六本木ヒルズライブラリー

ライブラリアンの書評    2017年12月

毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?



お金が変わる?


タイトルにある「2.0」。ある概念が新たに更新されることです。けれども「お金」が更新されるとは、いったいどういうこと?

疑問を抱きつつ読み進めると、本書が扱うテーマの規模感が、とても広い場所、まるで大きな山の頂に導いてくれるような心地がします。

著者は2017年11月に開催された「未来自分会議」の登壇者、佐藤航陽氏。

本書にあるのはお金を稼ぐノウハウではなく、金融工学や経済学のトレンドなどでもなく、もっと大きな「お金」についての言葉です。日々の生活に深く関わる「お金」を、より明確に知るとともに、「お金」についてのこれからの常識が変わるであろうことが説かれていきます。




お金とは?

みなさんは「お金」というものにどのようなイメージをお持ちですか?

そもそもの生まれたころからお金は存在し、日々の糧のため仕事をするのが現代の常識です。が、その常識も長い目で見れば、数百年前に形作られたものでもあります。

お金が社会の表舞台に出はじめるのは今から約300年前。資本主義の発達とともに、お金は社会を動かす重要な要素になっていきます。そして現代、ITをはじめとする新たなテクノロジー、フィンテックや仮想通貨でもって、また次の未来にシフトしようとしています。形ある「現金」はデジタルデータに代替されながら、日本におけるキャッシュレス化も今後は進んでいくことが予想され、この先ベーシックインカムをはじめとする社会制度が整備されれば、お金を稼ぐために仕事をすることも無くなるかもしれません。

今の20代前半くらいの人たちの話を聞けば、就職先は企業の看板よりも、自身の満足度を得られるかどうかで選ぶそう。仕事は食べるための「ライスワーク」ではなく、人生を賭ける「ライフワーク」であると、肌感覚で理解しているかのようです。ブランド品にはあまり価値を感じず、お金はもちろん欲しいけれども、それよりも精神的な満足の方が重要だと。それはお金に対しての考え方が変わりつつあることのあらわれでもあります。




経済=自然から起こったもの

経済とは人類が発明し、長い歴史の中で発展させてきたシステム。元をたどれば自然から発生したものです。自然は自ら秩序を保つようにできており、秩序を保つために変容を続けることを自然が求めるのであれば、お金を中心とした経済の概念が変わっていくことは、想像に難くありません。

本書で取り上げられる、イギリスの作家、ダグラス・アダムスの言葉。
“人間は、自分が生まれた時にすでに存在したテクノロジーを、自然な世界の一部と感じる。15歳から35歳の間に発明されたテクノロジーは、新しくエキサイティングなものと感じられ、35歳以降になって発明されたテクノロジーは、自然に反するものと感じられる。”

さまざまなテクノロジーの発達は、人が抱く常識を「本当にそうなの?」と問い直します。当然ながら常識は、日々刻々と変化していき、伴って人も、価値観や生き方を変容していかざるを得ません。

もうすぐ終わろうとしている平成という時代、そして東京オリンピックの開催。
大きな節目を前に、どのような世の中になろうとも、自身が感じる価値の軸をはっきりと持つこと。
個々人それぞれの立ち位置を確かめつつ、来たる未来を見上げ、足元の自然を見失わずにいることの大切さを、本書を通して強く感じます。



(ライブラリアン:結縄 久俊)


お金2.0—新しい経済のルールと生き方

佐藤航陽
幻冬舎