六本木ヒルズライブラリー

ライブラリアンの書評    2015年10月

毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?

プレゼンから恋の話まで

より上手に話し、よりよく伝えることができればと、その思いの反映か、ライブラリーの書棚には「話すこと」についての本が、常に多くあります。

礼儀作法に則った敬語・言葉遣い、聴衆を魅了するプレゼンテーションに、「あなただから買いたい」と言わしめるセールストーク。はたまた恋にまつわる「口説く」や「駆け引き」、たわいもない雑談もしかり。

そんな「話す」ことをテーマにした本が多いのは、状況に応じて必要とされる話し方は様々であり、それぞれについて知りたいからでしょう。

ところで皆さんは、落語、聞きますか?


江戸の頃より今なお愛される日本の伝統芸能「落語」には、話すこと、すなわち「話芸」の粋が詰まっています。

「男はつらいよ」で知られる渥美清は、幼い頃身体が弱く、学校を欠席することが多かったため、自宅でラジオから流れる落語を聞いて過ごしたそうです。それがのちの寅さんのトークに反映されたのは、言うまでもありません。

最近の俳優でいえば、映画やドラマで活躍する大泉洋が「自身のトークの原点は落語」と明言しています。

彼らの語りっぷりは、時にまるで歌っています。
「歌うように語り、語るように歌う」とは名優・森繁久彌の言葉ですが、語りが歌のように聞こえるくらい耳に心地良く響くとは、何とも一流の為せる技です。


プロの落語家が伝授する「話し方」とは?

『いつも同じお題なのに、なぜ落語家の話は面白いのか』の著者・立川談慶は、立川流真打ちであるプロの落語家。文章は落語的軽快でもって、随所に小粋な笑いを盛り込み、時にキュッと真を突きます。加えて師匠・立川談志の至言が、これまた良いのです。師匠愛に満ち溢れた著者の、師の言葉を自分なりに紐解き解釈する行為から、噺家ならではの話芸の世界が広がります。

そんな著者いわくの「話し方」の心得は、「受け止め力」「間を持つこと」「距離感」であるとします。話し方、となるとつい喋ることばかりに気が行きがちですが、どうやらそうではないのです。落語家をもってして、話すことの主体は聞き手であるお客さんである、と。

話すことそれ自体は、自分一人では完結しません。相手が居て、初めて成立するもの。
普段当たり前のようにしている「話すこと」について、自分はどうなのだろう?と振り返り、小手先ではない「話すこと」を知る、よい機会になる読書です。
(ライブラリアン:結縄 久俊)


いつも同じお題なのに、なぜ落語家の話は面白いのか

立川談慶
大和書房