六本木ヒルズライブラリー

ライブラリアンの書評    2015年5月

毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?

指を置く、ただそれだけのことなのに

『指を置く』
佐藤雅彦・齋藤達也【著】 美術出版社【出版】



新しいアイデアが欲しい! と思うことは多々ありますが、では具体的にはどうすれば? となると、ここはライブラリーですので、まずはアイデアを生み出す本や発想術の本を手に取ります。もちろんそれは正攻法。たくさんの示唆やヒントを手にすることができます。
が、今回紹介する『指を置く』を手にし、まさに「指を置いて」得た体験には、他では味わうことのできない、新鮮な発想の発露があるのです。

読む、というよりも体験する、参加する、当事者として関わるという読書のかたち。自分自身の指を置くことによって訪れる新たな気付き(それは画によって違います)を、考え、味わってみると、指が画に応じて、時に「視線」になり、「記憶」になり、「力点」になります。本と指先を媒介として、思考が本をはみ出し飛び越え羽ばたいていくのです。

自分の手が見えるということによって、自分を客観化するという認識もうまれる(p.187)

自分の手が見える、指が見えるというのは、あまりにも当たり前だからこその盲点です。加えて発想のはじまりは、実はとても身近にあるのだということに気が付きます。
指を置く、という行為を通して、新たな視点を得ることのできる、それは新しい読書体験です。

タイトルについて考えてみる

『指を置く』というタイトルに連れられて思い浮かんだのは、『蛇を踏む』『舟を編む』『納屋を焼く』といった「普通名詞+動詞」という組み合わせの文芸作品のタイトルでした。シンプルなタイトルには、潔さ、品性、そして挑戦的なニュアンスが感じられます。

最近、特にビジネス書の出版傾向として「長い」タイトルが流行っています。多忙なビジネスマンのニーズに応えるため、タイトルを読めば内容がわかる、というものが好まれるそうです。

本には本の数だけタイトルがあり、著者や編集者の想いが込められています。万人に届くタイトルというのはなかなか難しいものですが、少なからず書棚を眺めながら、「おっ」と気になったタイトルというのは、今のあなたの何かしらと共鳴をした、ということであり、手に取らない話はありません。なぜそのタイトルに導かれたのか? ふと立ち止まって考えてみるのも面白いかも知れません。
(ライブラリアン:結縄 久俊)


指を置く - 平面グラフィックの上に指が関与すると、どういうことが起きるか。

佐藤雅彦, 齋藤達也
美術出版社

蛇を踏む

川上弘美
文藝春秋

舟を編む

三浦しをん
光文社

螢・納屋を焼く・その他の短編

村上春樹
新潮社