれば、またロシア絡みの大きな動きにつながりかねないので警戒するべきと国末さんは考えているそうです。

このトークセッションが終了し、レポートを書いている今は、フランスの大統領選挙が終了し、マクロン氏が決選投票により大統領選を制しました。あわやBrexitやアメリカ大統領選と同じ路線を辿るかもしれないと心配されていましたが、フランス国民はぐっと留まりました。

しかし、まだまだ続く世界的なポピュリズムの波のゆくえを今後も注視していく必要があるようです。ライブラリーイベントでも定期的にこのトピックのイベントを開催していこうと思いますので、お楽しみに!

【スピーカー】 園部 哲(イギリス在住ライター/翻訳者)
【モデレーター】国末 憲人(朝日新聞GLOBE編集長)