六本木ヒルズライブラリー
ライブラリアンの書評 2019年6月
毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?
「レンタルなんもしない人」、ご存知ですか?
→「レンタルなんもしない人」というサービスを始めます。
twitterを通して依頼を受け、「なにもしない」ことをする、というサービスを「レンタルなんもしない人(以下レンタルさん)」が開始したのが2018年6月。サービス開始からの1年で twitterフォロワー数16.8万人。TVやイベントへの出演、書籍出版、漫画化と、現在大きな注目を集めています。
どんな依頼があるかといえば、例えば「犬の散歩に付き合ってください」という依頼に、散歩に同行する(ただついていく)。
あるいは「部屋の掃除をしたいがひとりだとさぼってしまい、人がいることで捗ると思うので居てほしい」という依頼に、部屋にいる(結果部屋はきれいになり、感謝される)。 あるいは「自分の作ったご飯を食べてほしい」という依頼に、依頼者宅まで訪れご飯をご馳走になる(手土産までもらってしまう)。
ページをめくるたびに「なにそれ?!」とツッコミたくなる依頼の多様さ、その依頼にフラットに向き合うレンタルさんの姿勢が徹底していて痛快です。レンタルさんは必要経費(交通費、食事代など)以外の対価はもらいません。まるで資本主義の本質からは外れていますが、一日に何件もの依頼を受けるほど多くの需要があり、「なにもしない」ことが新たな価値を生んでいます。「知り合いだと身近すぎて気を使うから、レンタルさんくらいの距離感がイイ」という依頼者の発言には、まさに「今」が感じられます。
何かしなければならない?
人はいつの間にか「なにかする」ことが当然みたいになっています。でもよく考えてみたら、別に何もしなくていい。樹々や花、空や風のように、ただそこに居ればいい。禅的引き算を突き詰めれば、「なにもしない」=「ただいる」だけでいい。レンタルさんの日々語りを読むと、何かをしようとしている自分の窮屈さに気付きます。
「なんもしなくて楽だったけど感謝された」「なんもしないことの苦痛を感じた」
「なんかおもしろかった」「なんか気まずかった」
対価がないサービスを通して醸される、言葉になりきれないモヤモヤが、なにもしないことであらわになっていきます。レンタルさん本人はこの行為を「実験的」と言い、貯金を切り崩しながら「なんもしない業」を、まさに今も営んでいます(その様子は日々、twitterでつぶやかれています)。
でもある時思い立ち、レンタルさんが「なにもしない」ことを辞めて「なにかする」時がいつかは来るのでしょう。人生を賭けた壮大な実験を通して「なにもしない」をし続けたレンタルさんが「なにかする」としたら、いったいなにをするのでしょう?
できれば直接本人に聞いてみたいものです。twitterで問いかければ応えてくれるのかな。
(ライブラリアン:結縄 久俊)
レンタルなんもしない人のなんもしなかった話
レンタルなんもしない人晶文社
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