六本木ヒルズライブラリー
【ライブラリーイベント】開催レポート
エントランスショーケース展示 連動企画
「人工知能 -AI- がもたらすビジネスチャンス」
更新日 : 2018年02月08日
(木)
ライブラリーの書棚でも、関連タイトルを多く目にするようになった人工知能 -AI-。現在のビジネス・ライフスタイルにおいても、より身近なものになりつつあります。
エントランス・ショーケース展示「ロボットに懸ける夢 ~‘鉄腕アトム’それとも‘エクス・マキナ’」との連動イベントとして開催された今イベント。
AIとビジネスはこれからどのようなかかわりを持っていくのか?について、AIビジネスの開発支援に携わるEYアドバイザリー・アンド・コンサルティングの園田氏にご登壇いただきました。
園田 展人(そのだ ひろと)
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング
ディレクター/ジャパン イノベーション リーダー
ご登壇いただいた園田氏は、学生時代はAIやロボティクスを研究し、その後画像処理分野・コンサルティング分野を経験。現在はEYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社にて、企業の新規事業立ち上げのアドバイスを行っています。
またAIやIOTを軸とした新ビジネスのデザインや、スタートアップ企業と組んで、イノベーションを起こす仕事もされています。
▼ AIが実現した2つの成果
ディープラーニングという技術は2006年に構想されましたが、実は1980年にはその基本となる考え方がありました。しかし当時は計算機のスピードとデータ量が不十分で、実現には至りませんでした。その後、紆余曲折を経てディープラーニングは現実のものになりました。
>高い認識制度
機械に画像を見せて、例えば「これはりんごの画像だ」と認識させます。この作業を繰り返していくと、必ずどこかで間違いが生じます。そのアルゴリズムを競う世界的なコンペティションが2010年以降毎年開かれており、その誤認率は2011年段階では25.7%でした。
翌2012年、ディープラーニングの登場で誤認率は15.7%になります。人間でも100枚見たら5.7枚くらいは間違える、というデータがありますが、ディープラーニングが2015年に3.6枚、2016年に3.0枚とその数値を下回ったことで、人間より機械に見せた方が早い、という状況になっています。
例えば警備会社や鉄道会社が、AIを用いてセキュリティ管理をし、認識の精度を上げるという新しいサービスを実践するなど、ここ数年でAIを用いたビジネスは急増しています。
>特徴表現抽出とは
AIのもうひとつの成果は「特徴表現抽出」です。
以前はAIに「猫」を認識させるとき、人が猫をよく観察し、設計したデータをプログラミングしていました。しかし今のディープラーニング技術を使ったAIにはこの設計は不要で、大量の画像を見せることで、まるで人間の赤ん坊が日々の生活の中で学習してゆくように、自然に目鼻立ちや顔の特徴を分類します。
例えば人の仕事の中には、人の作業を見てその特徴を記憶するといった暗黙的な部分がありますが、ディープラーニングはその暗黙的部分も勝手に認識します。
これにより「熟練とは何か」を自立的に学習するという側面が期待されています。
▼第三次AIブームの特徴
一番の特徴は、AIが自ら学習するようになったという点です。
これまでAIは「人工知能」と呼ばれながら、人間にすべてを与えられて動いてきました。ところが今のAIは、「自ら獲得する」ようになりました。これは専門用語で「特徴表現抽出」といわれています。
この特徴が、オセロなどのネットゲーム界に変化をもたらしました。たとえばゲームにおいて次の手をどうするかという探索空間や選択肢は、ゲームの種類によって異なります。オセロだと1060以上の答えが、チェスだと10120、将棋が10220、囲碁の世界になると10360という探索空間になります。
オセロやチェスでは1997年に人工知能が人間に勝ち、その後15年経ってようやく将棋でも勝ちました。ここからおそらく10年はかかるだろうとAIの研究者たちが予想していた囲碁においても、ディープラーニングによりわずか3年で人間を超えてしまいました。
特徴表現抽出にもう少し工夫を加えた「アルファ碁」という事例があります。ディープラーニングの深層学習と強化学習を合わせた新たな深層強化学習という技術を採用したアルファ碁は、世界中に15万もある棋譜の画像処理をして囲碁の局面を画像にし、どの状態になったときにどのように勝っているかを分析します。その現在のアルファ碁と一世代前のアルファ碁が3000万局の対局を続けることで、当代のアルファ碁はさらに強くなり、瞬く間に普通の棋士を超えてしまうのです。
