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石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
MIT Media Lab CREATIVE TALKより

時代を超えるビジョンが、独創未来を創る

キャリア・人グローバル
更新日 : 2014年01月10日 (金)

第3章 タンジブル・ビットの原点

石井裕(MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts

 
情報と身体の結合

石井裕: この世界にある知識・情報(knowledge)を、どのように表現するのか、これが私の研究の出発点です。現在、あらゆるディジタル情報は「ピクセル」(画素)で表現されています。情報はフラットなスクリーンの裏側に閉じ込められており、実体がなく、触れることのできないインタンジブル(intangible)な表現となっています。しかし、私たちが実現したいのは、表現のなかに情報と人間とを直接的につなぐインターフェースが埋め込まれている表現、直接触れて操作できるタンジブル(tangible)な表現です。

我々が暮らす地球は太陽系の一惑星です。太陽を中心とする衛星群の動きを表現したものが「太陽系儀」です。非常に美しい工芸品で、太陽系に関する知識や情報を、シンプルかつ明快な形で表現しています。

太陽系儀には、ハンドルがついています。実はこれが、情報の表現と人間の身体を直接的につなぐ重要なインターフェースとなっています。人間が無意識にこのハンドルをつかみ回した瞬間、骨や筋肉、神経系は、太陽系を動かすシステムの一部となります。その結果、太陽系の惑星や衛星が回転し始め、天体の仕組みが理解できるようになる。まさに、情報と身体との結合です。情報に物理的実体(physical embodiment)を与え、直接触れられるようにする。そして、自分の身体がシステムの原動力にもなり得る。タンジブル・ビットに関する研究の出発点は、太陽系儀なのです。

GUIとTUI

石井裕: 情報はデジタルの海の底に沈んでいます。水面の上から底に沈んだ情報をのぞき見ることはできますが、直接触れることはできません。よって、マウスやキーボード、あるいはタッチスクリーンといった「リモート・コントロール」に頼らざるを得ない。これがGUI(Graphical User Interface)です。

TUI(Tangible User Interface)は、GUIとはまったく異なります。これまで水面の下に沈んでいた情報を、氷山の上端部(the tip of the iceberg)のように、物理的実体として水面上に表出させる。すると情報は、直接触り、操作できるものとなります。これがTUIの基本原理です。GUIの世界において、情報の表現とコントロールの間には、明確な境界線がありました。TUIの世界では、情報を物理的実体として表現することで、情報の表現とコントロール、あるいはインプットとアウトプットの間にあった境界線がなくなります。

“Eyes are in charge, but hands are underemployed.”
これは重要な示唆を含んだ言葉です。テレビやスクリーンから放たれる情報=フォトン(光の粒子)は非常にパワフルです。もしも、みなさんが受動的に情報を消費するだけの人間であれば、ソファに座り、ポテトチップス(あるいはおせんべい)を食べながら、単にフォトンを網膜で受け止めている間に、時間はどんどん過ぎて行ってしまいます。しかし、クリエーターであれば、受け取った情報を何らかの形で表現し、外化・発信しなければなりません。そのために手を使わなければいけない。たとえば、作曲家であれば、情報を楽譜に落とし込む前に、まず自分の指で鍵盤を叩き、音を奏でなければならない。人間の身体は、情報の表現とどのように一体化するのか?

この大きな問いの原点は、私が幼い頃に遊んでいた「そろばん」にあります。そろばんの優れた点の1つ目は、十進数という情報を、直接指で珠を弾く動きと、珠の位置で物理的に表現できること。つまり、情報の表現とコントロールの境目がない。2つ目はアフォーダンス(affordance)。これを手にすれば、誰の説明を受けなくても、何ができるのかがひと目で分かる。計算だけでなく、子どもにとってのそろばんは、おもちゃの電車にもなる。背中がかゆければ、孫の手にもなる。

そろばんを使うには、GoogleやAppleの技術者の書いたマニュアルを精読する必要はありません。構造も非常にシンプルです。シンプルな構造だけが持つ、優れた透明性と分かりやすさは、現在のコンピュータにはありません。コンピュータの仕組みは内部のブラックボックスのなかに隠されており、動作原理を理解することも、内部で計算される情報に直接触れることもできないからです。

そろばんの持つ透明性と分かりやすさを、ディジタル・コンピューテーションの世界に持ち込むことが、私の目指した夢です。

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該当講座

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Vision-Driven: From Tangible Bits Towards Radical Atoms

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林千晶 (株式会社ロフトワーク 代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)

石井 裕(MITメディアラボ副所長)
林 千晶(㈱ロフトワーク代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第3回は、副所長の石井氏にお越しいただきます。メディア・アート、インタラクション・デザイン、そしてサイエンス・コミュニティーにおいて、石井氏らが発表してきた多様なプロジェクト例を紹介しながら、「タンジブル・ビッツ」から「ラディカル・アトムズ」へと至るビジョン駆動研究の発展の軌跡を描写します。


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