六本木ヒルズライブラリー

ライブラリアンの書評    2019年2月

毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?




<問い> 世界の平均寿命は現在およそ何歳でしょう?
 A. 50歳
 B. 60歳
 C. 70歳
 (本書より引用)


「昔はよかった」とは、若い頃に年長者の発言として耳にしていた言葉。歳を重ねると実感を伴いますが、それはつまり「今は昔に比べてあまり良くない」と感じてしまっているということ。ところで実際のところ、世界は良くなっているのでしょうか? 悪くなっているのでしょうか? 

今なお目を覆いたくなるような事件は起こり、世間を騒がせます。悪い出来事が、まるで世界を覆っているような気さえします。世界はどんどん悪くなっている。昔はよかったと言いたくもなるでしょう。

が、本書に示された統計データはそれとは反するものです。例えば世界の乳幼児の死亡率、1800年に44%だったものが、2016年には4%まで下がりました。そして15歳以上の識字率、1800年には10%だったものが、2016年には86%まで上がっています。つまりデータによれば世界は「良く」なっています。

ただ人は本能的に、世界は悪くなっていると思い込みたがり、過去を美化したがる生き物です。現代における様々な状況は「よくなっている」「悪くなっている」その両方があり、個々の事象に目を向けてみれば、いずれも両立しています。




<問い>世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年間でどう変わったでしょう?
 A. 約2倍になった
 B. あまり変わっていない
 C. 半分になった
 (本書より引用)


例えば発展途上国はいつまでも発展途上国であるわけではなく、すでに発展の時期は終え、熟成された社会を形成していたりします。貧困国は今でももちろんあるのですが、以前に比べればだいぶ減少しています。世界は「金持ち」と「貧乏」という分断された世界ではなく、その多くは「中間層」に位置しています。

世界は悪くなっている。そう思うことはあるのですが、しかし次世代に悪くなっていく世界を渡すことは本意ではありません。世界は少しずつ、しかし確実に変化し続けており、過去に学んだ記憶を現在に照らしてアップデートする、それもし続ける必要があります。でなければ、私たちはいつまでも過去に留まったまま、現在の目線で世界の姿を感じることができません。




まずは本書から(そしてライブラリーの窓外に広がる)、まさに今「2019年」の世界の姿を見つめてみましょう。
 

  (ライブラリアン:結縄 久俊)
  
 

FACTFULNESS:10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく

H.ロスリング他
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