六本木ヒルズライブラリー

【ライブラリーイベント】開催レポート
JSIE×アカデミーヒルズライブラリー First Movers Forum 第1回
グローバルに勝負する日本の起業家たち~日本の強みを武器に〜

ライブラリーイベント

日時:2017年1月11日(水)19:15~20:45@スカイスタジオ

女性や若者の活躍の場を広げ、誰もが自分らしい生き方のできる社会の実現を目指して活動をしているJSIE(Japan Institute for Social Innovation and Entrepreneurship)とアカデミーヒルズ ライブラリーのコラボレーションで開催するFirst Movers Forumの第1回を開催しました。

First Movers Forumは、グローバルに活躍する起業家や自ら行動する方たちから、地域やグローバル社会の抱える課題解決への実践的取り組みを聞くことにより、刺激やヒントを得て、多くの人に新しいことに挑戦するきっかけを提供することを目的としています。

活動の原点は原体験から




第1回は、「グローバルな舞台で勝負する日本の起業家たち」というテーマのもと、日本の強みを活用することにフォーカスして4人の若い社会起業家の方にお話をお聞きしました。

下川 樹也さんは、コマーシャルフォトスタジオでのカメラマン時代、ケニアのスラムで撮影中にマラリヤに感染したのだそうです。生死をさまよう程の状況の中、スラムの子供たちに助けられたのをきっかけに「アフリカの子供たちに安全な水を供給する」ことを目的に水処理技術の開発者とともに会社を設立されたのだそうです。

アジア・アフリカを主なフィールドとして事業を展開されていて、2012年よりモザンビークの無電化村で「地産地消型の再生可能エネルギー、食糧生産およびICTを活用した金融サービス」を行っているる合田 真さんは、山岳ガイドを目指していた学生時代にペルーに行った際、現地の子供との出会いがり、自分のバイト代で地球の裏側まで来て好きなことができる自分の境遇と能力をを自分のためだけでなく、もっと世界に役立つように使いたいと思ったことがきっかけだったと言います。

さらに、日本大震災を機に一般社団法人WIA(現WIT)を設立し、2013年7月より同代表理事として、日米を行き来しながら社会起業団体の経営支援を行っている山本 未生さんも、東京大学教養学部に在学中、マレーシアの非営利団体でのインターンを経験した際に、戦略・ネットワーク・資金の不足が、非営利団体のミッション達成を妨げていることを実感されたことが現在のご自身の活動のきっかけとなったそうです。

みなさん多かれ少なかれ、様々な原体験を経て、グローバルな活動へと踏み切られたようです。


いっぽう、日本のアニメやゲームを海外で展開する事業をされている保手濱 彰人さんは、少々アプローチが違ったようです。東京大学在学中に「東大起業サークルTNK」を設立し、経産省支援のビジネスコンテストにおける最優秀賞獲得の経験などを経て、在学中に起業。TNKは現在でも毎年幾多の学生起業家が生まれる、起業家輩出プラットフォームとして拡大しているのだそうです。実は2005年にあるコンテストに優勝し、その特典として「ホリエモンのかばん持ち」があり、実業家としていちばん脂の乗っていた堀江氏のかばん持ちということで、保手濱さんの知名度も上がり、出資の約束も取り付け、いざ起業という段になったとき、堀江氏の逮捕騒動が起こり、起業のタイミングを失ってしまったそうです。そんな不運な事件も後になってみれば起業の力になったのか、複数の事業立ち上げやバイアウトなどの経験を経て、2014年に株式会社ダブルエルを創業され、もともとマンガやゲームに関する「オタク」であった資質を活かして、現在は日本のポップカルチャーコンテンツの国際展開を図ることに注力しているそうです。

日本人であることがグローバルな活動にもたらすポジティブな面、ネガティブな面


後半は、日本人であることがグローバルな活動にもたらすポジティブな面とネガティブな面というテーマでパネルディスカッション形式で進行しました。しかし、自身が日本人であるということを意識して活動していないという意見がほとんどで、最初はテーマに対して戸惑っていらっしゃいましたが、それでもお話が進行するうちにひとつの答えが導きだされたようです。

例えば、合田さんは、ベトナム資本のパートナー企業とアフリカで事業を進めていたときに、その企業の代表が日本で修士を取ったことでとても良くしてくれたり、日本がこれまでODAを含めて色々な国と協力してきたことで、関係がプラスになることはありますが、とは言え、現在は中国のほうが資金力が豊富で途上国にとってははるかに歓迎されると言います。

東大から住友化学、マッキンゼーという日本での王道の中の王道を歩んできた山本さんも自分が日本人であるということを意識して、その強みを利用しようと思うことで自分にリミットをかけてると感じてしまうため、海外で自分が日本人であることを意識したことはないと言います。

さらに下川さんは、アフリカのような新興国で事業を行う難しさを実感しており、1000円を支払ってもらうために500円をポケットに忍ばせるとか、銀行での振込が一日仕事だったりと時間や約束にルーズなケースが多く、日本の常識で考えてしまうとストレスになるので、考え方を変えたそうです。

マーケットインか?プロダクトアウトか?


日本の強みを生かすというよりは、なるべく日本を意識しないで活動するという意見が多かったのですが、合田さんが、日本でも有名な外資系銀行のアフリカの支店で現金を引き出す際、引き出し金額より受け取る現金が減っているというようなことが当たり前に起こる現実を前にして、有名銀行でもそのレベルなら自分でも銀行ができるのではないか?と思ったことがアフリカで金融業を立ち上げるきっかけとなったというエピソードを披露してくださったのをきっかけに、マーケットインかプロダクトアウトかという事に話が展開していきました。

下川さんは、アフリカできれいな水を提供することを事業にされていますが、ひとつの場所できれいな水が使えるようになっても、家と家が離れていて、きれいな水を運ぶ手段がなく、整備にも時間がかかってしまうという現地の事情から、まずは住む場所をもう少しコンパクトにしたコミュニティをつくるということから始めているそうです。そうすることで、少しの整備で多くの人にきれいな水の環境を提供できるといいます。

このように、日本の強みを生かそうと考えると押し売りになる傾向があるので、何が求められているかということを考え、現地のニーズをしっかり理解して提供していくことが大事であるとというところで全員の意見が揃いました。

整った日本の環境とは事情が大きく違う新興国を舞台に、それぞれが志をもって活動されている若い起業家たちは、日本人であることを活動の武器としようと意識している人はいませんでしたが、お話いただいた4名のFirst Moverの方全員、グローバルな活動の原動力は、日本で培われた使命感とすぐれたバランス感覚によるものだということを感じました。


【スピーカー】 合田 真(日本植物燃料株式会社取締役社長)
        下川 樹也(株式会社ジー・イー・エス 取締役副社長 )
        保手濱 彰人(株式会社ダブルエル 代表取締役)
        山本 未生(World in Tohoku Co-Founder & Managing Director
                            共同設立者&代表理事)

【モデレーター】佐々木 文子(JSIE Executive Director)