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日本元気塾セミナー
新しい時代をどう乗り越えるか ~いま歴史から学ぶということ~

“歴史”は過去からの贈り物
温故知新で探る新たな時代の生き抜き方

更新日 : 2017年12月19日 (火)

【後編】時代を超える普遍的な発想から見てくるもの

時代を超える普遍的な発想から
大局的に物事を捉える大切さが見えてくる



自らを「歴史オタク」と称する出口氏の講義。その始まりは「歴史は一つしかない」というアグレッシブな一言から展開されていきました。「歴史は過去の出来事。100%再現はできないが、調べたり考えたりして真実に近づいていこうとする学問だ」と、出口氏。そんな発想に基づき、鎖国政策前後における日本のGDP(国内総生産)という興味深い切り口で話は進んでいきます。

日本は鎖国するまで、銀の大産出国として活発に輸出を行っていました。当時、世界に占める日本のGDPシェアは4~5%という高い数値を示しており、その比率は現代とそれほど変わらないレベルだったのです。
しかし、鎖国が始まり状況は一変。日本が内に閉じこもっていく一方で、世界では産業革命や国民国家など西洋を勃興させる大きなイノベーションが起こりました。その結果、日本のGDPは相対的に低下し、江戸時代末には2%前後にまで落ち込んでしまいます。海外の情報を絶ち、内向きになっていった状況下では、むしろ当然の結果だったと言えるかもしれません。

米倉氏の話にもあった通り、1853年のペリー来航は日本の歴史を変えるエポックとなりました。当時、老中首座を務めていた阿部正弘は、幅広く人材登用を行い鎖国から開国へという政策転換を成し遂げます。彼は結果的に「開国して富国・強兵を果たさねば、この国に未来はない」という大きな決断を下しました。
ちなみに「阿部正弘の決断は明治維新の青写真の礎でもあり、長い目で見れば第二次世界大戦後の吉田茂首相が取った政策にも通ずる」と出口氏。江戸時代末の政治を司った一人の発想が、時を隔てて100年以上先の歴史にも影響を及ぼしているとも言えるのです。こうした連鎖が起こり得たのは、時代の情勢を大局的に見つめた、ある意味普遍的な政策だったからだと考察できます。これらの歴史上の結びつきは、目の前の状況、情勢だけではなく、より俯瞰的に全体をとらえて物事を考えることの大切さを現代の私たちに教えてくれているのではないでしょうか。


絶えず変化し続ける歴史
現実を直視し、必要な情報を集めて判断することが未来を拓く
 米倉氏と出口氏による対談では、幕末から明治に至る歴史を踏まえ、現代の日本において必要とされるスタンスや行動力について、お二人の熱い意見が交わされました。
まず、米倉氏は「現在の日本は『日本は大国だ』『国際社会でも国力が高い』という“錯覚”に陥っている」と指摘されました。出口氏も、第二次世界大戦時の例を引き合いに出して賛同。「確かにこの20年、日本のGDPは横ばいで、生産性から見ればG7の中で24年連続最下位です。日本人はもっと直面している現実に対して危機感を持つべきだ」と、共感したうえで警鐘を鳴らしました。


それを踏まえて、講演で取り上げられた幕末から明治期の歴史と結びつけながら、現代日本を生き抜くには「積極的に国内外から情報を集めること」「そのうえで的確な判断力を養うこと」が必要だ、と提唱されました。「あふれる情報を自ら解釈し、自らの言葉で伝えていけるかどうかが大切です」と、米倉氏。出口氏も「歴史、すなわち過去の事実こそ、変化に対応するための教材。そこから得られる学びは、現在の世界にも応用できる大きなヒントになる」と述べられました。

歴史は、あらゆる変化の集積です。社会情勢が変わり、外部環境が変わり、世の中の常識や発想が変わるなかで、歴史は動き続けてきました。その変化のスピードが高まっている現代でも、根幹を成す大切なこと——主体的にたくさんの情報を取り込み、考え、判断する——は、変わることなく存在し続けていくと言えるでしょう。幕末から明治期の混沌たる時代の歴史は、現代社会を生きる私たちに有意義なヒントを贈ってくれているのです。(了)



関連書籍


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該当講座


新しい時代をどう乗り越えるか
~いま歴史から学ぶということ~
新しい時代をどう乗り越えるか ~いま歴史から学ぶということ~

出口治明(ライフネット生命保険㈱ 創業者)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長)
自ら歴史オタクを広言し『仕事に効く教養としての「世界史」』(祥伝社)等、ビジネスパーソンに向けても歴史から学ぶ大切さを訴える出口治明氏をお迎えし、4月に『イノベーターたちの日本史:近代日本の創造的対応』(東洋経済新報社)を上梓した歴史家・米倉誠一郎氏と、いま改めて“情報を感受し”“行動を起こす”ことについて、歴史から学びたいと思います。


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