こうした学習機能はゲームだけでなく自動運転にも活用され、より安全な走行方法を強化学習させています。こうした活用法を見ていくと、日常やビジネスなどの様々な場面で、深層強化学習が応用できると考えられます。
▼ AIがもたらすビジネスチャンスをいかに捉えるか
1980年代以前、機械産業分野の覇権は日本企業が握っており、「動作系」「認識系」「制御系」のうちの1つである「ハードウェア」を磨き上げることが、顧客に提供する価値に直結していました。
しかし90年代に入り、新興国の台頭とデジタライゼーションに伴って発達した「水平分業」で、この構造に変化が訪れます。「水平分業」とは、ソフトウェア/制御系は先進国が握り、ハードウェアに関しては新興国に作ってもらうという考え方で、その結果、垂直統合型のビジネスモデルが主だった日本企業の業績は低迷します。
さらにその制御系に蓄積されたデータが「ビッグデータ」となってきたのが2010年前後で、このビッグデータを使って顧客に新たな価値の提供を模索する企業も出てきます。
しかし価値の重心が刻々と移ってゆく現代においては、産業全体の流れを把握した上での戦い方をする必要があり、第三次AIブームの今、「AIをどう使うか」ということをよく考えていかなくてはなりません。
ビッグデータを活用した新規ビジネス開発の成功例として、GEの事例があります。
GEはもともと飛行機のエンジンを製造し航空機メーカーに納めていましたが、その後保守計画や運行計画のサービスを航空会社に提供するために、情報収集をする関連会社を設立します。続いてサービスに関しての知識を求めるため、データビジネスおよびエンジンのリースをはじめたことで、LCCなどの格安航空が生まれました。GEはもともと販売業からサービス業へとシフトしたいというモチベーションがあり、そこでターゲットとしたのが航空機メーカーの市場だったのです。
顧客ニーズを把握し、そのボリュームと必要性を算出して価値の総量を割り出して、その中で自社に欠けている能力を見つけ出します。GEはデータとサービスの分野を見つけ出し、外部の力も借りてそれを充足させ、最後にリースという新しいビジネスモデルを発足させました。
重要なのは、顧客が何を求めているのかに気づくか気づかないか、という点です。
▼AIを使った新規ビジネスの問題点と、その解決策
新規ビジネスの相談として一番多いケースは、独自技術でのサービスを提供する際に、事業に赤字が出てしまうのではないか、というものです。儲かる算段があるからビジネスをする、というのが正しい道筋であるはずです。
二番目は、AIスタートアップとビジネスマッチングしたいがなかなか決まらない、というものです。そもそもマッチングは目的ではなく手段であり、まず何をするか決めた上で不足分野・不足能力を特定し、その結果こういう人たちと協力して補完したい、という順序になります。
三番目に、サービス売りをしたい・マネタイズモデルを使って現金からキャッシュレスにしたいというものです。「マネタイズモデルにする」というアイデアは最後の結論としてあるべきで、顧客ニーズをとらえ、ビジネスとして成立するかどうかをまず考慮する必要があります。
一例として、動作認識精度の独自技術を持つ企業が、ドローン向けのセンサーを開発したので、その技術でアメリカ市場に参入したいという相談がありました。試作品はすでにありますが、アドバイスをする側からの見解として、その技術は顧客にとってあまり価値のあるものではありませんでした。
当然、独自技術があること自体は強みではありますが、その「独自技術を使う」という一点に縛られてしまうと、すでにある潜在的なニーズを見逃してしまい、ビジネスとしての成長は難しくなります。
そうした問題点を見事に解決した企業も海外にはあります。その企業は当初、独自技術を作ってビジネスを始めましたが、どうやらデータビジネスの方がこれからの需要がありそうだ、と気づきました。彼らはスタートアップだったので容易にビジネスを転換させたことで成功を収めました。
「もの」にこだわりすぎてしまうと、大きな価値を見逃してしまうことになります。独自技術も大切ですが、買い手側に目を向けたとき、より大きな価値を見逃していないかを検証することが非常に大切なのです。
AIを用いたビジネスチャンスについて、具体的事例を交えたわかりやすい内容で、参加された皆様も満足されたご様子でした。
参加された方の中には、AIを実務に取り入れている方、これから導入を検討している方など多数いらっしゃり、「今後も最新の情報を伺いたい」といった、再度のイベント開催を望まれる声も聞かれました。
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