六本木ヒルズライブラリー

ライブラリアンの書評    2016年2月

毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?

『天才』石原 慎太郎【著】


物書きとして世に出で、政治家として長年に渡って腕を奮い、2014年に政界を引退した石原慎太郎。彼の筆による、高度成長期の日本を切り拓いた不世出の政治家・田中角栄の生涯。それも語りは一人称の「俺」。

著者が語る「俺」とは角栄自身であり、その生い立ちから若き日々、議員としてそして総理として過ごした角栄自身の思いが、淡々と、飄々と、モノローグで語られます。故郷を、そして国を思う愛情。凄まじいまでの先見力、行動力。外交の手腕も他に抜きんでており、故にそれが自らを葬ることにもなりはしたのですが。

魅力的なのです。著者の筆致も、描き出される角栄の人物像も。実に人間臭く、より良い日本を夢見る思いに突き動かされていく様が、シンプルに「かっこいい」のです。

あとがきで、著者は語ります。
“政治を離れた今でこそ、政治に関わった者としての責任でこれを記した。”

大きな使命感に突き動かされたその熱量が、ひしひしと伝わってきます。そして政界を引退した著者が、角栄が引退した後の思いを、想像を飛翔させて描く、その終盤が読ませ、痺れます。

物書きには他者が憑依し、混交し、まるで誰が語っているのかがわからなくなるものですが、そこには確実に、角栄の言を借りた著者の姿が重なります。あるいは著者の筆を借りた角栄が。著者は知りたいのです。これからの日本を憂うからこそ、問い、知りたいのです。

今私たちが住む日本は、角栄が先見していた日本の姿をしており、著者はそこに立つ私たちひとりひとりに、角栄の言を借り、問うています。これからの日本はどうあるべきかと。
(ライブラリアン:結縄 久俊)


天才

石原慎太郎
幻冬舎