六本木ヒルズライブラリー

ライブラリアンの書評    2015年6月

毎日続々と新刊書籍を入荷するライブラリー。その数は月に200~300冊。
その書籍を司るライブラリアンが、「まさに今」気になる本は何?

「四半世紀前⇒今」に続くデザイン思考

『誰のためのデザイン?』
D.A.ノーマン【著】 新曜社【出版】


「まさに今」の世相を表す、ライブラリーの書棚。俯瞰していると浮かびあがってくる、最近気になるワードが「デザイン」です。

以前はグラフィックデザインや、広告デザインなどの書籍が主でしたが、最近は「デザイン思考」「デザイン感覚」といった「デザインを用いて」というタイトルが多く見られます。

本書は初版が1988年。四半世紀前に書かれたものの増補・改訂版です。なぜこの本があえて今、書店の新刊コーナーに平積みされるのでしょう? それは本書の内容が、未だ古くならずに普遍を帯びており、かつ、時代が要請しているからです。

根底にあるのはタイトルそのまま「誰のためのデザイン?(原題は「The Design of Everyday Things」)」です。作り手の都合ではなく、使う側の立場を最重要とすること。その行為を享受する誰かしらが、少しでも快適になるには、どうすればよい? と問い続けること。

その場合、デザインという言葉は「配慮」に置き換えても良いかも知れません。「おもてなし」よりもさりげない、まるで空気のような配慮。情報技術やテクノロジーが目覚ましい発達を遂げ、音を立てて時代が変われども、基本は使う側/受け手/顧客の事を思うこと。その普遍を改めて現代に問う一冊です。

ほんの数ミリでもデザインに近付くために

当然ながら、デザインをひとことで言い表すのは困難です。しかし困難だからといってアプローチをしない話もなく、その多面性を知り、時に実践してゆくことで、よりデザインに近付くことができます。

『ノンデザイナーズ・デザインブック』
殊に印刷物のデザインについて、たとえ素人でも本書の基本原則を知ることで、ものの見方が変わります。例えば電車の吊り皮広告。広告の内容だけでなく、そのデザインを読み解く力を得ること。すなわち新たな視点の獲得です。

『101デザインメソッド』
本書に紹介された技法を実践することで、ひとつの問題にも様々なアプローチを試みることができます。イノベーションを成功に導くための、より具体的な方法に溢れています。

『考現学入門』
直接的なデザイン本ではないですが、考古学ならぬ考現学は、とにかく観察が基本です。あらゆるデザインの基本となる「よく見ること」を、一歩踏み込んで知ることができます。
(ライブラリアン:結縄 久俊)


誰のためのデザイン?:認知科学者のデザイン原論

ドナルド・A.ノ−マン
新曜社

ノンデザイナーズ・デザインブック

Williams,Robin【著】 吉川 典秀【訳】
毎日コミュニケーションズ

101デザインメソッド

ヴィジェイ・クーマー【著】 渡部典子【訳】
英治出版

考現学入門

今和次郎【著】 藤森照信【編】
筑摩書房