六本木ヒルズライブラリー

20代のライブラリアンが選ぶ8冊

更新日 : 2022年03月11日 (金)





20代──。
人生100年時代と言われて久しい現代ですが、長く生きる世において礎となる経験や知恵を蓄え実践するにあたって、不安定ながらも、しなやかで真直ぐな時代は、変わらずこの10年間なのかもしれません。

今回はタイトルの通り、当館の20代──平成5年から平成14年生まれの4人のライブラリアンが、「いま」気になる本をご紹介します。



刺繍博物図atsumi / 小学館伸び伸びと育つ植物、不思議な模様や形の昆虫、鮮やかな色をした鉱石…。みなさんもどこか心惹かれるものがあるのではないでしょうか? 本書は作家atumiさんの興味をひいてやまないあらゆるモチーフを"刺繍"という柔らかな手触りで楽しめる1冊です。
有機物と、無機物。海に生きる者と、陸に生きる者。そして、わたしたちの目には見えないところで息を潜めて生きる者。幼い頃のatumiさんがそれらと出会ったときの心の機微を表現した作品からは、自然界の神秘的な造形美がうかがえます。
作者の思い出を辿る刺繍博物図。ぜひ子供の頃のときめきを思い出しながらご覧ください。 レイ

今日も言い訳しながら生きてますハ・ワン / ダイヤモンド社完璧ではない自分を、責めている私へ。だらけている自分よりも、頑張っている自分の方が好き。なんでもより上手くやりたいし、理想とかけはなれた自分は嫌い。そうして自分のことを肯定できなくなってしまったとき、一旦立ち止まって読んでください。
前作『あやうく一生懸命生きるところだった』に続く、心が軽くなる人生エッセイ第2作。過度な言い訳は心をだめにしてしまいますが、適度な言い訳は心を助けてくれる最後の砦。そして、様々な角度から自分をうつす鏡でもあります。言い訳という自分との対話を通して、気付けなかった自分に出会えるかもしれません。客観的な視点にとらわれるのはやめて、少しは主観的に生きてみるのはどうでしょう? シノ

平成ネット史 永遠のベータ版NHK『平成ネット史(仮)』取材班 / 幻冬舎私が初めて触れた『インターネット』は、確かニコニコ動画でした。皆さんは電脳世界にどんな思い出がありますか? 本書は、その名の通り、平成年間のネット史をさらりと振り返る一冊です。もとは2019年に放送されたNHKの特別番組。専門用語が飛び交う解説書ではなく、日本のネットサービスを作り、あるいは駆使してきた出演者たちの対談を中心に進行します。パソコンやポケベル、iPhoneの登場。2ちゃんねるやニコニコ動画、YouTubeといったいわゆるネットカルチャー。その興隆と変遷を、時系列に沿って概観します。
「こんなのあったな」と懐かしんだり、「こんなものあったんだ」とかえって新鮮に感じたり……ネットとのかかわり方の数だけ、違った感想があるのではないでしょうか。たったの30年弱で驚異的な発展を遂げ、いまだ留まるところを知らないインターネット環境。ここでほんの一息入れて、平成を追想してみるのも一興かもしれません。 シヲリ

子供の詩の庭ロバート・ルイス・スティーヴンソン / 毎日新聞出版本当のことを言うとね、
ずーっと昔に その子はすっかり大きくなって、行っちゃった
君が見ているのは、その子の心だけ
昔、この庭で遊んでいた、その子の心なんだ
──「この本を読む君へ」“To Any Reader” より

誰の心の中にもいる「あの頃」の「ぼく」。ベッドから始まる航海や、見えないけれど一緒に遊んだ友だちと過ごしたこと。本書は、性別・年齢関係なく在りし日の自分と景色をそっと浮上させる詩篇で編まれた一冊です。名作『宝島』を書いたスティーヴンソンが紡ぐ優しい世界を再現するのは、池澤春奈・夏樹親子。生きた翻訳がかつての私たちの姿を現在に蘇らせてくれます。

