六本木ヒルズライブラリー

ライブラリアンの書評    2017年7月

毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?



最近出版されている本からよく聞こえてくる言葉は、現代は「激動の時代」「古い価値観から新しい価値観が構築される時代」というものです。
実際そうなの?とは思いますが、スマホをはじめ、数年前まで無かったようなテクノロジーが世界を席巻し、当たり前のような顔をして日常生活に入り込んでいるのは事実です。

思いがけないところから、新たな価値観がやってくる。以前は是としていた価値観が、あっという間に過去のものになる。ではどこに軸を置き、これから先を見据えてゆけばよいのか?



今回紹介する『そもそも~つながりに気付くと未来が見える』は、「元来」「最初から」という意味をもつ「そもそも」という言葉がタイトル。
「原理に立ち返ること」をキーワードに、さまざまな角度からの思考を展開します。

中でも気に留まったのが、2016年の流行語大賞にノミネートされた「保育園落ちた日本死ね」からはじまる「言葉」にまつわる論。感情むき出しの言葉がSNSにおいて次々とタイムライン上を流れてゆき、読んだ側は共感/反発で反応する。思考を介さない単純な言葉、絵文字やスタンプで感情を表現することが、本来深みのある言葉自体が持つ力を失わせているのではないか、と筆者は指摘します。



そもそもコミュニケーションの手段として人類が獲得し、長い歴史の中で洗練させてきた「言葉」が、スマホ上では単純な伝達の手段として、細やかな感情の機微はたとえば「ニコニコマーク」のような記号に還元されてしまう。言葉の奥行きを欠いたコミュニケーションは、薄っぺらい文化の形成へと傾斜していく。そのことに筆者は危惧するのです。 

次々やってくるであろう新たな価値観に、「これでよいのだろうか?」と、原理から考える。激動の時代において問うべきポイントを見紛うことのないようにすべく、「そもそも」と思考することはやはり基本だと再認識させられます。



(ライブラリアン:結縄 久俊)


そもそもつながりに気付くと未来が見える—Everything is connected to everything else.

西きょうじ
新潮社