六本木ヒルズライブラリー

ライブラリアンの書評    2021年3月

毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?






音楽は、新たなテクノロジーと共に発展してきました。
エレキギターとロック。ドラムマシンとクラブミュージック。サンプラーとヒップホップ。
あるいは「音楽を聴く」スタイルそのもの。
ラジオ、ウォークマン、CD、iPod、スマートフォン。音楽ビジネスを巡る歴史には、多くの夢、戦いと失敗、克服の物語があり、音楽を聴く行為自体が歴史そのものに立ち合っている、と言っても言い過ぎではありません。

その歴史はいつもエキサイティングです。
例えばSONYによるウォークマンは「誰もが、好きな音楽を、好きな時に、好きな場所で」音楽に触れることを実現しました。
あるいは世界に放たれたMTVのローカライゼーション戦略。あえて各国の個性を出すことで、世界各国のローカル音楽を発掘し、グローバルな音楽トレンドに多様性を与えました。
多くの物議を醸したナップスターの物語。音楽のフリー(自由)とフリー(無料)の問題は、フリーであるからこそ多くの人々に支持をされ、音楽配信のスタンダードを創り上げていきます。

音楽には「炭鉱のカナリヤ」的役割があり、ビジネスモデルを先取りすることがあります。例えば音楽業界が見出したサブスクリプションモデルは、今では音楽を超えて映像や書籍のみならず、自動車・アパレル・コンタクトレンズなど、あらゆる業界に拡がりつつあります。

iTunes以前にもダウンロード配信はあり、Spotify以前にも定額制配信はあり、google以前にも検索エンジンはあり、Facebook以前にもSNSはありました。雛型を研究し尽くし、完成形を見出したものが世界を制する。そのことを歴史が語ります。
ではこれからどうなるのか。今世界を覆うSpotify、Apple、YouTube、Netflixが永年に君臨し続けるかといえば、そうではありません。次の時代を担う萌芽は、すでに世に現れていて、時流が訪れることを待っています。

純粋に、心躍る音楽に出会い、ワクワクしたい。音楽を超えてビジネスも、いかに「ワクワク」を創り出せるのか。音楽をめぐる壮大な物語は、多くの示唆に富んでいます。

(ライブラリアン:結縄 久俊)

音楽が未来を連れてくる 時代を創った音楽ビジネス百年の革新者たち

榎本幹朗
DU BOOKS