六本木ヒルズライブラリー

読書の秋にふれる6冊 ~本屋の仕事とすがた、そして読むということ

更新日 : 2022年10月17日 (月)





いよいよ秋めいてきたこの頃。食や服、はたまたお散歩など。日々を彩ることがらを、より深く楽しめる季節の到来ですね。
同時に言葉の世界──雅な文が連なる世界や、夢のような出来事が広がる世界、あるいは日常を見つめ直すきっかけをくれたり、ほっとさせてくれたり。あらゆる言葉の世界にゆったり浸るのに適したときとも言えそうです。
そこで今回は、言葉の世界を綴じた「本」というもの。また、本を渡す場である「本屋」にまつわる作品。そして本を読むこと自体をやさしく書いた作品を併せてご紹介いたします。宇宙のような本の世界を一緒に覗いてみましょう。



本屋という仕事三砂慶明 編 / 世界思想社「本屋は焚き火である」──。奈良県、定有堂書店の奈良敏行さんによる言葉によって、本書の企画を進めたという編者。一冊一冊には著者の想いが熱せられおり、本たちが焚き火のように灯を揺らしながら棚で読者を待っていることを喩えた言葉です。

コロナ災禍による転換やメディアが多岐に生まれている状況を踏まえ、いま改めて問う、本と本屋というもの。そして働く書店員たちの想い。本書は書店員18名の想いを編んだ一冊です。

うかがえることは正直な経営方針や未来図、この仕事だからこそできることなど多岐。一人で構える方からチームで働く方まで、各々が抱く本屋への真っ直ぐな想いを通じることで、本や本屋はもとより「はたらくこと」への思索が深まることでしょう。

定本 本屋図鑑
本屋図鑑編集部 編 / 徳地直美 絵 / 夏葉社
世のあらゆる事象をまとめた図鑑は数多くあるけれど、本屋自体を編んだ図鑑はかつて存在したでしょうか。

本書は全国の「町の本屋さん」76店舗を、棚のつくりや店員さんの言葉、周辺の町情報も含めて集めて紹介した「本屋図鑑」です。全ての県かつ色々なタイプの本屋さんを掲載するというルールに加え、イラストレーターの徳地直美さんによるポップさと郷愁が同居する絵が、好奇心を大きく動かしてくれるでしょう。

町にある本屋、ひいては本を売ることや本屋業界についてご興味がある方にとどまらず、図鑑のもつワクワク感を味わいたい方にもうってつけな一冊です。

韓国の「街の本屋」の生存探究
ハン・ミファ / クオン
本が売れなくなって久しい。好きな人や関わる人は嘆くけれど、必要としない人がいるのもまた事実。そして日本に限らず、韓国でも同様です。一方で、本に熱烈な想いを抱く人がいつの時代にも、必ずいる。そのことも韓国で同様であることが分かる本書。
書かれることは、街の本屋の現状や店主の率直な言葉。悲喜交々。また、データを下敷きにした詳らかな出版業界についての解説。それらから導き出される「生存」方法。

具体的な記述が多いため同業に関わる人しか楽しめないと思いきや、さにあらず。著者のたぎる想いが乗った文体や、他業種にも相似する状況が記されているからです。
苦しくも、想いをもって立ち向かう。あらゆる仕事にも通じ、胸を打つ一冊です。

ブックセラーの歴史
ジャン=イヴ・モリエ / 原書房
文字やシンボルを写し、知識や情報の伝達のみならず想像の手がかりにもなってきた、本。人びとが頼りにしてきた本は、どのように書籍商たちによって現在まで運ばれてきたのかを、緻密に重ねた文献研究を鮮やかに編んだ一冊。

書籍販売業を辿る道筋は、古代シュメール人やローマ時代から始まり、中世で増える町のコミュニティや市場によって遂げる大きな変化、同時期に登場する古書籍商についての言及を経ます。そして近代に向かって更に細分化する業種・業態やまとわりつく規制、「歩道の本屋」が生まれる現代まで。

「おそらく本屋という職業は、過去数千年ものあいだ、きわめて多様な姿を体現してきたものの一つだということだ。」──本書294頁より。

世界の本好きたちが教えてくれた
人生を変えた本と本屋さん
ジェーン・マウント / エクスナレッジ
「この本は、特別な本に出会える『本の宝箱』です。読み終わる頃には、あなたの『読みたい本リスト』の長さは少なくとも3倍になっているでしょう。」──本書9頁より。

まさに本書を表す鮮烈な文言で幕を開ける本書。古今東西の本を各テーマ──「奥深い短編小説の世界」や「キッチンで世界旅行」等でそれぞれ15冊ほど選定し、カラフルでポップなイラストを着させ、テーマのことや登場する著者を明瞭に解説した文にて紹介しています。同様に、本屋の紹介も思わず高揚してしまうイラストと文章にて。途中で挟まれる小ネタ──「一文あらすじクイズ」や「物語のなかのひと皿」等々も、本の魅力を横だけでなく縦に掘ってゆく手助けをしています。

パラパラ眺めるだけでも本の世界に没入してしまう、夢のような一冊です。

本を読めなくなった人のための読書論
若松英輔 / 亜紀書房
そもそも読書とは何なのか、言葉との出会いがもたらすもの、本について。そして読めないときは無理して読まず待つことが大切、と極めてやさしい文体かつ心奥まで落ちる洞察をもって、読書にいどむ障壁の取りはらい方法を教示してくれる本書。
まるで目の前で語りかけてくれるような運びと、技術論ではなく読書における本質──読むこと、言葉を味わうこと、対話すること等々への思索にも及んだ内容が自然と絡まり合い、エッセイのようなおもむきすら感じられ、従来の読書論とは一線を画した一冊です。

「この本で考えてみたいのは、効率的な読書法ではなく、読みたいのに、読めなくなった理由とその壁を乗り越える方法です。」──本書19頁より。

目の前に置かれた一冊。なぜ、誰の手によって、そこにあるのか。それをすら知らしめてくれるのが、本。古代から現代まで、近場のこと──いや「自分自身」の内側のことから、遥か遠くの森羅万象が書かれたもの。
今回は、この本なるものを取り巻く状況やどのような想いによって、書かれ、作られ、運ばれているのか、あるいは「読む」営みは実のところ何なのか、ということを捉えなおす好機を与えてくれるタイトルたちをご紹介しました。
本自体の世界をのぞくことで、また次なる一冊をお手に取ってくだされば、ひとりの本好きとしてそれ以上のことはございません。



本屋という仕事

三砂慶明
世界思想社

定本本屋図鑑

本屋図鑑編集部
夏葉社

韓国の「街の本屋」の生存探究

ハン・ミファ
クオン

ブックセラーの歴史—知識と発見を伝える出版・書店・流通の2000年

ジャン=イヴ・モリエ
原書房

人生を変えた本と本屋さん

ジェーン・マウント : 清水玲奈
エクスナレッジ

本を読めなくなった人のための読書論

若松英輔
亜紀書房