記事・レポート

SFアポカリプス

アポカリプスは黙示録

更新日 : 2009年02月06日 (金)

第3章:サイエンス・フィクション

『海底二万海里』

澁川雅俊: 今回のテーマのもう1つのキーワードはSFですが、それはもちろんサイエンス・フィクションです。正しくはサイエンス&テクノロジー・フィクションと言うべきでしょう。

なぜなら、科学は事物事象の原理を追究し、その成果に基づいて技術が人間に有益な器機機械類を考案・制作し、産業がそれを普及するのがものの順序だからです。ノーベル化学賞下村脩氏がクラゲの蛍光タンパク質の発見したのは科学のレベルで、技術のレベルで細胞の中のたんぱく質に“光る目印”をつけることで、その動きを調べることができるようになるのです。

SFには、SF映画、SF漫画、SFアニメなどの別のジャンルもあります。ここではSF小説を念頭に置いていますが、SF小説とは何かといったテーマについては、少々古い本でライブラリーに架蔵されていませんが、ミステリー作家の笠井潔が『SFとは何か』(1986年日本放送出版協会刊)でセルバンテスから80年代にいたる近代文学の多様な作品群の中での位置づけを試みているようです。他に『現代SFの歴史』(ジャック・サドゥール著、鹿島茂訳、1984年早川書房刊)(これも架蔵していない)もあります。

『やさしいダンテ〈神曲〉』
『ダンテ「神曲」講義』
●『海底2万マイル』がSFのはしり

文学史上SFはすでに神話などにその萌芽があるといわれています。例えば「旧約聖書」の創世記や「古事記」の国造りは十分に科学的空想をかき立てます。とりわけ創世記の、神が、混沌とした暗黒の世界にまず光りによって昼夜をつくり、次いで天と地をつくり、その後順次、天に太陽や月や星を配し、海に魚を生ませ、大地に鳥や獣を生ませ、人をつくって魚や鳥や獣を支配させた下りは、何千年か前の人々の科学認識によるものでしょう。

SF研究者たちは、そこまで遡らなくとも『竹取物語』(川端康成現代語翻案、ドナルド・キーン英訳、1998年講談社インターナショナル刊)やダンテの「神曲」(今道友信『ダンテ「神曲」講義』2004年みすず書房刊、および阿刀田高『やさしいダンテ〈神曲〉』2008年角川書店刊)などをSFのはしりとして挙げています。たしかに月の世界と地球上の現世の違いの意識や月からの飛来、あるいは月への飛渡願望の物語は千年前の科学認識が反映していますし、ダンテはガリレオやコペルニクス以前の天動説に基づいて天国篇を構成しています。

『竹取物語』

しかしなんと言っても本格的SFの始まりは、19世紀フランスの作家ジュール・ヴェルヌの書いた数々の小説でしょう。ヴェルヌは、『地底探検』、『月世界旅行』、『海底二万海里』(2002年福音館書店、初版73年刊)、『八十日間世界一周』、『神秘の島』など科学的空想をモチーフとした冒険小説を書き、世界中の読者を長い間魅了してきました。謎の人物ネモ船長が極秘裏に建造した新鋭潜水艦ノーチラス号で世界中を駆けめぐる冒険譚『海底2万マイル』は 1870年に出版されており、米国原子力潜水艦ノーチラス号が建造されたのは1954年のことです。
(その4に続く、全7回)

※このレポートは、2008年10月9日に六本木ライブラリーで開催したカフェブレイク・ブックトーク「SFアポカリプス」を元に作成したものです。

※書籍情報は、株式会社紀伊国屋書店の書籍データからの転載です。

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