本から「いま」が見えてくる新刊10選 ~2024年7月~
毎日出版されるたくさんの本を眺めていると、世の中の”いま”が見えてくる。
新刊書籍の中から、いま知っておきたい10冊をご紹介します。
今月の10選は、『みんなの都市 初心者のための都市計画マニュアル』、『Apple Vision Proが拓くミライの視界 スマホがなくなる日』など。あなたの気になる本は何?
世界に目を転じても、2050年には地球上の都市居住者の割合は68%を超えると予測され、もはや世界のどこに暮らしていても、都市に無関係な人はほとんどいないと言えるでしょう。
チェコのプラハを拠点とする建築家、教育者であるオサム・オカムラによって著された本書は、現代の都市が抱える14の課題を取り上げてゆき、
最終章でその解決策となり得る優れた事例を紹介する、という内容。
都市が持つ課題は世界中で共通項が多く、グローバル経済と切り離せないものであることに改めて気付かされます。
この本がユニークなのは、絵本や図鑑のような体裁をしていること。
実際に、優れた児童書に送られるボローニャ・ラガッツィ賞の一部門を受賞しています。決して平易な内容ではないのですが、文章はコンパクトにまとめられ、写真には独創的なデザインの都市模型を使用し、随所にグラフィカルなタイポグラフィを用いるなど、視覚的に楽しめる要素が多く、若年層の読者や専門外の読者にも親しみやすい工夫がなされています。
「みんなの都市」というタイトルが示すように、都市をよりよくしていくには、専門家だけでなくそこで暮らす人々の参加も重要であると本書には書かれています。
現代都市の課題を知りつつ、自分ごととしても考えていきたいときに、手に取っていただきたい1冊です。
家の哲学 家空間と幸福
植物について思考を巡らすことで人間という存在を捉え直す『植物の生の哲学』等の著作で知られる、イタリアの哲学者エマヌエーレ・コッチャ。コロナ禍中の2021年にイタリアで出版された本書は、プライベートな領域であるあまり、哲学の対象として語られてこなかった「家」についての省察です。明快な結論が出るタイプの本ではないですが、住むこと、暮らすことが、いかに、そしてどこまで世界とつながり得るかについて考えさせられます。
働くということ 「能力主義」を超えて
仕事をする中で「あの人は能力が高い/低い」「あの人は〇〇力がある/ない」と人を評価してしまうことはないでしょうか。このように能力で人を評価・選抜する”能力主義”に対して著者は疑問を呈します。組織開発を専門とする著者は、このような個人に帰属する”能力”と考えられているものは、人と人の関係性や環境によって変化するものであると説きます。自助や自己責任論とは異なる視座をもって、他者と共に働くことの可能性を提示してくれる1冊です。
図書館には人がいないほうがいい
現代思想から武道まで様々な著作で知られる内田樹氏は、隣国の韓国でもいくつも翻訳本が出版されている人気の作家です。この本は、「図書館や書物」について、内田氏が日本語で書いたものや
語ったことを、韓国の編集者がまとめて韓国で出版されたものの翻訳版。タイトルだけでなく、「図書館は人間の無知を自覚するための装置である」など、印象的なフレーズが随所に現れます。効率性や合理性に還元することが難しい、本や図書館の存在意義について深く考えさせられます。
WAYS OF BEING 人間以外の知性
テクノロジーと自然をテーマにしたアーティスト、ジャーナリストであり、WIRED誌で「ヨーロッパで最も影響力のある100人」にも選ばれたこともあるジェームズ・ブライドル。微生物からAIまで、タイトル通り人間以外のあらゆる知性を1冊の本の中で論じ、「知性とは何か」を問いかけます。非常に広範囲にわたる知識やリサーチをもとに書かれる本書は簡単には読み解けませんが、自然とテクノロジーと人間の関わり方が捉え直される現代において、重要な思考の転換を示してくれる本ではないかと思います。
AIは短歌をどう詠むか
メディアアートと広告制作を経て、朝日新聞の自然言語処理の研究機関に転職した著者による初の単著。タイトルの通りの内容ですが、AIが言語をどのように生成するかについての基本的な知識から、短歌の詠み方と読み方、そして言葉とは何かという事まで考えさせられます。AIを必ずしも敵対的なものではなく、人と共存し、創造性を拡張していく触媒として捉えているところは、非人間の知性と新たな関係を築く試みという点で、前掲の『Way of being』にも通じる内容です。
テヘランのすてきな女
イラストレーターである著者が、イランの女子相撲の体験記を書くという企画からスタートした本書。しかし、2022年秋にテヘランで起こった「反スカーフデモ」をきっかけに、テヘランに住む女性たちの生の声を聞いていく内容に方向転換していきます。日本では情報の少ない国の人々のことは、「〇〇人」というようにひとまとめにとらえてしまいがちですが、一人一人異なる物語を生きていることを改めて気付かされます。
企業変革のジレンマ 「構造的無能化」はなぜ起こるのか
経営学者、宇田川元一による3冊目の単著。副題にある「構造的無能化」とは、効率的・合理的な事業推進を優先した結果、分業化が進み、組織内の視点が硬直し、環境変化への適応力がなくなっていくことを指します。この状態を脱し、組織の自己変革を起こしていくための手法について著者の実践をもとに書かれたのが本書です。リーダー層に限らず、自分の所属する組織の課題を客観的に捉えるヒントになるのではないでしょうか。
Apple Vision Proが拓くミライの視界 スマホがなくなる日
今や、何をするにも欠かせないツールとなったスマートフォン。それが別のものに置き換わることは想像しにくいですが、それを可能にするのは本書で取り上げられる「Spatial Computer(空間コンピューター)」かもしれません。タイトルにあるAppleだけでなく、大手テック企業がこぞって巨額の資金を投じる空間コンピューター技術とはどんなもので、人々の生活をどのように変えるのか。また、本書では、「スマホがなくなる日」は日本再興のチャンスと捉えているのですが、その理由とは。10年先の未来に向けて、おさえておきたい一冊。
みんなの都市 初心者のための都市計画マニュアル
オサム・オカムラ鹿島出版会
家の哲学 家空間と幸福
エマヌエーレ・コッチャ勁草書房
働くということ 「能力主義」を超えて
勅使川原真衣集英社
図書館には人がいないほうがいい
内田樹アルテスパブリッシング
WAYS OF BEING 人間以外の知性
ジェームズ・ブライドル早川書房
AIは短歌をどう詠むか
浦川通講談社
テヘランのすてきな女
金井真紀晶文社
企業変革のジレンマ 「構造的無能化」はなぜ起きるのか
宇田川元一日本経済新聞出版
Apple Vision Proが拓くミライの視界 スマホがなくなる日
渡邊信彦幻冬舎
わたしたちの担うもの
アマンダ・ゴーマン文藝春秋
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