六本木ヒルズライブラリー

ライブラリアンの書評    2017年1月

毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?



大切とは思っていながらも、ついおろそかにしてしまうのが「よーく見る」ということです。

普段生活をしていると、日常を「思いこみ」や「慣れ」で見過ごしてしまいがちです。けれどもたとえば街を、それも毎日のように歩く通勤路で、街の一角で解体工事がされていて建物が無くなっていたりすること、ありますよね。そんな時、「あれ? ここの場所、前は何の建物だっただろう?」と思うこと、ありませんか。

「よく見ている」と思っていながらあまり見ていないことを痛感するのがそんなときです。


たとえばこちらの写真は、先日都内某所を訪れた際に撮ったものです(クリックすると拡大します)。

手前の階段を降りきってまっすぐ行くと、道路には「止まれ」の文字が書かれており、そこが谷の底のようになっていて、その向こうは上り坂になっています。

住宅が密集し、電柱から伸びる電線が四方に貼りめぐらされています。全部で10人の人の姿が写っており、皆黒っぽい服を着ています。左の方は石塀があり、提灯らしきものが並んでいます。その頭上には街灯があるので、暗くなると灯りがともるのかもしれない、ということが推測できます。
もっとよく見続ければ、他にもいろいろなことに気づくでしょう。


本書が説くのは、アート作品や名画を見るように日常を見るということ。美術館に赴いて目の当たりにする名画と対峙し、じっくりと眺めることは、わたしたちの「見る」力を養ってくれます。細部を見て、全体を見て、線や色彩に着目したり、画家の意図を想像したりする。その「よーく見る」行為に、新たな発見があるのです。


目の前に見える光景は同じはずなのに、起業家や発明家はそこに誰も見つけられなかったものを見い出します。新たなビジネス、イノベーションのヒントはどこか遠くの外部にあるわけではなく、目の前に隠されている。あとはそれを見つけられるかどうかです。


まるで子供のような目で世界を見ること。大切な物事は、実は目の前にある。本書を通して、目の前の光景は変わりませんが、目の前の光景を見るあなたの目が変わります。
あとはそれを「よーく見る」だけです。

(ちなみに写真はこちらの映画の一場面として、映画の舞台になった場所とされています)

(ライブラリアン:結縄 久俊)


観察力を磨く 名画読解

エイミー・E・ハーマン,岡本由香子
早川書房