六本木ヒルズライブラリー

ライブラリアンの書評    2020年11月

毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?



戦前、戦時中の光景として私たちが目にするのは、主にモノクロ写真を通してでした。本書は「記憶の解凍」プロジェクトという名のもと、モノクロ写真をAIによりカラー化する試みの記録です。
 
モノクロ写真がカラー化する。それは単純に驚きです。
 
花が色づき、光の明暗が立ち現われます。あるいは、戦線の爆撃による炎が赤々と燃えています。そしてモノクロだと気に留めなかった空の「青」が、私たちが見上げる青空と変わらないことに改めて気付き、過去と現在が地続きであることを実感させられます。
人々の表情が色彩を帯び、戦争で捕虜になった人たちが、悲観しきった表情ではなく、少し微笑んでいたりします。悲惨な状況下なのに、とは思いながらも、その生々しさを感じさせられます。
 
そこに写っているのは紛れもなく私たちの祖先であり、風景の中には自分の祖父や祖母が写り込んでいるかもしれません。記録ではなく、今によみがえる記憶。写真というものの力がダイレクトに感じられ、過去として時を止めていた風景が、新たに時を刻みはじめるように思えます。

  (ライブラリアン:結縄 久俊)



AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争

庭田杏珠、渡邉英徳
光文社