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石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
MIT Media Lab CREATIVE TALKより

時代を超えるビジョンが、独創未来を創る

キャリア・人グローバル
更新日 : 2014年01月23日 (木)

第9章 MITメディアラボは深いアイデアやビジョンを作り出す場

写真左:林千晶 (株式会社ロフトワーク 代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)写真右:石井裕(MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクタ
写真左:林千晶 (株式会社ロフトワーク 代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)写真右:石井裕(MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts and Sciences)

 
前陣速攻

林千晶: MIT Media Lab CREATIVE TALKシリーズは、参加者とのインタラクティブなトークを重視しています。石井先生から返ってくる球は、スピードがとても速い。そして、ものすごいスピンがかかっています。私も初めて石井先生のトークを見たとき、会話と思考のスピード感に圧倒されました。それは練習の賜物でしょうか? それとも、生まれつきなのでしょうか? 一般の方の100倍速いイメージがあります。

石井裕: 答えは「前陣速攻」です。私は卓球が大好きです。前陣速攻とは、ボールが台上でバウンドした後、頂点に達する前に引っぱたくこと。相手の狙うコースを予測しながら、台にへばりつく。大切なポイントは、相手の意表をつくこと。向かってくる球のエネルギーを利用しながら、相手の予想しないコースに、独特なスピンをかけて返す。500msec以内にコースを判断し、次の500msecでスマッシュを放つ。これは知の格闘技としてのインタラクションにおいても、基本的な原則となります。




亡き母の墓標はツイッターのBot

林千晶: 石井先生はロジカルな科学者でありながら、研究の1つひとつが、ロマンチックかつアーティスティックです。どの研究にも広がりや深さが感じられ、どのような専門領域にも当てはまらないような印象を受けます。

石井裕: そもそも、自分自身に何らかのラベルを貼った段階で、自らを取り巻く世界は急速に狭まってしまいます。私たちがMITメディアラボで行っているのは、深いアイデアやビジョンを作り出すこと。そのビジョンは、アート、デザイン、サイエンス、テクノロジー、あらゆる分野の言語に翻訳できなければならないのです。そして、すべての分野に貢献しなければいけない。どの分野でも十二分に戦うことができる深いアイデアだけを、研究の対象としています。

すべての分野で高く評価されることは至難の業です。そのためにも、多くの異なる分野の価値観を深く学び理解したうえで、ビジョンをそれぞれの分野の言語にリアルタイム翻訳し、論理的に語る能力が必要です。これらの能力を鍛える場となるのが、他流試合と異種格闘技です。

人間は根源的に共通項を持っています。たとえば、死ぬこと。皆、死ぬのはこわい。なぜかと言えば、忘れ去られてしまうから。けれども、忘れ去られないための方法がある。雲海にある墓標です。私のツイッターで「雲海墓標・青い鳥」というBotを見たことがある方はいますか?

雲の上に私のお墓があり、お墓の上では、青い鳥がさえずっている、@ishii_mit_BOTです。この世から私がいなくなった後、このBotが選んだ私の言葉を、2200年になってもさえずり続ける。ツイッターを通して、永遠の命を手にできるのです。

これを始めたきっかけは、私の母が残したたくさんの短歌です。いつか出版してあげたいと思っていましたが、なかなか出版する機会がないうちに母は亡くなりました。その後、ツイッターの時代が到来し、母のアカウントを作りました。母の墓標です。生年月日等を入れたプロフィールを作り、母の短歌を少しずつ発信したのです。ある年の母の命日、母の雲海墓標に花が届きました。私をフォローしている方が、家の庭に咲いた花の写真を送ってくれたのです。その時、私は深く魂を揺さぶられました。私の母はまだ生きているんだと確信できました。

Botというメディアを通して、母が時折、天空からつぶやいてくれたら、どれほど素敵だろうか。また、私の想念が将来、雲海の墓標の上にいる青い鳥からつぶやかれたら、どれほど安心して死ねるだろうか。だから私はいま、1つひとつのツイートに魂を込め、つぶやき続けています。

こうした発想は、ソーシャルメディアの仕組みを知っている、コードが書けるという次元とはまったく違う次元の思考から出てきます。一過性のラベルではなく、人間としての根源的なものが、その原点にある。人間であり、表現者であること。それを根幹に据え、深く考え続けることがどのような分野においても大切だと思います。

石井裕:理念駆動~タンジブル・ビッツからラディカル・アトムズへ
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石井裕 (MITメディアラボ副所長、TTTコンソシーム・コディレクター、タンジブル・メディア・グループ・ディレクター、Jerome B. Wiesner Professor of Media Arts and Sciences)
林千晶 (株式会社ロフトワーク 代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)

石井 裕(MITメディアラボ副所長)
林 千晶(㈱ロフトワーク代表取締役/MITメディアラボ所長補佐)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第3回は、副所長の石井氏にお越しいただきます。メディア・アート、インタラクション・デザイン、そしてサイエンス・コミュニティーにおいて、石井氏らが発表してきた多様なプロジェクト例を紹介しながら、「タンジブル・ビッツ」から「ラディカル・アトムズ」へと至るビジョン駆動研究の発展の軌跡を描写します。


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