「大きな人でいることに疲れてしまったら、この庭に帰って来て下さい。」(「まえがき」より) アツシ

世にも美しい三字熟語西角けい子 / ダイヤモンド社「五月雨」「朧月夜」「不知火」…日本語には世にも美しい響きをもった三字熟語がたくさん存在します。しかしそのどれもが日本語の表舞台にはあまり上がらないものばかり…日常的に用いられるものはごくわずかです。そこで本書では穴埋め形式のクイズと詳しい解説に加えて、文豪が作中に忍ばせた三字熟語を引用し、日本語の奥深さを際立てる立役者、その魅力をあらゆる角度からご紹介しています。
日本語独自の感性。当て字のおもしろさ。二字熟語にも四字熟語にもない独特のリズムと存在感。味わうほどに奥深い三字熟語に触れて、楽しみながら語彙力を伸ばしましょう! レイ

キネマの神様
ディレクターズ・カット原田マハ / 文藝春秋
映画への愛に溢れた人々が紡ぐ家族の再生の物語、原田マハ著『キネマの神様』。それを原作に山田洋次監督が映画化し、さらに原作者が再び小説化したのが本書『キネマの神様 ディレクターズ・カット』です。ストーリーは大幅に変わりもはや前作とは別のお話ともいえますが、共通するのは家族や映画への愛に溢れ、終始人のあたたかさを感じられる点。現実は、善人ばかりでも望んだ展開ばかりでもありません。しかし、だからこそ、物語の中には夢を見たい。作中の言葉をお借りするなら、「そんなことは現実にはありっこない。誰だってわかっている。だけど、だからこそ映画(小説)なのだ」。
原田マハさんのまっすぐで繊細な言葉で描かれるふたつの”キネマの神様”で、どうかひとときの夢を。 シノ

ある一生ローベルト・ゼーターラー / 新潮社アルプスの山で生きた、ある男のある一生を描いた作品。幼少からの過酷な労働、雪崩による妻との死別、従軍、抑留生活、孤独。苦難と理不尽に塗れた人生を、ある男_アンドレアス・エッガーは、ただ静かに、不器用に、しかし懸命に、最後まで歩み続けた。

傍から見れば不幸と言われるような人生。しかしエッガーにとってその日々はどう映っていたのでしょうか。彼は自分が生きた日々を振り返り、何を思ったのか。時代の奔流に揉まれながら生きた男を描きだす筆致は、淡々としているがゆえに揺さぶられるものがあります。200頁にも満たないその人生は、しかし、どこか悠久の時を思わせ、確かな重みとともに心に残るのではないかと思います。 シヲリ

思いがけず利他中島岳志 / ミシマ社「利他」とは何かを、いまあらためて考えてみる。すると浮かぶのはきっと、こちらから何かを与えるという「行い」のことではないでしょうか? そして「行い」の胸中には、いつか利益が巡ってくるという「利己」が住んでいるのかも──。
本書ではこの「利他」について、落語や仏教、あるいはヒンドゥー語の文法や成り立ちを引用しながら、あらゆる角度から考察します。共感の危うさや、ありがた迷惑の面を持つ「利他」を私たちはどう受け止めたらよいのか。一方で「利他」はどのようなときにやって来るのか。自己を超えた、「利他」の世界観で生きることを分かりやすくやさしい言葉で迫る一冊です。

「利他は未来への投資ではありません。」──本書P.162より。 アツシ

長い人生の中でも、特別な輝きを持つ20代。習わしや流行の違いだけでなく、何に対してどのように興味を持ち考えるのか。世の流れの受け止め方や教育環境、あるいは物事の考え方が違うライブラリアンの選書にも、その世代観が現れています。


刺繍博物図

atsumi
小学館

今日も言い訳しながら生きてます

ハ・ワン
ダイヤモンド社

平成ネット史 永遠のベータ版

NHK『平成ネット史(仮)』取材班
幻冬舎

子供の詩の庭

ロバート・ルイス・スティーヴンソン
毎日新聞出版

世にも美しい三字熟語

西角けい子
ダイヤモンド社

キネマの神様 ディレクターズ・カット

原田マハ
文藝春秋

ある一生

ローベルト・ゼーターラー : 浅井晶子
新潮社

思いがけず利他

中島岳志
ミシマ社